日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成18年門審第69号
件名

漁船金安丸漁船住吉丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(阿部直之)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:金安丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:住吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
金安丸・・・左舷船首部外板,同ビルジキールに擦過傷
住吉丸・・・右舷船首部外板に亀裂,揚網機が倒壊 船長が左急性硬膜外血腫,頸髄中心性損傷,頸椎脊椎管狭窄症

原因
金安丸・・・見張り不十分,発航にあたっての安全措置不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
住吉丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,金安丸が,発航にあたっての安全措置をとらなかったばかりか,見張り不十分で,停留中の住吉丸を避けなかったことによって発生したが,住吉丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成18年3月7日20時05分
 福岡県地ノ島南方沖合
 (北緯33度53.6分 東経130度30.0分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船金安丸 漁船住吉丸
総トン数 4.99トン 0.97トン
全長 14.80メートル 7.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット  
漁船法馬力数   25

3 事実の経過
 金安丸は,昭和55年6月に進水したFRP製漁船で,船体中央やや後方の操舵室にレーダー,磁気コンパス,GPS装置,魚群探知機及び漁業用無線機を備え,A受審人(昭和50年6月一級小型船舶操縦士免許取得,平成17年1月一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み,船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成18年3月7日19時55分福岡県地島漁港(豊岡地区)を発し,法定灯火を表示して同漁港南東方2.5海里の同県鐘崎漁港に向かった。
 ところで,A受審人は,同日の夕食時に350ミリリットル入りビール4缶を飲んだのち,胸の痛みを覚えるようになり,同県宗像市内の病院に電話連絡後,治療を受ける目的で,金安丸を運航して鐘崎漁港に向かうこととし,酔いと胸の苦しさを感じていて注意力が散漫な状態となっていたが,平素,同漁港からの釣り客を乗せる運航に慣れていたことから,短時間の運航なら問題ないものと思い,友人に運航を依頼するなど発航にあたっての安全措置をとることなく,自ら運航していた。
 A受審人は,20時03分半福岡県宗像市地島の186.76メートル頂所在の地島三角点から228度(真方位,以下同じ。)900メートルの地点で,針路を125度に定め,機関を全速力前進にかけ,18.0ノットの対地速力で,操舵室右舷側のいすに腰掛け,左手で舵輪を握り右手で胸を押さえて苦しさに堪えながら,船首浮上により両舷各8度の船首死角が生じた状態のまま,手動操舵によって進行した。
 A受審人は,定針したとき,ほぼ正船首方830メートルのところに住吉丸の作業灯の明かりを視認することができ,その後同船がほとんど移動せず,停留していることが分かり,同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,酔いと胸の苦しさとにより注意力が散漫な状態となっていたことから,船首を左右に振るなどして,死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,同船を避けないまま続航中,金安丸は,20時05分地島三角点から180度1,070メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その左舷船首と住吉丸の右舷船首とが後方から28度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は,左舷船首付近に衝撃を感じると同時に,左舷正横目前に作業灯に照らされ無人となった住吉丸の前部甲板を認めたが,そのまま続航して鐘崎漁港に至り,無線を傍受して衝突したことを知って病院に行くことを取りやめ,帰港して事後の措置にあたった。
 また,住吉丸は,昭和54年6月に進水したFRP製漁船で,操舵室はなく,船体中央やや後方の操舵スタンドに磁気コンパス,クラッチレバー及びスロットルレバーを備えており,有効な音響信号を行える装備がなく,B受審人(昭和51年1月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,刺網漁の目的で,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成18年3月7日19時30分僚船1隻とともに地島漁港(泊地区)を発し,同漁港南西方沖合300メートルばかりの水深5ないし6メートルの漁場に向かった。
 B受審人は,19時40分前示漁場に至って停留し,トロール以外の漁ろうに従事していることを示す紅,白の全周灯を備えていなかったので,同灯火を表示せずに100ワットの笠付き白色作業灯2個を点灯し,右舷船首付近の揚網機を使用して刺網の揚収に取り掛かり,クラッチレバーに連結した竹ざおを操作して網の揚がってくる状況に応じ時折機関を使用し,行きあしを止めながら揚網作業にあたった。
 20時03分半B受審人は,前示衝突地点付近で全長400メートルの刺網を230メートルばかり揚収していて,同網を解き放すことができない状態で,153度に向首していたとき,右舷船尾28度830メートルのところに,金安丸の白,紅,緑3灯を視認することができ,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,付近の水深が浅いことから通航船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付ず,網の巻揚げを一時中断して機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとることなく,揚網作業を続けるうち,住吉丸は,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,金安丸は,左舷船首部外板及び同ビルジキールに擦過傷を生じ,住吉丸は,右舷船首部外板に亀裂を生じたほか,揚網機が倒壊し,B受審人が海中転落し,約1時間後捜索中の僚船によって意識不明の状態で救助され,その後意識を回復したが,1箇月を超える入院加療を要する左急性硬膜外血腫,頸髄中心性損傷及び頸椎脊椎管狭窄症を負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,福岡県地ノ島南方沖合において,金安丸が,発航にあたっての安全措置をとらなかったばかりか,死角を補う見張り不十分で,停留中の住吉丸を避けなかったことによって発生したが,住吉丸が,漁ろうに従事していることを示す灯火を表示せずに揚網しながら停留中,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,地ノ島南方沖合において,鐘崎漁港に向け航行する場合,船首浮上により船首死角を生じていたから,前路で停留中の他船を見落とさないよう,船首を左右に振るなどして,死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,酔いと胸の苦しさとにより注意力が散漫な状態となっていたことから,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で停留中の住吉丸に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,自船の左舷船首部外板及び同ビルジキールに擦過傷を,住吉丸の右舷船首部外板に亀裂等をそれぞれ生じさせ,B受審人に1箇月を超える入院加療を要する左急性硬膜外血腫等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,夜間,地ノ島南方沖合において,停留して揚網作業にあたる場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,付近の水深が浅いことから通航船はいないものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する金安丸に気付かず,網の巻揚げを一時中断して機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらずに衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:14KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION