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平成18年神審第38号
件名

貨物船18エーコープ漁船明石丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月26日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(雲林院信行,濱本 宏,加藤昌平)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:18エーコープ一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
18エーコープ・・・右舷船首部に擦過傷
明石丸・・・船首部圧壊,上部構造物が倒壊,船長が溺死

原因
18エーコープ・・・見張り不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
明石丸・・・音響信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,航行中の18エーコープが,見張り不十分で,漁労に従事している明石丸の進路を避けなかったことによって発生したが,明石丸が,避航を促すための音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月23日07時25分
 播磨灘
 (北緯34度34.9分 東経134度51.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船18エーコープ 漁船明石丸
総トン数 202トン 4.94トン
全長 58.30メートル  
登録長   10.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   46キロワット
(2)設備及び性能等
ア 18エーコープ
 18エーコープは,平成14年5月総トン数199トンとして新造されたのち,同17年6月に改造され同202トンとなった。同船は,船橋前に長さ30.20メートルの貨物倉1倉を有する船尾船橋型ばら積み貨物船で,船橋内前壁に接して,左舷側から順に,航海配電盤,GPSプロッタ,レーダー(カラー),レーダー,操舵装置,航海コンソール,主機遠隔操縦装置及びバウスラスタ操縦盤等が設置され,また,同室後部壁に接して,左舷側から順に,海図台,テレビ,昇降階段及び固定ソファー等が設備されていた。
 海上試運転成績表写によれば,全速力前進中に後進を発令した場合,船体停止までに1分44.3秒を要し,同状態で右90度旋回に要する時間は33.6秒,同左90度旋回に要する時間は32.5秒であった。
イ 明石丸
 明石丸は,昭和57年6月に進水した小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室を有し,同室内前面に,左舷側からGPSプロッタ,磁気コンパス,主機計器盤,舵輪及び主機遠隔操作ハンドルが,船尾にトロール用の櫓が設置されていた。その他,操業時用として操舵室後方の甲板上に舵輪及び主機遠隔操作ハンドルが,船尾右舷側に舵輪が,それぞれ設けられていた。
 同船が行う底びき網漁は,前部甲板上のウインチドラムに巻き取られた直径13ミリメートル,長さ320メートルのワイヤロープに,長さ6.5メートル,高さ0.5メートルに開口された網及びその後方に袋網2個があって,全長11.50メートルとなる網を繋いでトロールするもので,投網に約5分,曳網は潮流に逆航して1.5ないし2.0ノットの速力で約50分,揚網に約10分をかけ,これを1日に7から10回繰り返した。

3 事実の経過
 18エーコープは,A受審人ほか2人が乗り組み,トウモロコシ700トンを積載し,船首2.60メートル船尾4.00メートルの喫水をもって,平成17年7月23日05時00分神戸港を発し,愛媛県宇和島港に向かった。
 A受審人は,出港配置終了後に昇橋し,神戸空港の南東角から約600メートル沖合の地点で,単独の航海当直に就いて明石海峡に向かい,06時51分江埼灯台から328度(真方位,以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき,播磨灘の推薦航路に向かうよう針路を246度に定め,機関を全速力前進にかけ,潮流に乗じて11.7ノットの対地速力(以後「速力」という。)で,自動操舵により進行した。
 A受審人は,播磨灘東部を南西行中,視界が良好だったのでレーダーをスタンバイ状態として肉眼で見張りに当たり,07時19分淡路室津港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から001度3.84海里の地点に達したとき,右舷船首4.5度1.3海里のところに,速力が遅くて操業中と容易に判断できる明石丸を視認し得る状況にあったが,船橋内を左右に移動して前方の見張りを十分に行わなかったので,これを視認せず,その後,衝突のおそれがある態勢で接近したが,このことに気付かないで,前路に他船はいないものと思い,操舵室左舷後方の海図台に赴き,船首方に背を向ける姿勢で航海日誌を見始めた。
 A受審人は,これまでの本船の航海形態がどのようなものであったのかと興味を抱いて同日誌をさかのぼり,航海距離や航海時間等を計算するなど,これに没頭するうち,07時25分西防波堤灯台から345度3.5海里の地点において,18エーコープの右舷船首部が,原針路原速力のまま,明石丸の左舷船首部に前方から25度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はなく,視界は良好で,付近海域には微弱な西流があった。
 また,明石丸は,B船長が1人で乗り組み,操業の目的で,同月22日21時00分兵庫県明石港を発し,播磨灘鹿ノ瀬東方の漁場に向かった。
 B船長は,漁場に到達以降,法定の形象物を掲げて数回の底びき網漁を繰り返し,播磨灘航路第6号灯浮標の南方0.7海里付近で西方に向けて操業したあと同灯浮標の北方に移動し,23日07時16分西防波堤灯台から339度3.65海里の地点で,針路を091度に定め,2.7ノットの曳網速力として操業を再開した。
 07時19分B船長は,西防波堤灯台から341度3.6海里の地点に達したとき,左舷船首20.5度1.3海里のところに18エーコープを視認し得る状況にあり,その後,衝突のおそれがある態勢で接近したが,避航を促すための音響信号を行わず,機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないで進行し,衝突の直前,急遽左舵10度をとったが,及ばず,原針路原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,18エーコープは,右舷船首部に擦過傷を生じ,明石丸は,船首部が大きく圧壊し,上部構造物が倒壊した。さらに,B船長が海中に転落して溺死した。

(航法の適用)
 本件衝突は,播磨灘の鹿ノ瀬南東方において,明石海峡を経て南西行中の18エーコープと曳網して東行中の明石丸とが衝突したもので,同海域は海上交通安全法が適用されるところであるが,同法に本件に適用される航法規定がないので,一般法である海上衝突予防法が適用されることとなる。
 衝突の6分前,18エーコープは,右舷船首4.5度1.3海里のところに明石丸を,明石丸は,左舷船首20.5度1.3海里のところに18エーコープをそれぞれ視認し得る状況にあり,18エーコープは航行船であり,明石丸は漁労中の船舶であった。両船が互いに視認しあっておれば,それぞれが,十分に衝突を避けるための必要な動作をとることができる時間的,距離的余裕があったものと思料する。
 したがって,本件は第18条各種船舶間の航法により律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 18エーコープ
(1)船橋内を左右に移動して前方の見張りを十分に行わなかったこと
(2)レーダーを活用しなかったこと
(3)船首方に背を向ける姿勢で航海日誌を見ていたこと
(4)航海日誌を見ることに没頭していたこと
(5)明石丸を避けなかったこと

2 明石丸
(1)播磨灘航路第6号灯浮標の南方から同灯浮標の北方に移動したこと
(2)避航を促すための音響信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,18エーコープが,前方の見張りを十分に行っておれば,早期に明石丸を発見でき,同船の進路を避けることができたものと判断できる。
 したがって,A受審人が,船橋内を左右に移動して前方の見張りを十分に行わなかったこと,船首方に背を向ける姿勢で航海日誌を見ていたこと,航海日誌を見ることに没頭していたこと及び明石丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 当時,視界が良かったのであるから,レーダーを活用しなかったことを原因とするまでもない。
 一方,明石丸は,18エーコープを視認したものの,自船が操業中であるから相手船の方で避けてくれるものと思い,その後,同船に対する動静監視を行わなかったのか,或いは,見張り不十分で,18エーコープを全く視認しなかったのか,B船長の死亡により推測の域を出ないが,警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとっておれば,衝突を回避できたものと推認できる。
 したがって,避航を促すための音響信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 播磨灘航路第6号灯浮標の南方から同灯浮標の北方に移動したことについて,この時点においては,両船が衝突を避けるための動作をとる時間的,距離的余裕が十分にあることから,原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,播磨灘の鹿ノ瀬南東方において,航行中の18エーコープが,見張り不十分で,漁労に従事している明石丸の進路を避けなかったことによって発生したが,明石丸が,避航を促すための音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,播磨灘の鹿ノ瀬南東方において,播磨灘の推薦航路に向けて南西行する場合,前路で漁労に従事している明石丸を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これを視認せず,前路に他船はいないものと思い,海図台に赴き,船首方に背を向けた姿勢で航海日誌を見ていて,これに没頭し,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,明石丸の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き,18エーコープの右舷船首部に擦過傷を生じさせ,明石丸の船首部を大きく圧壊し,上部構造物を倒壊させた。さらに,B船長を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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