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平成17年長審第73号
件名

漁船孝徳丸貨物船ダ ヤン ヘ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月31日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(長浜義昭,吉川 進,尾崎安則)

理事官
坂爪 靖

受審人
A 職名:孝徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
孝徳丸・・・船首を圧壊
ダ ヤン ヘ・・・右舷船首に擦過傷

原因
ダ ヤン ヘ・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
孝徳丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,ダ ヤン ヘが,前路を左方に横切る孝徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,孝徳丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月31日18時17分
 壱岐水道
 (北緯33度38.5分 東経129度47.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船孝徳丸 貨物船ダ ヤン ヘ
総トン数 8.36トン 1,999トン
全長   79.99メートル
登録長 12.20メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   1,080キロワット
漁船法馬力数 90  
(2)設備及び性能等
ア 孝徳丸
 孝徳丸は,昭和57年3月に長崎県壱岐市勝本町で進水した刺し網漁に従事するFRP製漁船で,船首端より操舵室前面までの距離が約7メートルで,操舵室右舷側に電子ホーンのスイッチ,同室中央に舵輪,同室左舷側にレーダー,GPSプロッター及び魚群探知機がそれぞれ設置され,同室後部が板敷きの台となっていた。また,自動操舵装置を備えていたが,当時,故障していた。
イ ダ ヤン ヘ
 ダ ヤン ヘ(以下「ダ号」という。)は,西暦2003年(以下,4桁で示す年は西暦である。)9月に中華人民共和国天津で建造された,船尾船橋型ばら積み貨物船で,操舵室中央のコンソールには,右舷側から順に,レーダー,主機遠隔操縦装置,VHF無線機,操舵装置,船舶自動識別装置,灯火制御盤,VHF無線機及びレーダーが,同室右舷後方に海図台及びGPSが,同室前面右舷側に汽笛スイッチが,それぞれ設置されていた。

3 事実の経過
 孝徳丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,タコ及びヒラメ計85キログラムを生け間に載せ,水揚げの目的で,船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成17年3月31日17時30分長崎県壱岐市の小崎漁港を発し,佐賀県唐津港に向かった。
 17時39分A受審人は,海豚鼻灯台から292度(真方位,以下同じ。)2.4海里の地点において,針路を128度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵室後部の板敷きの台に腰掛け,手動操舵で進行した。
 18時07分A受審人は,携帯電話に蓄積された未読メールを開いて読み始め,18時11分少し前海豚鼻灯台から137度4.1海里の地点に達したとき,左舷船首26度2.0海里に前路を右方に横切るダ号を視認できる状況で,その後,その方位が変わらず,衝突のおそれのある態勢で接近したが,メールを開く前に周囲を一瞥して他船を見かけなかったことから,しばらくの間大丈夫と思い,メールを読むことに熱中していて,他船の存在の有無を確認できるよう,周囲の見張りを十分に行わず,このことに気付かなかった。
 A受審人は,依然,メールを読み続け,見張り不十分で,避航の気配がないまま接近するダ号に気付かず,警告信号を行うことも,さらに接近して右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく,原針路,原速力のまま続航中,18時17分直前ダ号の汽笛を聞いて至近に迫った同船を初認したがどうすることもできず,18時17分海豚鼻灯台から135度5.3海里の地点において,孝徳丸の船首に,ダ号の右舷船首が前方から58度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の南東風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,視界は良好であった。
 また,ダ号は,中華人民共和国国籍の船長B,一等航海士Cほか同国籍の12人が乗り組み,鉄屑2,531トンを載せ,船首4.8メートル船尾5.5メートルの喫水をもって,同月30日11時30分兵庫県東播磨港を発し,中華人民共和国江陰港に向かった。
 C一等航海士は,翌31日17時00分から甲板長と2人で船橋当直に就き,17時18分烏帽子島灯台から326度1,100メートルの地点で,針路を250度に定め,機関を10.0ノットの全速力前進にかけ,自動操舵で進行した。
 18時11分少し前C一等航海士は,海豚鼻灯台から126度5.8海里の地点に達したとき,右舷船首32度2.0海里のところに前路を左方に横切る孝徳丸を視認できる状況で,18時13分半少し過ぎ海豚鼻灯台から130度5.6海里の地点で,同方位1.1海里に同船を初認し,その後,その方位が変わらず,衝突のおそれのある態勢で接近することを認めたが,小型漁船は接近してから進路を変えることが多々あるので,そのうち転針してくれるものと期待し,早期に右転するなどして孝徳丸の進路を避けないまま続航した。
 C一等航海士は,18時15分半孝徳丸と900メートルに近づいたとき,甲板長に命じて手動操舵に切り替えたものの,依然として同船の転針を期待してその進路を避けずに原針路,原速力で進行し,長音を3回吹鳴したのち,18時17分わずか前左舵一杯としたが,効なく,前示のとおり衝突した。
 食堂にいたB船長は,甲板長に呼ばれて昇橋して衝突を知り,事後の措置に当たった。
 衝突の結果,孝徳丸は,船首を圧壊し,ダ号は,右舷船首に擦過傷を生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,壱岐水道において,南下する孝徳丸と西行するダ号が衝突したもので,一般法である海上衝突予防法で律することになる。
 本件は,孝徳丸が128度の一定針路で航行中,また,ダ号が250度の一定針路で航行中,両船が,衝突の約6分前,互いに2.0海里に相手船を視認することができる状況になって以降,両船の方位に変化がなかったこと,両船の大きさ,操縦性能から,その後にダ号が十分に孝徳丸の進路を避け衝突を回避することが可能であったこと,また,孝徳丸が避航の気配のないダ号に対して警告信号を行い,さらに衝突を避けるための協力動作をとることによって衝突を未然に防止することが可能であったことが,それぞれ認められる。
 したがって,本件は,両船間に横切り船の航法を適用する見合い関係があったと認めることができることから,海上衝突予防法第15条の規定を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 孝徳丸
(1)A受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 ダ号
 孝徳丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件は,孝徳丸が,見張りを十分に行い,前路を右方に横切る態勢のダ号を早期に認め,その動静監視を行い,避航動作をとらずに衝突のおそれのある態勢で接近する同船に対して警告信号を行い,さらに接近して衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,本件を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,見張りを十分に行わなかったこと,方位変化がないまま前路を右方に横切る態勢で接近するダ号に対して警告信号を行わなかったこと,さらに接近して衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 他方,ダ号が,前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する孝徳丸を認めて,同船の進路を避けていたなら,衝突を防止できたものと認められる。
 したがって,C一等航海士が,前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する孝徳丸を認めて,同船が小型漁船であることから,その転針を期待して進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,壱岐水道において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,西行中のダ号が,前路を左方に横切る孝徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが,水揚げのため南下中の孝徳丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,水揚げのため佐賀県唐津港に向けて壱岐水道を南下する場合,他船の存在の有無を確認できるよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲を一瞥して他船を認めなかったことから,しばらくの間大丈夫と思い,携帯電話に蓄積された未読のメールを読むことに熱中していて,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を右方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近するダ号に気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して同船との衝突を招き,自船の船首に圧壊を,ダ号の右舷船首に擦過傷を,それぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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