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平成18年神審第63号
件名

引船鳳竜丸被引台船日東1号灯浮標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月29日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(加藤昌平,工藤民雄,横須賀勇一)

理事官
稲木秀邦

受審人
A 職名:鳳竜丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
鳳竜丸引船列・・・右舷側スパンワイヤに擦過傷
朝日礁灯浮標・・・頭標,同支持金具等に破損

原因
曳航索を短縮する措置がとられなかったこと

主文

 本件灯浮標衝突は,操業中の漁船群によって可航水域が狭められた海域を通航するにあたり,曳航索を短縮する措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月21日21時30分
 伊良湖水道
 (北緯34度34.1分 東経137度00.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 引船鳳竜丸 台船日東1号
総トン数 98トン  
全長 29.95メートル 60.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 551キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 鳳竜丸
 鳳竜丸は,平成2年1月に進水したコルトノズルプロペラを装備する鋼製引船で,船体前部から中央部にかけて船員室及び機関室囲壁を配し,その上層の前部に,レーダー,GPSプロッター,船舶電話,船灯用スイッチボード及び自動操舵装置を備えた操舵室を設け,船尾甲板に,曳航用ロープリール及び同リール駆動用ウインチを,機関室囲壁後部に曳航用フックを装備し,同フックから船尾端までは10.0メートル(m)となっていた。
 曳航索は,直径80ミリメートル(mm)の合成繊維製で,それぞれ両端をアイ加工した長さ100m,50m及び50mのロープが,曳航用ロープリールに根付部から順に接続されて合計長さ200mとなり,海面状態に応じて長さを調整できるようになっていた。
イ 日東1号
 日東1号(以下「台船」という。)は,甲板上に構造物を有しない非自航の鋼製台船で,両舷それぞれに,船首から船尾にかけて等間隔に5個のボラードを設け,また,夜間,自船の存在を表示できるよう,両舷に各4個の簡易標識灯を備えていた。

3 伊良湖水道
 伊良湖水道は,伊勢湾入口の伊良湖岬と神島に挟まれた幅2.3海里の水道で,海上交通安全法により,ほぼ中央部に伊良湖水道航路が設定され,同航路と伊良湖岬の間の海域(以下「朝日礁海域」という。)には,同航路の北東側に水深10mの朝日礁があり,同礁を少し離れたところから伊良湖岬まで水深10m以下の水域が広がって好漁場となり,操業する漁船の多い海域であった。
 伊良湖水道航路は,134度(真方位,以下同じ。)から314度方向に,幅1,200m,長さ4,000mとして設定された航路で,朝日礁南側となる同航路北東側側線中央付近に,同航路右舷標識として朝日礁灯浮標が設置されていた。

4 事実の経過
 鳳竜丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,船首1.6m船尾3.0mの喫水をもって,長さ50mに調整した曳航索の先端を曳航用フックにかけ,船体ブロック200トンを積載し,船首尾とも0.5mの等喫水となった台船の船首部両舷のボラードに,両端にアイ加工を施した直径26mm長さ22mのスパンワイヤをそれぞれかけ,同ワイヤの他端をシャックルで同曳航索の後端に接続し,船首端から台船船尾端までの長さ150mの引船列を構成し,平成17年7月21日17時00分名古屋港第3区を発し,香川県丸亀港に向かった。
 A受審人は,出港後,曳航索を200mに延ばして全長300mの引船列(以下「引船列」という。)とし,引き続いて船橋当直について伊勢湾を南下し,19時00分一等航海士と交替して降橋したのち,20時45分伊良湖岬灯台から315度4.1海里の地点で,伊良湖水道通航のために昇橋し,一等航海士を見張りにつけて自ら操船にあたり,針路を137度に定め,機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力とし,鳳竜丸に航行中の曳航船が表示する灯火を,台船に簡易標識灯を掲げて自動操舵により進行した。
 ところで,A受審人は,伊良湖水道を通航するにあたっては,海上交通安全法により,全長50m以上の船舶は伊良湖水道航路内を航行し,全長200m以上となる長大物件曳航船は,同航路通航予定時刻を伊勢湾海上交通センター(以下「伊勢湾マーチス」という。)に通報しなければならず,側方警戒船の配備を指示されることを知っていたので,曳航索を短縮し,鳳竜丸の先端から台船の船尾端までの全長200m未満として同航路内を通航したことがあり,全長200m以上となるときには,前任者からの引継ぎに従って,同航路内を通航せずに朝日礁海域を通航していた。
 20時57分A受審人は,伊良湖岬灯台から315度2.9海里の地点に達したとき,右舷船首方3海里の距離のところに25隻ほどの漁船群が操業しており,朝日礁海域で可航水域が狭められているのを認め,曳航索の長さを200mとしたままで航行を続けると,朝日礁海域で同漁船群を避けたとき,台船が大きく振れ回って通航が困難となることが予想されたが,それまで,曳航索を短縮することなく何度も同海域を航行していたので,そのままでも何とかなるものと思い,台船の振れ回りを小さくするよう曳航索を短縮する措置をとることなく,同一針路,速力で続航した。
 21時15分A受審人は,伊良湖岬灯台から311度1.0海里の地点に至り,漁船群まで1.2海里となったところで,同漁船群が朝日礁海域のほぼ中央部に広がり,同海域中央部に十分な可航水域がないことから,同漁船群を離すつもりで,手動操舵として針路を朝日礁灯浮標に向首する169度に転じて進行した。
 21時28分A受審人は,朝日礁灯浮標まで200mとなる,伊良湖岬灯台から224度1,400mの地点に達したとき,漁船群を左舷側100mの距離で航過したので,左舵10度をとっては舵中央に戻すことを繰り返しながら,ゆっくりと左転を開始し,鳳竜丸が同灯浮標を右舷側100mの距離で航過したのちも,漁船群に気をとられて台船の動きを十分に確認しないまま左転を続け,21時30分同灯浮標が鳳竜丸のほぼ正船尾となり,針路を101度としたとき,伊良湖岬灯台から217.5度1,570mの地点において,台船が振れ回って,右舷側スパンワイヤが原速力のまま朝日礁灯浮標に衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南東風が吹き,付近海域には1.0ノットの南東流があった。
 A受審人は,衝突の事実を知らずに航行を続けていたところ,翌日,海上保安部からの連絡で衝突の事実を知った。
 衝突の結果,引船列は右舷側スパンワイヤに擦過傷を生じただけで,朝日礁灯浮標は頭標及び同支持金具等を破損したが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 伊良湖水道航路を航行しなかったこと
2 朝日礁海域で操業中の漁船群により可航水域が狭くなっていたこと
3 曳航索を短縮する措置をとらなかったこと
4 漁船群に気をとられて台船の動きを十分に確認しなかったこと
5 朝日礁灯浮標に向首して200mまで接近したこと
6 台船が振れ回ったこと

(原因の考察)
 本件は,台船を曳航して朝日礁灯浮標に向首接近中,舵角10度をとって同灯浮標を右舷側に見ながら左旋回し,引船の針路を一定にしたとき,曳航されていた台船が振れ回って右舷側スパンワイヤが同灯浮標と衝突したもので,その原因について考察する。
 本件時,朝日礁灯浮標と漁船群との間の可航水域の幅は約200mであり,左舵10度をとって全長300mとなった引船列を旋回させながら同水域を無難に航過するには,台船の振れ回りを制御して同水域のほぼ中央部を航行する必要がある。また,曳航用フックから台船船尾端までは280mであり,台船が振れ回って20度偏向すると,横方向距離は95mとなり,同灯浮標あるいは漁船群と著しく接近することとなるから,これを長さ200mの曳航索を介して反対方向に引いて制御することは困難であると認められる。一方,A受審人が当廷で述べたように,3海里の距離で漁船群を視認したとき,曳航索を50mに短縮することが可能な状況であったから,同索を短縮すれば引船列の全長は出港時と同じ150m,曳航用フックから台船船尾端までは130mで,台船が20度偏向したときの横方向距離は44mとなり,これを長さ50mの曳航索を介して制御することは,同人が当廷で述べたように,港内及び瀬戸内海の狭い水域では曳航索を50mとして航行していることから,台船の振れ回りを小さくして無難に航過することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,朝日礁海域で操業中の漁船群により可航水域が狭くなっているのを認めた際,曳航索を短縮する措置をとることなく同海域への進行を続けたことは,本件発生の原因となる。
 伊良湖水道航路を航行しなかったことは,前示のとおり,朝日礁海域で,漁船群と朝日礁灯浮標の間を無難に航過することができたから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは船舶輻輳海域での船舶交通の安全を図ることを目的として定められた海上交通安全法の規定に違反するものであり,法令遵守及び海難防止の観点から,伊良湖水道通航にあたっては,伊良湖水道航路内航行及び通航時刻の通報を行うよう是正されるべき事項である。
 漁船群に気をとられて台船の動きを十分に確認しなかったことは,前示のとおり,可航幅約200mの水域を全長300mの引船列として航行中,曳航索の長さを200mとした台船の動きを確認していたとしても,これを制御して同海域を無難に航過することは困難であると認められるから,本件発生の原因とはしないが,引船列を運航するにあたっては,曳航索を可航水域の広さに応じた長さに調整したうえで,被引台船の動きを十分に確認しながら運航することが望まれる。
 朝日礁灯浮標に向首して200mまで接近したことは,漁船群を避けて同漁船群と同灯浮標の間の可航水域を航行するために,同灯浮標に向首接近したもので,前示のとおり,曳航索を短縮することにより無難に航行することができたから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 朝日礁海域で操業中の漁船群により可航水域が狭くなっていたことは,通航船舶にとっては,そのような状況に応じて安全に航行する方法をとることが求められるものであり,前示のとおり,曳航索を短縮して無難に航過することのできる水域があったと認められるから,本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件灯浮標衝突は,夜間,台船を曳航して伊良湖水道を南下中,操業中の漁船群により可航水域が狭められているのを認めた際,曳航索を短縮する措置がとられず,朝日礁灯浮標に接近して旋回中に同台船が振れ回ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,台船を曳航して伊良湖水道を南下中,操業中の漁船群により可航水域が狭められているのを認めた場合,同台船の振れ回りを小さくするよう,曳航索を短縮する措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,それまで,曳航索を短縮することなく何度も同海域を航行していたので,そのままでも何とかなるものと思い,曳航索を短縮する措置をとらなかった職務上の過失により,朝日礁灯浮標に接近して旋回中に同台船が振れ回って同灯浮標との衝突を招き,曳航用スパンワイヤに擦過傷を,同灯浮標の頭標及び同支持金具等を破損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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