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平成18年神審第48号
件名

モーターボート ノースマリアナ水上オートバイ エイチ・エイチII衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(加藤昌平,雲林院信行,甲斐賢一郎)

理事官
稲木秀邦

受審人
A 職名:ノースマリアナ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:エイチ・エイチII船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ノースマリアナ・・・右舷船底部に擦過傷
エイチ・エイチII・・・船首部ハッチカバー,操縦ハンドルに破損,船長が左頬に打撲,同乗者2人が脳挫傷,頭蓋骨骨折,上顎骨骨折,左橈骨骨折等

原因
ノースマリアナ・・・動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守
エイチ・エイチII・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は,ノースマリアナが,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,エイチ・エイチIIが,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月1日13時55分
 福井県三方郡美浜町日向地区北方沖合
 (北緯35度36.7分 東経135度52.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボートノースマリアナ 水上オートバイエイチ・エイチII
登録長 4.80メートル 2.73メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 91キロワット 86キロワット
(2)設備及び性能等
ア ノースマリアナ
 ノースマリアナ(以下「ノース号」という。)は,平成11年8月に第1回定期検査を受検した,船外機を装備する最大とう載人員6人のFRP製プレジャーモーターボートで,船体ほぼ中央部右舷側に操舵スタンドを備え,その船尾方に操縦者席を,操縦者席の左舷側に1席,船尾側に2席の座席を設け,前部及び後部にソファーを設置していた。
 最大速力は時速60キロメートル(以下「キロ」という。)で,本件時の時速35キロで進行中の最短停止距離は30メートルであった。
イ エイチ・エイチII
 エイチ・エイチII(以下「エイチ号」という。)は,平成12年7月に第1回定期検査を受検した,最大とう載人員3人のFRP製水上オートバイで,船体ほぼ中央部に3人用袴座式シートを配し,始動用キーとして高速及び低速用の2種類を備え,低速用キー使用時には,最高速度が制限されるようになっていた。また,操縦用ハンドルの右側グリップ基部にスロットルレバーが装備され,アイドリング状態での速力は時速5キロで,同ハンドル下部にあるシフトレバーをリバースにすることによって停止や後進が可能であった。

3 事実の経過
 ノース号は,A受審人が船長として1人で乗り組み,知人7人を同乗させ,沖合でウエイクボードや遊走を楽しむ目的で,船首尾とも0.8メートルの等喫水をもって,平成17年8月1日13時ごろ福井県美浜町日向地区の海岸を発航して沖合に向かった。
 ところで,A受審人は,B受審人,取引先の関係者及びその子供など25人とともに,同日朝,モーターボート2隻及び水上オートバイ3隻で,美浜町久々子湖岸のマリーナを発し,同町日向地区にある標高183.4メートルの日向三角点の西南西1,000メートルばかりのところに広がる,長さ約400メートルの砂浜に至り,同砂浜西端付近でバーベキューをしたり,モーターボートや水上オートバイを使用して同砂浜沖合で遊走していたものであった。
 沖合でしばらく遊走したのちA受審人は,13時54分日向三角点から291度(真方位,以下同じ。)990メートルの地点で,東南東方向の海岸寄りにB受審人が乗船してゆっくり北上するエイチ号を視認し,同号と合流するつもりで,同号のやや北方に向けて針路を105度に定め,毎時35キロの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 発進後,A受審人は,同乗者と話をしながら,ときどき前方のエイチ号を確認して続航し,13時54分半少し過ぎ日向三角点から295度610メートルの地点に達したとき,右舷船首10度170メートルのところにエイチ号を認め,もう少し接近したら減速及び停止するつもりで,同一針路,速力のまま同乗者と話をしているうちに,さらに接近して同号と衝突のおそれがある状況となったが,同乗者との話に気をとられて動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,機関を後進にかけて停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
 13時55分わずか前A受審人は,右舷船首15度60メートルとなったエイチ号が,ゆっくり左旋回しながら接近したものの,依然として同乗者と話をしながら続航中,右舷船首目前にエイチ号を視認して左舵をとったが効なく,13時55分日向三角点から299度420メートルの地点において,原速力のまま075度に向首したノース号の右舷船底中央部が,エイチ号の船首部に後方から60度の角度で衝突したのちこれを乗り切った。
 当時,天候は晴で風はなく,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 また,エイチ号は,B受審人が1人で乗り組み,水着の上に救命胴衣を着用した知人の子供2人を座席前部に跨らせて同乗させ,自らも救命胴衣を着用し,遊走の目的で,喫水不詳のまま,13時49分前示砂浜を発航して北東方に向かった。
1 3時54分B受審人は,日向三角点から288度470メートルの地点に至ったとき,知人の水上オートバイが接近してきたので,針路を054度に定め,機関をアイドリング回転数として毎時5キロの速力で同船と併走し,左手を操縦ハンドルから離して右手だけを軽く同ハンドルにかけた姿勢で,知人及び同乗の子供たちと話をしながら進行した。
 13時54分半少し過ぎB受審人は,日向三角点から294度440メートルの地点に達したとき,左舷船尾61度170メートルのところに,ノース号がエイチ号に合流しようと接近中で,その後衝突のおそれがある状況となったが,知人及び子供たちと話をしていて周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,シフトレバーを操作して停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 13時55分わずか前B受審人は,日向三角点から297度430メートルの地点で,知人との話の途中で身体を左舷側に向けた際,右手をかけていた操縦ハンドルがわずかに左に切られてエイチ号が緩やかに左旋回を始めたので,とっさに両手で同ハンドルをつかんだところ,右手の指がスロットルレバーにかかってわずかに増速し,毎時10キロの速力となって緩やかに左旋回しながら進行中,015度に向首したとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ノース号の右舷船底部に擦過傷を生じ,エイチ号の船首部ハッチカバー及び操縦ハンドルを破損した。また,衝突の衝撃でB受審人及びエイチ号の同乗者2人が海中転落し,B受審人は,左頬に打撲を,同乗者2人が,脳挫傷及び頭蓋骨骨折並びに上顎骨骨折及び左橈骨骨折等をそれぞれ負った。

(航法の適用)
 本件は,ノース号がエイチ号を追い越す態勢で接近中に発生したものであるが,ノース号にエイチ号を追い越す意思はなく,同号に接近すれば減速,停止して合流するつもりであったから,追越し船の航法は適用されず,船員の常務によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 ノース号
(1)最大とう載人員を超えて乗船していたこと
(2)動静監視を十分に行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 エイチ号
(1)子供2人を座席前部に座らせていたこと
(2)周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(4)緩やかに左旋回しながら進行したこと

(原因の考察)
 本件は,ノース号が,エイチ号に接近中,動静監視を十分に行っていたなら,エイチ号への接近状況を把握し,衝突のおそれがある状況となったことを認識して停止するなどの措置をとることができ,発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,動静監視を十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,最大とう載人員を超えて同乗者を乗船させていたことは,船舶安全法に違反するものであるが,このことが同人の動静監視の妨げとなるものではないから,本件発生の原因とはならない。しかしながら,法令遵守及び海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 エイチ号が,周囲の見張りを十分に行っていたなら,左舷後方から接近するノース号を視認することができ,衝突のおそれがある状況となったことを認識し,停止するなどして本件の発生はなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が,見張りを十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 発生のわずか前,エイチ号が緩やかに左旋回しながら進行したことは,同号が旋回を始めたときには,両船間の距離は60メートルで,同号の旋回がなかったとしても,両船が著しく接近する状況となっていたものと認められ,すでに衝突のおそれがあったので,新たな衝突のおそれを惹起したことには当たらず,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,本件時,B受審人は2人の子供を同乗させており,大人を同乗させる場合に比べ,見張り及び操船により細心の注意が求められるところである。
 子供2人を座席前部に座らせていたことは,B受審人の供述にあるように,それまで同じ状態でも周囲の見張りを行っており,本件時,特にその見張りを妨げる状況になかったと認められるから,本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,福井県美浜町日向地区の海岸沖合において,ノース号が,前路を北上中のエイチ号に合流するために接近する際,動静監視が不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,エイチ号が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は,福井県美浜町日向地区の海岸沖合において,前路を北上中のエイチ号に合流するために接近する場合,同号と衝突のおそれがある状況となったことを見落とさないよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,同乗者との話に気をとられて動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同号と近距離になり衝突のおそれがある状況となったことに気付かず,機関を後進にかけて停止するなど衝突を避けるための措置をとらずに進行して同号との衝突を招き,ノース号の右舷船底部に擦過傷を生じさせ,エイチ号の船首部ハッチカバー及び操縦ハンドルを破損させ,B受審人に左頬の打撲を,エイチ号の同乗者2人に,脳挫傷及び頭蓋骨骨折並びに上顎骨骨折及び左橈骨骨折等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 B受審人は,福井県美浜町日向地区の海岸沖合において,遊走する場合,後方から接近するノース号と衝突のおそれが生じたことを見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,知人及び同乗の子供たちと話をしていて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ノース号と衝突のおそれが生じたことに気付かず,シフトレバーを操作して停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行して同号との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自らと同乗者を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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