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平成17年横審第96号
件名

貨物船菱鹿丸貨物船第拾八宝来丸衝突事件
第二審請求者〔補佐人 a〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月8日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(今泉豊光,金城隆支,村松雅史)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:菱鹿丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
補佐人
a
受審人
B 職名:第拾八宝来丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
C 職名:第拾八宝来丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
指定海難関係人
D 職名:第拾八宝来丸機関長
補佐人
b,c(いずれもB及びC両受審人並びにD指定海難関係人選任)

損害
菱鹿丸・・・船首,球状船首部に破口を伴う凹損等
第拾八宝来丸・・・左舷後部外板に大破口,のち沈没

原因
菱鹿丸・・・視界制限状態時の航法(速力)不遵守
第拾八宝来丸・・・視界制限状態時の航法(速力)不遵守

主文

 本件衝突は,菱鹿丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,第拾八宝来丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月14日22時43分
 静岡県御前埼南東方沖合
 (北緯34度33.0分 東経138度18.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船菱鹿丸 貨物船第拾八宝来丸
総トン数 689トン 499トン
全長 73.30メートル 65.64メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア 菱鹿丸
 菱鹿丸は,平成4年6月に進水した貨物船で,茨城県鹿島港を積地として愛知県名古屋港,同三河港及び三重県四日市港を揚地としてケミカル製品であるエチレングリコールを専門に輸送しており,船橋楼の前端が船首から約56メートルのところにある船尾船橋型で,同楼前方の甲板下に左右両舷各5箇所の貨物油槽が配置され,船首部にはスラスターが装備されており,船橋には操舵スタンド,1号及び2号レーダー並びに機関制御装置が備え付けられていた。
 海上試運転成績によれば,載貨状態での11.7ノットの速力で前進中に舵角35度で左右にそれぞれ旋回したとき,360度旋回に要する時間がともに約3分で,同速力で前進中に後進発令から船体停止までに要する時間及び距離は,2分05秒及び約567メートルであった。
 なお,主機用意とする場合には,使用燃料をC重油からA重油に切り換える必要があった。
イ 第拾八宝来丸
 第拾八宝来丸(以下「宝来丸」という。)は,平成7年10月に進水した,主に砂利運搬に従事する旋回式クレーン付きの貨物船で,同17年2月にE社所有となり,京浜港を積地として関門港小倉区及び大分港を揚地として主に建設残土の輸送に従事していた。
 宝来丸は,船橋楼の前端が船首から約48メートルのところにある船尾船橋型で,同楼前方の甲板下に1箇所の貨物倉が,その船首側に前示クレーンが配置されていた。
 船橋には,前方中央に操舵スタンドがあり,同スタンドの中央部にジャイロコンパス及び汽笛スイッチが,同スタンドの左舷側に近距離及び遠距離用各レーダー並びにGPSが,同スタンド右舷側に機関制御装置が備え付けられ,船橋左舷後部に海図台が設備されていた。
 主機関の出力は,進水時には1,765キロワットであったが,負荷制限装置が付け加えられて735キロワットに変更されていた。
 海上試運転成績書によれば,空倉状態で12.90ノットの速力で前進中に,舵角35度で左旋回したときの最大縦距及び最大横距並びに30度旋回及び90度旋回に要する各時間は,145メートル,169メートル及び16秒,33秒,同右旋回したときには,145メートル,175メートル及び17秒,34秒であった。

3 事実の経過
 菱鹿丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,空倉のまま,海水バラスト536トンを積み,船首2.0メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成17年7月14日15時45分三河港を発し,鹿島港に向かった。
 ところで,A受審人は,船橋当直を08時から12時まで及び20時から24時までを自らが,00時から04時まで及び12時から16時までを甲板長が,04時から08時まで及び16時から20時までを一等航海士がそれぞれ就く,単独4時間3直体制としていた。また,三河港を発航するとき,伊勢湾東部及び西部海域は霧で視界が悪く,ところにより視程が1海里未満である旨の霧情報を第四管区海上保安本部からVHF無線電話で入手していた。
 19時40分A受審人は,舞阪灯台から215度(真方位,以下同じ。)10.0海里の地点で,一等航海士と交替して単独で船橋当直に就き,航行中の動力船が掲げる灯火を表示し,針路を090度に定め,機関を全速力前進にかけ13.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵によって進行した。
 A受審人は,交替した海域での視程は2海里ほどで,20時15分ころ霧で視程が0.2海里と著しく狭められて視界制限状態となったことから,相対方位表示としたレーダーを2台とも起動し,1号レーダーを0.5海里レンジとし,2号レーダーを3海里レンジでオフセンターとして前路4.8海里まで探知できるようにセットして続航した。
 A受審人は,レーダーと操舵スタンドとの間に立った姿勢で見張りに当たり,22時23分半御前埼灯台から177度3.2海里の地点で,自動操舵で針路を085度に転じたとき,霧で前路の視程が150メートルと更に狭められたのを認めたが,船橋両舷の扉を開放したものの,休息している航海士を昇橋させるなどして見張り員を増員することも,機関室当直者に対して主機用意を指示することもしないまま進行した。
 22時35分少し前A受審人は,御前埼灯台から139度3.9海里の地点に達したとき,2号レーダーで,先に探知していた右舷船首35度0.9海里のところの同航船1隻の映像のほか,右舷船首1.5度3.2海里のところに反航船である宝来丸の映像と,その後方に反航船3隻の映像を初めて探知したが,霧中信号を行わず,安全な速力としないまま続航した。
 A受審人は,22時39分少し前御前埼灯台から130度4.5海里の地点で,宝来丸の映像が右舷船首3度1.5海里となり,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,レーダーで宝来丸の映像のわずかな方位変化を認めたことから同船と近距離ながら替わるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもしなかった。
 A受審人は,22時42分半レーダー画面の海面反射で宝来丸の映像を見失ったのちもレーダー画面を見続け,22時43分少し前汽笛の短音1声を聞いた直後,右舷船首方至近に同船の紅灯を初めて視認して危険を感じ,機関を中立としたものの効なく,菱鹿丸は,22時43分御前埼灯台から122度5.2海里の地点において,原針路,原速力のまま,その船首が宝来丸の左舷後部に前方から35度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風力2の北東風が吹き,視程は約100メートルで,潮候は下げ潮の初期であり,14日16時06分静岡県全域に濃霧注意報が発表されていた。
 また,宝来丸は,B,C両受審人及びD指定海難関係人ほか2人が乗り組み,残土1,700トンを積載し,船首3.7メートル船尾5.5メートルの喫水をもって,同日12時00分京浜港東京区を発し,広島港に向かった。
 ところで,B受審人は,船橋当直を13時から16時まで及び01時から04時までを一等機関士が,16時から19時まで及び04時から07時までを自らが,19時から22時まで及び07時から10時までを甲板員が,22時から01時まで及び10時から13時までをC受審人及びD指定海難関係人がそれぞれ就く,単独又は2人の3時間4直体制を編成し,当直者に対する命令や指示を船長命令簿又は夜間指示書に具体的に記載しておらず,狭水道の手前に達したときや視界が悪いときは知らせるよう,日頃口頭で伝えていた。
 C受審人は,D指定海難関係人とともに21時50分御前埼灯台から102度13.5海里の地点で,前直の甲板員と交替して船橋当直に就き,針路を270度に定め,機関を全速力前進にかけ10.0ノットの速力で,自動操舵によって進行した。
 D指定海難関係人は,引き継いだころ視程が2海里となったのを認め,相対方位表示としたレーダーを2台とも起動して近距離用レーダーを3海里レンジに,遠距離用レーダーを6海里レンジにセットし,22時35分少し前御前埼灯台から116度6.45海里の地点に達したとき,霧により視程が100メートルほどに狭められた状況となり,近距離用レーダーで既に探知していた自船の右舷船尾方の同航船2隻の映像に加えて,左舷船首3度3.0海里のところに菱鹿丸の映像を,その南東側に反航船1隻の映像を初めて探知し,同反航船の映像がレーダーの中心に接近するのを認めたことから,C受審人に対してB受審人及び一等機関士を呼びに行くよう助言した。
 同じころC受審人は,近距離用レーダーで,左舷船首3度3.0海里のところに菱鹿丸の映像を初めて探知して同船が反航船であることを知ったが,同船が接近すれば針路を転じるものと思い,霧中信号を行うことも,安全な速力にすることもしないまま,22時35分B受審人及び一等機関士を呼びに降橋した。
 B受審人は,自室で霧により視程が著しく狭められていることを知らされ,22時37分半御前埼灯台から119度5.9海里の地点で,昇橋して操船の指揮を執り,視程が100メートル以下となっている状況を認めたが,霧中信号を行わず,安全な速力にすることもなく,近距離用レーダーで,左舷船首3度2.0海里のところに反航する菱鹿丸の映像を,その南側に反航船1隻の映像を,自船の右舷船尾方に同航船2隻をそれぞれ確認し,D指定海難関係人を操舵及び機関操作に,C受審人を左舷側でレーダーと肉眼による見張りに,その後昇橋した一等機関士を右舷船尾側の窓を通して右舷船尾方の見張りにそれぞれ就け,反航船の映像に対するレーダー監視を続けた。
 B受審人は,22時39分少し前御前埼灯台から120度5.7海里の地点に達したとき,レーダーで左舷船首2度1.5海里ところに菱鹿丸の映像を認め,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,減速すると舵効きが悪くなるので,速い速力で右に出た方がよいと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく,同航船が右舷方至近にいることで大きな右転はできず,D指定海難関係人に5度右転及び減速を指示し,275度の針路及び7.0ノットの速力として自動操舵のまま続航した。
 22時42分少し前C受審人は,御前埼灯台から121.5度5.4海里の地点で,レーダーで菱鹿丸の映像が左舷船首6度0.5海里に接近したのを認め,衝突の危険を感じて自身の判断で汽笛による短音1声を吹鳴し,B受審人は,D指定海難関係人に右転を指示し,同指定海難関係人は,自動操舵のまま右舵をとった。
 22時43分少し前B受審人は,左舷ウイングに出て左舷方の見張りをしていたとき,左舷船首方至近に菱鹿丸のマスト灯を初めて視認し,衝突の危険を感じて「灯りが見えた。」と叫び,それを聞いたD指定海難関係人が自動操舵の設定つまみを回して大きく右舵をとったものの効なく,宝来丸は,7.0ノットの速力で右回頭中,船首が300度を向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,菱鹿丸は船首及び球状船首部に破口を伴う凹損などを生じ,宝来丸は左舷後部外板に大破口を生じて衝突地点付近で沈没し,宝来丸の5人全員は菱鹿丸に乗り移って救助された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,霧により視界が著しく制限された静岡県御前埼南東方沖合において,三河港から鹿島港に向けて東行中の菱鹿丸と,京浜港から広島港に向けて西行中の宝来丸とが衝突したものであり,両船は互いに他の船舶の視野の内になかったことから,海上衝突予防法第19条視界制限状態における船舶の航法が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 菱鹿丸
(1)見張り員を増員しなかったこと
(2)主機用意を指示しなかったこと
(3)霧中信号を行わなかったこと
(4)安全な速力としなかったこと
(5)A受審人がレーダーで宝来丸の映像を見て同船と近距離ながら替わるものと思ったこと
(6)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと

2 宝来丸
(1)C受審人が安全な速力としなかったこと
(2)C受審人が霧中信号を行わなかったこと
(3)B受審人が安全な速力としなかったこと
(4)B受審人が霧中信号を行わなかったこと
(5)減速すると舵効きが悪くなるので,速い速力で右に出た方がよいと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと

3 その他
 衝突地点付近が霧のため,視界制限状態となっていたこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,菱鹿丸が,霧のため視界が著しく制限された静岡県御前埼南東方沖合を東行中,安全な速力に減じるとともに,宝来丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じておれば,更に必要に応じて行きあしを停止することによって本件の発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,主機用意を指示しないで,安全な速力にせず,宝来丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,同船と近距離ながら替わるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止する措置もとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,霧中信号を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,宝来丸側でレーダーにより菱鹿丸を探知していたことから,本件発生の原因とならない。しかし,これは,海難防止の観点から是正されるべきである。
 A受審人が,見張り員を増員しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。
 一方,宝来丸が,霧のため視界が著しく制限された静岡県御前埼南東方沖合を西行中,安全な速力に減じるとともに,菱鹿丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じておれば,更に必要に応じて行きあしを停止することによって本件の発生を防止できたものと認められる。
 したがって,C受審人が,菱鹿丸と接近する状況となった際,接近すれば相手船が針路を転じるものと思い,安全な速力としなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,B受審人が,安全な速力にせず,菱鹿丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,減速すると舵効きが悪くなるので,速い速力で右に出た方がよいと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 C及びB両受審人が,いずれも霧中信号を行わなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,菱鹿丸側でレーダーにより宝来丸を探知していたことから,本件発生の原因とならない。しかし,これは,海難防止の観点から是正されるべきである。

(主張に対する判断)
 宝来丸側補佐人の「菱鹿丸は針路を085度とすることなく小角度の左転を繰り返した。その後も小刻みな転針を繰り返して進行した。」旨の主張について検討する。
 主張の根拠であるGPSプロッター航跡写真写中の航跡は,針路が規則正しく,一定の間隔で分割して順次表示されている。これはGPSプロッターの画像がドット構成で表示されているためで,線分や図形が表示される際にその境界に階段状にギザギザ(エイリアシング)が必ず生じるからである。つまりGPSプロッター画面には垂直及び水平線以外の斜線は,必ずいくつかに分割して表示され,直線状に表示されることはなく,衝突地点より東側の予定針路が4つの点で規則正しく,一定の間隔で表示されていることも同じ理由である。
 また,A受審人の当廷における,「転針後は針路を変えなかった。」旨の供述があり,左転をしなかったものと認められる。
 よって,GPSプロッター航跡写真写中の航跡を菱鹿丸が左転を繰り返した証拠との主張は認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,霧のため視界が著しく制限された静岡県御前埼南東方沖合において,東行中の菱鹿丸が,安全な速力とせず,レーダーのみで前路に探知した宝来丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことと,西行中の宝来丸が,安全な速力とせず,レーダーのみで前路に探知した菱鹿丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,夜間,霧のため視界が著しく制限された静岡県御前埼南東方沖合を東行中,レーダーにより前路に宝来丸の映像を探知して同船に著しく接近することを避けることができない状況となった場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかし,同人は,同船の映像にわずかな方位変化を認めたことから宝来丸と近距離ながら替わるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により,そのまま進行して宝来丸との衝突を招き,菱鹿丸の船首及び球状船首部に破口を伴う凹損などを生じさせ,宝来丸の左舷後部外板に大破口を生じさせて同船を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 B受審人は,夜間,霧のため視界が著しく制限された静岡県御前埼南東方沖合を西行中,レーダーにより前路に菱鹿丸の映像を探知して同船と著しく接近することを避けることができない状況となった場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかし,同人は,減速すると舵効きが悪くなるので,速い速力で右に出た方がよいと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により,そのまま進行して菱鹿丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせ,宝来丸を沈没させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 C受審人は,夜間,霧のため視界が著しく制限された静岡県御前埼南東方沖合を西行中,レーダーによりほぼ正船首に探知した菱鹿丸の映像が接近するのを認めた場合,安全な速力とすべき注意義務があった。しかし,同人は,接近すれば相手船が針路を転じるものと思い,安全な速力としなかった職務上の過失により,菱鹿丸に著しく接近することを避けることができない状況に陥って同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせ,宝来丸を沈没させるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D指定海難関係人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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