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平成17年広審第161号
件名

油送船聖幸丸貨物船アジアン フェーバー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月31日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(原 清澄,島 友二郎,藤岡善計)

理事官
上田英夫

受審人
A 職名:聖幸丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
聖幸丸・・・左舷側端艇甲板等に凹損
アジアン フェーバー・・・右舷側船尾部外板に凹損

原因
聖幸丸・・・追い越しを中止しなかったこと(主因)
アジアン フェーバー・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,アジアン フェーバーを追い越す態勢の聖幸丸が,追い越しを中止しなかったことによって発生したが,アジアン フェーバーが,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年5月12日23時35分
 来島海峡西水道
 (北緯34度07.2分 東経132度59.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船聖幸丸 貨物船アジアン フェーバー
総トン数 998トン 4,450トン
全長 81.02メートル 99.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット 4,320キロワット
(2)設備及び性能等
ア 聖幸丸
 聖幸丸は,平成7年10月に進水した,可変ピッチプロペラを装備し,専ら瀬戸内海でC重油を運搬する船尾船橋型鋼製油送船で,船橋前面から船首端までの長さが約62メートルであった。
 操舵室には,前面中央に操舵装置,左舷側にレーダー2台,右舷側に機関及びバウスラスターの遠隔操縦装置がそれぞれ設けられていた。
 船体部海上公試運転成績書による操縦性能は,舵角35度とし,主機の出力4/4のときの最大縦距が,左旋回で265メートル,右旋回で232メートルであり,同様に最大横距が,左旋回で267メートル,右旋回で271メートルであった。
 また,90度旋回するのに左旋回で46秒,右旋回で44秒の時間を要し,前後進試験によれば,速力14.19ノットのとき後進発令から船体停止までの所要時間は2分16秒で,その航走距離は528メートルで,航海速力は,満載時で11.8ノット,空船時で12.5ノットであった。
イ アジアン フェーバー
 アジアン フェーバー(以下「ア号」という。)は,平成15年9月に進水した,可変ピッチプロペラを装備し,日本及び中華人民共和国の諸港間に就航する船尾船橋型鋼製コンテナ船で,船橋前面から船首端までの長さが約94メートルであった。
 操舵室には,操舵装置のほかレーダー2台,GPS,ECDIS,AISなどが設けられていた。
 操縦性能では,満載時で主機の出力4/4のとき,後進発令から船体停止までの所要時間は3分18秒,その航走距離は668メートルで,航海速力は,16.3ノットであった。

3 事実の経過
 聖幸丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,C重油2,008キロリットルを積載し,船首4.3メートル船尾5.5メートルの喫水をもって,平成17年5月12日19時20分岡山県水島港を発し,航行中の動力船が掲げる灯火を表示し,関門港に向かった。
 ところで,A受審人は,船橋当直を00時から04時及び12時から16時までを二等航海士に,04時から08時及び16時から20時までを一等航海士にそれぞれ担当させ,08時から12時及び20時から24時までを自らが行い,各直に甲板長又は甲板員を1人入直させて4時間3直制と定め,出港操船終了後一等航海士に船橋当直を任せて降橋した。
 同日19時50分ころA受審人は,塩飽諸島の手島沖で昇橋し,一等航海士から引き継ぎを受け,20時00分甲板長とともに船橋当直に就き,22時47分備後灘航路第1号灯浮標を左舷に見て航過したころ,左舷前方3海里ばかりのところに先航するア号をレーダーと肉眼で認め,ARPAによるプロッティングを開始した。
 23時12分A受審人は,来島海峡航路第10号灯浮標を左舷至近に見て同航路に入ったところで,機関長を機関操作のために昇橋させたうえ,甲板長に手動操舵に就くよう指示したものの,同人の自信がないとの申し出を受けて自ら操舵に当たり,時折レーダー映像を見たり,甲板長にア号の距離データなどを適宜報告させながら,西水道に向かった。
 23時29分A受審人は,ウズ鼻灯台から194度(真方位,以下同じ。)430メートルの地点に至ったとき,針路を340度に定め,機関回転数を毎分245にかけて翼角を16度とし,潮流に抗して8.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,西水道の馬島寄りを進行した。
 23時30分A受審人は,ウズ鼻灯台から228度250メートルの地点において,ア号を左舷船首23度420メートルに認めるようになり,このまま続航すると西水道の屈曲部付近で追いつく状況であったが,自船よりも四国寄りを航行していたので,ア号の右舷側を追い越すことができるものと思い,速やかにア号の追い越しを中止することなく進行した。
 23時32分少し前A受審人は,ウズ鼻灯台から304度390メートルの地点に達し,針路を西水道北口に向く355度に転じ,翼角を10度として5.7ノットの速力に減じたころ,ア号が左舷船首34度270メートルまで接近したものの,同船との横距離があるので,依然として追い越すことができると思い,続航した。
 23時34分少し過ぎA受審人は,左舷至近に迫ったア号と衝突の危険を感じ,右舵をとったが,効なく,23時35分小浦埼灯台から298度260メートルの地点において,聖幸丸は,045度に向首したとき,原速力のまま,その左舷側後部がア号の右舷側船尾部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,付近海域には5.8ノットの南流があった。
 また,ア号は,ウクライナ国籍を有する船長Bほか同国人3人及びフィリピン共和国人9人が乗り組み,コンテナ1,069トンを積載し,船首4.2メートル船尾5.1メートルの喫水をもって,同日20時15分広島県福山港を発し,航行中の動力船が掲げる灯火を表示し,広島港に向かった。
 ところで,B船長は,船橋当直を00時から04時及び12時から16時までを二等航海士に,04時から08時及び16時から20時までを一等航海士にそれぞれ担当させ,08時から12時及び20時から24時までを自らが行い,各直に甲板員を1人入直させて4時間3直制と定め,出港操船に引き続き船橋当直にあたって,備後灘を西行し,22時40分ENライン通過を来島海峡海上交通センター(以下「来島マーチス」という。)に通報した。
 23時11分B船長は,来島海峡航路に入ったところで,甲板員を手動操舵に,増員した一等航海士を見張りに,甲板長と甲板員を船首配置に就けて操船の指揮を執り,同航路西水道に向かって進行した。
 23時28分B船長は,ウズ鼻灯台から229度400メートルの地点で,針路を336度に定め,潮流に抗して6.5ノットの速力で,西水道の四国寄りを続航した。
 23時30分B船長は,ウズ鼻灯台から286度480メートルの地点に達し,右舷後方19度420メートルばかりのところに,聖幸丸の白,白,紅の灯火を認め,同船の動静監視を行いながら進行した。
 23時31分少し前B船長は,予定の転針点にあたるウズ鼻灯台から297度610メートルの地点で,針路を西水道北口に向く015度に転じるとともに,船首方280メートルのところを西行中の同航船との距離を保つため,4.0ノットの速力に減じたところ,聖幸丸を右舷後方63度370メートルに認める状況となり,自船を追い越す態勢で接近するのを知り,同船に対して追い越しを中止するよう国際VHFで呼びかけたものの,応答を得られず,同船に対して警告信号を行わないまま続航した。
 23時35分少し前B船長は,間近に迫った聖幸丸に衝突の危険を感じ,右舵一杯を令したが,効なく,ア号は,ほぼ原針路及び原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,聖幸丸は左舷側端艇甲板等に,ア号は右舷側船尾部外板にそれぞれ凹損を生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,来島海峡航路において,西水道を西行している聖幸丸とア号とが衝突したものであり,適用される航法について検討する。
 来島海峡航路は,海上交通安全法が適用される航路であるが,同法には,本件に対し適用する航法がないので,一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用される。
 本件は,来島海峡航路西水道の航路幅が600メートルほどしかない屈曲した最狭部において発生したもので,衝突時は強い南流があり,しかもア号の前方間近には同航船が存在するなど,周囲の状況を考慮すると,ア号が聖幸丸を安全に通過させるための動作をとらなければ,聖幸丸が安全に追い越すことは困難な状況であり,ア号も聖幸丸を安全に通過させるための動作をとることができない状況にあった。
 よって,予防法第38条及び第39条を適用し,船員の常務によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 聖幸丸
(1)ア号が四国寄りを航行していたので,十分に追い越しができるものと思ったこと
(2)追い越しを中止しなかったこと
(3)A受審人自らが操舵していたこと

2 ア号
 警告信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,聖幸丸が,夜間,来島海峡航路西水道において,先航するア号に対して追い越しを中止していたならば,本件を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,ア号は自船より四国寄りを航行していたので,このままでもア号の右舷側を追い越すことができると思い,同船に対して追い越しを中止しなかったことは本件発生の原因となる。
 A受審人が,自ら操舵していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,ア号が,西水道の最狭部で追い越す態勢で接近する聖幸丸を認めたとき,警告信号を行っていたら,本件を回避できたものと認められる。
 したがって,B船長が追い越す態勢の聖幸丸に対して警告信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,来島海峡航路西水道の屈曲部において,ア号を追い越す態勢の聖幸丸が,追い越しを中止しなかったことによって発生したが,ア号が,警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,来島海峡航路西水道の屈曲部において,同航路を西行中,先航するア号を追い越す態勢で接近する場合,同船を安全に追い越すことが困難な状況であったから,速力を減じて追い越しを中止すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,ア号が自船よりも四国寄りを航行していたので,ア号の右舷側を追い越すことができるものと思い,追い越しを中止しなかった職務上の過失により,西水道の屈曲部において,ア号との衝突を招き,聖幸丸の左舷側端艇甲板等に凹損を,ア号の右舷側船尾部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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