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平成17年仙審第60号
件名

水上オートバイ タカ&アキ水上オートバイGSXリミテッド晃衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年9月7日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(小寺俊秋,弓田邦雄,供田仁男)

理事官
黒岩 貢

受審人
A 職名:タカ&アキ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
タカ&アキ・・・船首部防舷材等の欠損と擦過傷
GSXリミテッド晃・・・フロントカバーに損壊,左舷船首部に擦過傷等,のち廃船,船長が多発外傷により死亡

原因
タカ&アキ・・・十分な船間距離を保たなかったこと

主文
 本件衝突は,先航するGSXリミテッド晃を追走するタカ&アキが,十分な船間距離を保たなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。

 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月12日15時35分
 青森県久栗坂港西方沖合
 (北緯40度52.4分 東経140度50.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイ タカ&アキ 水上オートバイ GSXリミテッド晃
総トン数 0.1トン  
全長 3.12メートル 2.67メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 95キロワット 86キロワット
(2)設備及び性能等
ア タカ&アキ
 タカ&アキ(以下「タ号」という。)は,B社が製造し,型式をJTT10Eと称する,ウォータージェット推進装置を装備した最高速力毎時約80キロメートル(以下「キロ」という。)のFRP製水上オートバイで,跨乗式座席を有し,最大搭載人員を3人と定め,平成14年8月新規登録され,海浜レジャーに供されていた。
イ GSXリミテッド晃
 GSXリミテッド晃(以下「晃号」という。)は,C社が製造し,型式を5848GSX-LTDと称する,ウォータージェット推進装置を装備した最高速力約100キロのFRP製水上オートバイで,跨乗式座席を有し,最大搭載人員を2人と定め,平成14年7月新規登録され,海浜レジャーに供されていた。

3 遊走のため設置したブイ及びその位置
 本件当時,青森県久栗坂港西方沖合に,遊走のためにA受審人が準備した,直径38センチメートルのゴム製球形赤色ブイ4個,同黄色ブイ2個が,ロープで取り付けられた重りを海底に固定して設置され,ブイ全体を鳥瞰するとほぼ鼓型となっていた。
 赤色ブイは,ほぼ四角形に設置されて鼓型の四隅を成し,北東端のブイ(以下「R1ブイ」という。)が久栗坂港西防波堤灯台(以下「西灯台」という。)から253度(真方位,以下同じ。)492メートル,北西端のブイ(以下「R2ブイ」という。)がR1ブイから283度88メートル,南西端のブイ(以下「R3ブイ」という。)がR1ブイから239度107メートル,南東端のブイ(以下「R4ブイ」という。)がR1ブイから191度79メートルのところにそれぞれ位置していた。
 黄色ブイは,赤色ブイによる四角形の内側のほぼ中央に東西方向に設置され,鼓型の細くなった胴の部分を成し,東側のブイ(以下「Y1ブイ」という。)がR1ブイから214度40メートル,西側のブイ(以下「Y2ブイ」という。)がR1ブイから254度73メートルのところにそれぞれ位置していた。

4 事実の経過
 タ号は,A受審人が1人で乗り組み,遊走の目的で,平成16年9月12日15時33分半少し過ぎ西灯台から240度450メートルの海岸(以下「鼻繰崎海岸」という。)を発し,約100メートル西方沖合のR4ブイに向かった。
 ところで,A受審人は,同日08時ごろ同海岸に着いて沖合に前示ブイを設置し,09時ごろから,三々五々集まった15人ばかりの水上オートバイ仲間と歓談,飲食を行いながら,時折,付近の海面や前示ブイで設定したコース(以下「周回コース」という。)を遊走し,その間,350ミリリットルのビール3缶及び焼酎の水割り3杯ばかりを飲んでいた。
 そして,周回コースは,1周約400メートルとなっていて,遊走する際は,赤色ブイを左舷に,黄色ブイを右舷に見て,R1ブイ,R2ブイ,Y2ブイ,R3ブイ,R4ブイ及びY1ブイの順に,ほぼ鼓型の同コースに沿って,反時計回りに遊走することとされていたものであった。
 発航に先立ち,A受審人は,鼻繰崎海岸で休んでいたとき,友人であるDと一緒に遊走しようと思い立ち,同人にその旨を告げ,15時33分半晃号の船長として同海岸を発して周回コースへ向かった同人の後を追って,前示のとおり発航したものであった。
 15時33分50秒A受審人は,R4ブイを左舷至近に見て周回コースに入ったとき,晃号が約50メートル前方のY1ブイ至近を先航しており,各ブイの間の直線部分を80キロ,ブイ至近の旋回部分を50キロの速力(対地速力,以下同じ。)として1周20秒の所要時間で同船を追走し始め,徐々に距離を縮めながら遊走した。
 A受審人は,水上オートバイが旋回中にハンドルを切り過ぎると反転してしまうことがあることを知っており,15時34分45秒西灯台から252度580メートルの地点に達したとき,晃号まで約7メートルに接近し,それ以上接近すると同船がハンドルを切り過ぎるなどして反転すれば衝突の危険がある態勢となるおそれがあったが,まさか同船が反転することはないと思い,速力を落とすなどして,十分な船間距離を保たなかった。
 15時34分50秒A受審人は,周回コースを3周して西灯台から245.5度535メートルの地点に至り,R4ブイを左舷に見て旋回するとき,晃号の右舷側1メートル後方3メートルの至近に迫り,同船が上げる水しぶきによって前方が見難くなった状況下,接近し過ぎたと感じたものの,同船を追い越すつもりがないまま同じ態勢で追走を続けた。
 A受審人は,Y1ブイを右舷に,R1ブイを左舷に見てそれぞれ旋回した後,周回コースに沿って針路283度速力80キロでR2ブイに向かい,15時35分わずか前R2ブイの約10メートル手前に差し掛かり,減速しハンドルを切って左旋回を開始したところ,先航する晃号が反転して停止したがどうすることもできず,15時35分00秒ほぼR2ブイの北側に接する西灯台から257度570メートルの地点において,タ号は,船首が270度を向いて50キロの速力となったとき,その船首が晃号の左舷船首部に前方から45度の角度で衝突し,これを乗り切った。
 当時,天候は曇で風力1の北風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,視界は良好であった。
 また,晃号は,D船長が1人で乗り組み,周回コースを遊走する目的で,同日15時33分半鼻繰崎海岸を発し,同コースのR4ブイ付近に向かった。
 ところで,D船長は,晃号の船舶所有者Eとは水上オートバイを同じ趣味とする友人であり,自宅において晃号の保管を引き受けており,平素から晃号を借りて乗船し,同船の操縦性能に習熟していたが,同年8月ごろ同所有者に勧めて同性能に影響を及ぼす部品であるスポンソンを交換し,その結果,同船が旋回する際,以前より小さなハンドルの操作角度で済むようになったものの,変化した同性能にほとんど習熟していなかった。
 そしてD船長は,立った姿勢で乗る型式の水上オートバイを所有しており,鼻繰崎海岸に同オートバイを搬入してきていたが,発航に先立ち,E船舶所有者から晃号を借り受け,A受審人が一緒に遊走することを聞いてタ号に先航し,前示のとおり発航したものであった。
 D船長は,R4ブイを左舷至近に見て周回コースに入った後,15時33分50秒タ号から約50メートル前方で,Y1ブイを右舷に見て右旋回し,タ号よりわずかに遅い速力で同コースをこれに沿って遊走した。
 15時34分50秒D船長は,周回コースを3周してR4ブイに達し,引き続きY1ブイを右舷に,R1ブイを左舷に見てそれぞれ旋回した後,針路283度速力80キロでR2ブイに向けて続航し,15時35分わずか前R2ブイの至近に至って左転を開始したところ,ハンドルを切り過ぎたものか,晃号は反転して停止し,船首が135度を向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,タ号は,船首部防舷材等の欠損と擦過傷とを,晃号は,フロントカバーの損壊と左舷船首部に擦過傷等とをそれぞれ生じて廃船処理され,D船長(二級小型船舶操縦士免許受有)が病院に搬送されたが,多発外傷による死亡が確認された。

(航法の適用)
 本件衝突は,青森県久栗坂港西方沖合において,両船がブイによって設定した周回コースに沿って遊走中,先航する晃号が旋回部で反転して停止した際,追走するタ号がこれに衝突したものであり,同海域に適用される他の法令がないことから,一般法である海上衝突予防法(以下「衝突予防法」という。)が適用される。
 ところで,両船の相対位置関係は,衝突予防法に定める追越し船と被追越し船の関係であるが,A受審人に追い越す意図がなく,接近後は一定の船間距離で追走していることから,追い越す船舶と追い越される船舶間の航法である同法第13条を適用することは適当でなく,また,同法にはこの状況について規定した条文がないことから,同法第39条の規定による船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 タ号
(1)A受審人が発航前に飲酒していたこと
(2)A受審人が,水上オートバイが旋回中にハンドルを切り過ぎると反転してしまうことがあることを知っていたこと
(3)まさか晃号が反転することはないと思ったこと
(4)十分な船間距離を保たなかったこと

2 晃号
 D船長が晃号の変化した操縦性能にほとんど習熟していなかったこと

(原因の考察)
 本件は,タ号が晃号と十分な船間距離を保っていれば衝突を避けられたものと認められる。
 しかしながら,A受審人は,水上オートバイが旋回中にハンドルを切り過ぎると反転してしまうことがあることを知っていたが,まさか晃号が反転することはないと思い,同船と十分な船間距離を保たず,反転した同船の航走状態の変化に対応できずに衝突したものである。
 ところで,本件当時は,競技として航走していたのではなかったのだから,衝突の危険がある態勢まで至近に迫って航走しなければならない理由はなく,十分な船間距離を保つことに支障がある状況ではなかった。
 したがって,A受審人が,晃号と十分な船間距離を保たなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,晃号は,高速で周回コースを遊走していることから前方のブイに注意を集中する必要があり,瞬間的な後方の見張りを余儀なくされる状況下,自船の水しぶきの中に入ったタ号を,D船長が自身の肩越しやバックミラーを通して確認することは困難であり,同船が追走してきていることは知っていたものの,船間距離など正確な接近模様を確認することはできなかったものと思われ,晃号に原因を求めることはできない。
 A受審人が,発航前に飲酒をしていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,飲酒量と酩酊度については個人的な差異があり,本件発生に至るまで無難に周回コースを3周していることから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から,厳重に慎むべき事項である。
 D船長が,晃号の変化した操縦性能にほとんど習熟していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同船長が死亡しており,反転した明確な理由を明らかにすることができないことから,本件と相当な因果関係があるとは認めることができない。しかしながら,操縦性能にほとんど習熟していなかったことが,ハンドルの切り過ぎを招き,本件発生に至った可能性は否定できず,十分操縦性能に習熟した状態で遊走を楽しむようにすべきである。

(海難の原因)
 本件衝突は,青森県久栗坂港西方沖合において,ブイによって設定した周回コースに沿って遊走する際,先航する晃号を追走するタ号が,十分な船間距離を保たなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,青森県久栗坂港西方沖合において,ブイによって設定した周回コースに沿って遊走し,先航する晃号を追走する場合,水上オートバイが旋回中にハンドルを切り過ぎると反転してしまうことがあることを知っていたのだから,晃号の航走状態の変化に対応できるよう,十分な船間距離を保つべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか同船が反転することはないと思い,十分な船間距離を保たなかった職務上の過失により,前路で旋回中に反転して停止した同船との衝突を招き,タ号に船首部防舷材等の欠損及び擦過傷を,晃号にフロントカバーの損壊及び左舷船首部に擦過傷等をそれぞれ生じさせ,D船長が多発外傷によって死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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