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平成18年神審第32号
件名

押船第二十六丸濱丸被押台船第二十五丸濱丸モーターボート和丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月3日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(加藤昌平,雲林院信行,甲斐賢一郎)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第二十六丸濱丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二十六丸濱丸押船列・・・損傷ない
和丸・・・右舷船首部外板に亀裂,同部ハンドレールに曲損,係留金物等損傷

原因
第二十六丸濱丸押船列・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
和丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第二十六丸濱丸被押台船第二十五丸濱丸が,見張り不十分で,漂泊中の和丸を避けなかったことによって発生したが,和丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年5月1日12時40分
 和歌山県梶取埼北東方沖合
 (北緯33度36.7分 東経135度58.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第二十六丸濱丸 台船第二十五丸濱丸
総トン数 19トン  
全長 16.20メートル 66.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,472キロワット  
船種船名 モーターボート和丸  
全長 7.95メートル  
機関の種類 電気点火機関  
出力 95キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第二十六丸濱丸
 第二十六丸濱丸(以下「丸濱丸」という。)は,平成14年10月に進水した2機2軸の推進器と2枚の舵板を有する鋼製押船で,船側両舷に各2個のバージ連結用油圧シリンダー装置を装備し,船体ほぼ中央部に設けた甲板上高さ11メートルのやぐら上に,両ウイングを含んだ幅4メートル,前後長さ2メートルの操舵室を配していた。
 操舵室には両舷にドアを設け,ウイングに出て見張りを行うことができるようになっており,同室内には,マグネットコンパス,舵輪,レーダー,GPSプロッター,自動操舵装置,主機遠隔操縦装置及びバージ用バウスラスター遠隔操縦装置が装備されていた。
イ 第二十五丸濱丸
 第二十五丸濱丸(以下「台船」という。)は,非自航の鋼製台船で,船首部に,全長37.8メートルで主巻総荷重308トンのブームを備えた,長さ11メートル幅8メートル高さ3メートルの回転式クレーン操縦室を配し,同操縦室天井上方部には,高さ11メートルで下端及び上端の幅が各々8.0メートル及び3.5メートルのクレーンブーム支持・操作用構造部材(以下「ガントリー」という。)が取り付けられていた。
 船体中央部に,長さ22.6メートル幅19.0メートル高さ1.0メートルの貨物区画,その船尾方に乗組員居住区を配し,船首部甲板下に押船から遠隔発停及び操作ができるバウスラスターを,船尾ノッチ部に押船用油圧式連結装置を備え,外舷及び船首にタイヤフェンダーを装備していた。
ウ 押船列
 丸濱丸と台船を連結した押船列(以下「丸濱丸押船列」という。)は,全長69メートル,船首端から船橋までの距離が59メートルで,船橋中央からの前方見通しは,ガントリーによって船首各舷3.5度が見えにくくなるものの,ウイングに出ればその角度は1.5度となり,双眼鏡を使用して注視すれば,ガントリーの構造部材の間から正船首方の視界を得ることができた。
 そして,クレーン操縦室によって,船首各舷4度,ウイングに移動すれば2度の範囲で,押船列船首端から前方300メートルのところまで死角を生じていた。
 また,ガントリー上端がレーダースキャナより上方となるものの,レーダーによる正船首方の物標探知に大きく影響を及ぼすことはなく,FRP製の船舶であっても,その存在を認めることができた。
エ 和丸
 和丸は,平成10年12月に進水した船外機を装備するFRP製プレジャーモーターボートで,船体ほぼ中央部に船室及び後壁を設けない操舵室を配し,操舵室内には,マグネットコンパス,舵輪,GPS・魚群探知機一体型の受像器,主機遠隔操縦装置及び電気ホーンを備え,後部甲板には,縦横各1.8メートルのスパンカーセイルを揚げることができた。

3 事実の経過
 丸濱丸押船列は,A受審人ほか1人が乗り組み,喫水が船首1.5メートル船尾2.8メートルとなった丸濱丸に,空船で喫水が船首尾とも1.5メートルとなり作業員3人が乗り組んだ台船を連結し,クレーン整備の目的で,平成17年5月1日10時30分和歌山県串本港を発し,同県宇久井港に向かった。
 A受審人は紀伊半島東岸に沿って北上し,12時26分那智勝浦鰹島灯台(以下「鰹島灯台」という。)から154度(真方位,以下同じ。)1.7海里の地点で,針路を002度に定め,機関を全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,甲板員1人を左舷側の見張りに就け,自らは手動操舵で操船しながら船首方及び右舷側の見張りを行い,折からの風潮流により5度右に偏向して007度の実効針路となって進行した。
 12時35分A受審人は,鰹島灯台から112度1.0海里の地点に達し,針路を355度に転じて実効針路000度で続航したところ,右舷船首1.5度1,100メートルのところに視認できる状況であった和丸が右舷船首8.5度となり,折からの風潮流により北北西に圧流される同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,定針後,勝浦港から出港して自船の船首方を航過した漁船以外に他船を認めなかったことから,前路に支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同一針路,速力で続航した。
 12時39分半A受審人は,台船の作業員から携帯無線機で,前路で和丸が電気ホーンを吹鳴している旨の報告を受け,機関を全速力後進とし,台船のスラスターを始動して右舷側一杯にかけたものの及ばず,12時40分鰹島灯台から071度1,760メートルの地点において,原針路のまま1.0ノットの速力となったとき,台船の船首が和丸の右舷中央部に直角に衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の南南東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 また,和丸は,B受審人が1人で乗り組み,同乗者1人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,5月1日08時20分勝浦港を発し,同港北東方沖合3海里ばかりのところで魚釣りを行ったのち,釣り場を移動して鰹島東方沖合に移動した。
 12時10分B受審人は,鰹島灯台から098度1.05海里の地点に至って機関停止とし,船首から直径4.5メートルのパラシュートアンカーを投じてトーイングロープを30メートル延出し,スパンカーセイルを張って漂泊を開始した。
 12時30分B受審人は,折からの風潮流で北北西に圧流されて鰹島灯台から082度1.0海里の地点で113度に向首していたとき,右舷船首74度1.2海里のところに,右舷側を見せ自船の船尾方に向首して北上する丸濱丸押船列を視認し,ときどき同押船列を見ながら釣りを続けた。
 12時35分B受審人は,鰹島灯台から077度0.95海里の地点まで流されたとき,右舷船首70.5度1,100メートルとなった丸濱丸押船列が左転し,右舷側を見せたまま衝突のおそれがある態勢で接近したが,同押船列が右舷側を見せて北上しているので,いずれ左転して勝浦港に入港するものと思い,その後,釣具の調整を始めて同船の動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,機関を始動して前方に移動するなど,同押船列との衝突を避けるための措置をとることもなく,漂泊を続けた。
 12時39分半B受審人は,顔を上げて右舷側を見たとき,至近に迫った丸濱丸押船列を視認して衝突の危険を感じ,電気ホーンを吹鳴し,機関を全速力後進にかけたものの効なく,085度に向首したとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,丸濱丸押船列に損傷はなかったが,和丸は,右舷船首部外板に亀裂,同部ハンドレールに曲損を生じ,係留金物等を損傷したが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 丸濱丸押船列
(1)クレーン操縦室上部のガントリーにより,船首各舷3.5度の範囲が見えにくくなっていたこと
(2)クレーン操縦室により,船首方に死角を生じていたこと
(3)前路の見張りを十分に行わなかったこと
(4)和丸を避けなかったこと

2 和丸
(1)北北西に圧流されたこと
(2)丸濱丸押船列が勝浦港に入港するものと思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,丸濱丸押船列が,ウイングに出て双眼鏡を使用して前方を注視するなり,レーダー画面を確認するなりして,クレーン操縦室上のガントリーにより見えにくくなった前方視界を補う十分な見張りを行っていたなら,前路で漂泊中の和丸を発見することができ,同船を避けていたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前路の見張りを十分に行わず,漂泊中の和丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 クレーン操縦室上部のガントリーにより,船首各舷3.5度の範囲が見えにくくなっていたこと及びクレーン操縦室により,船首方に死角を生じていたことは,先に認定したように,和丸がクレーン操縦室及び同室上のガントリーによって視認を妨げられる位置にいたのではないことから,いずれも本件発生の原因とはならない。
 和丸が,自船を近距離で航過する態勢で接近する丸濱丸押船列を認めた際,十分に動静監視を行っていれば,同押船列が,転針して衝突のおそれがある態勢となって接近するのを認めることができ,同押船列に対して十分余裕のある時期に警告信号を行い,機関を始動して前方に移動するなど衝突を避けるための措置をとって本件の発生はなかったものと認められる。
 B受審人は,衝突の30秒前に電気ホーンを吹鳴したが,このことは,同ホーンを聞いた丸濱丸押船列にとって,通常の運航方法で衝突を回避できる時間的な余裕があったとは言えないから,同ホーンの連吹を,警告信号を行ったものとは認められない。
 したがって,B受審人が,丸濱丸押船列がいずれ左転するものと思って動静監視を十分に行わず,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 和丸が漂泊中北北西に圧流されたことは,動静監視を行うことを妨げるものではなく,また,丸濱丸押船列が5度偏向して進行したことは,和丸に対して台船の右舷側を見せて同船の船尾方に向首する態勢となったのであるが,動静監視を十分に行っていれば,方位が変わらずに衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができるから,いずれも本件発生の原因とはならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,和歌山県梶取埼北東方沖合において,北上中の丸濱丸押船列が,見張り不十分で,前路で漂泊中の和丸を避けなかったことによって発生したが,和丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,和歌山県梶取埼北東方沖合において北上する場合,前路で漂泊中の和丸を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,勝浦港から出港して船首方を航過した漁船以外に他船を視認しなかったので,支障となる他船はないものと思い,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,和丸と衝突のおそれがある態勢となって接近することに気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,和丸の右舷船首部外板に亀裂及び同部ハンドレールに曲損を,係留金物等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,梶取埼北東方沖合において漂泊中,接近する丸濱丸押船列を視認した場合,同船と衝突のおそれが生じたことを見落とすことのないよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,同押船列が自船の船尾方に向首しているのでいずれ勝浦港に入港するために左転するものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,丸濱丸押船列が転針して同船と衝突のおそれが生じたことに気付かず,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらずに同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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