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平成18年広審第34号
件名

貨物船第二住星丸貨物船イン グァン5衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月6日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(橋本 學)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:第二住星丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第二住星丸・・・左舷船首部フェアリーダーを破損
イン グァン5・・・右舷後部外板に凹損,ブルワークに曲損

原因
第二住星丸・・・居眠り運航防止措置不十分,追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
イン グァン5・・・警告信号不履行,追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第二住星丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,イン グァン5を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,イン グァン5が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月25日01時35分
 瀬戸内海備後灘
 (北緯34度12.8分 東経133度16.4分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二住星丸 貨物船イン グァン5
総トン数 498トン 2,398トン
全長 73.85メートル 87.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 第二住星丸(以下「住星丸」という。)は,平成4年12月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか3人が乗り組み,鋼材1,706.955トンを積載し,船首4.0メートル船尾4.9メートルの喫水をもって,同17年10月24日21時30分広島県呉港を発し,大阪港へ向かった。
 出港後,A受審人は,単独3時間交替4直制と定められた当直時間割に従い,翌25日00時20分来島海峡航路の東側出入口付近で昇橋して前任者から船橋当直を引き継ぎ,00時30分竜神島灯台から102度(真方位,以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき,針路を備後灘の推薦航路に沿った056度に定め,機関を全速力前進の回転数毎分305にかけ,連れ潮に乗じた11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定灯火を表示して,自動操舵によって進行した。
 ところで,当時,A受審人は,00時から03時までが当直時間であったが,目覚し時計を掛け忘れたことから寝過ごしてしまい,船橋からの呼び出し電話で起こされて急いで昇橋したものの,寝起き直後であったことから,未だ眠気が残っている状態であった。
 定針後,A受審人は,船橋内の左舷側前面に備えられている肘掛けと背もたれの付いたいすに腰を掛け,1人で船橋当直に当たっていたところ,前示状態であったことなどに起因して,眠気を催すようになり,そのままいすに腰を掛けていると居眠りに陥るおそれがあったが,これまで当直中に居眠りしたことがなかったことから,まさか居眠りすることはあるまいと思い,船橋に備えてあった居眠り防止装置を作動させるなり,いすから立ち上がってウイングに出るなりして,居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったので,01時15分ごろ備後灘航路第2号灯浮標を過ぎた辺りで,いつしか居眠りに陥った。
 そして,01時28分A受審人は,高井神島灯台から290度1.0海里の地点に至ったとき,左舷船首40度800メートルのところに,イン グァン5(以下「イ号」という。)が表示する船尾灯を視認することができ,その後,同船を追い越す態勢で接近する状況となったが,既に居眠りに陥っていたことから,その存在に気付かず,確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかる針路とすることなく続航した。
 こうして,01時32分A受審人は,イ号との方位がほとんど変わらず,同船から330メートルのところまで接近して,衝突のおそれがある状況となったが,依然として,居眠りに陥ったまま,その進路を避けることなく進行中,01時35分高井神島灯台から010度1.1海里の地点において,住星丸は,原針路,原速力で,その左舷船首部が,イ号の右舷後部に後方から15度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,視界は良好であった。
 また,イ号は,中華人民共和国(以下「中国」という。)の国籍を有する二等航海士Bほか同国人10人が乗り組み,鋼材3,118.2トンを積載し,船首4.5メートル船尾6.0メートルの喫水をもって,同月20日07時38分(現地時間)中国の南通(ナントン)港を発し,静岡県御前崎港へ向かった。
 出港後,B二等航海士は,4時間交替3直制と定められた,00時から04時及び12時から16時の時間帯に入直して日本の領海に至り,25日00時00分(日本標準時,以下同じ。)来島海峡航路第9号及び同第10号灯浮標を過ぎた辺りで前直者から船橋当直を引き継ぎ,甲板手1人を補佐として備後灘推薦航路の右側に沿って東行したのち,01時28分高井神島灯台から315度1.1海里の地点に達したとき,針路を071度に定め,機関を全速力前進の回転数毎分500にかけ,連れ潮に乗じた9.0ノットの速力で,法定灯火を表示して,自動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき,B二等航海士は,右舷正横後35度800メートルのところに,住星丸が表示する白,白,紅の3灯を認め,01時32分同船がその方位にほとんど変化がないまま,自船から330メートルのところまで接近して,衝突のおそれがある状況となったが,警告信号を行わず,さらに接近しても,衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 こうして,B二等航海士は,その後も,同じ針路,速力で進行中,前示のとおり衝突した。 衝突の結果,住星丸は左舷船首部フェアリーダーを破損し,イ号は右舷後部外板に凹損及びブルワークに曲損を生じたが,のち,いずれも修理された。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,瀬戸内海備後灘において,住星丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,イ号を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが,イ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,瀬戸内海備後灘において,肘掛けと背もたれの付いたいすに腰を掛けて船橋当直中,眠気を催した場合,そのままいすに腰を掛けていると居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,居眠り防止装置を作動させるなり,いすから立ち上がってウイングに出るなりして,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,これまで当直中に居眠りしたことがなかったことから,まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い,いすに腰を掛けた姿勢のまま,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,イ号を確実に追い越し,かつ,十分に遠ざかるまで,その進路を避けることなく進行して,同船との衝突を招き,自船の左舷船首部フェアリーダーに損壊を生じさせ,イ号の右舷後部外板に凹損及びブルワークに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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