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平成18年横審第42号
件名

モーターボート エフ エー エイチ防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(金城隆支,清水正男,米原健一)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:エフ エー エイチ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部船底に破口,船首部右舷外板に擦過傷 船長が頭部外傷,頭部挫創,頚椎捻挫,同乗者5人が腰部打撲等

原因
飲酒運航防止措置不十分

主文

 本件防波堤衝突は,飲酒運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月31日21時30分
 愛知県東幡豆港
 (北緯34度47.1分 東経137度09.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボート エフ エー エイチ
登録長 8.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 191キロワット
(2)設備及び性能等
 エフ エー エイチ(以下「エ号」という。)は,B社製の最大とう載人員10人のFRP製プレジャーモーターボートで,前部にキャビン,中央部に操舵室をそれぞれ設け,同室には右舷側に操縦席及び前部にGPSプロッターを装備し,同室と後部甲板の間に固定仕切りはなく,上部に引き上げることが可能な仕切りがあり,同室天井後部の両舷に後部甲板照射用デッキライトがそれぞれ設置されており,愛知県東幡豆港のC社(以下「マリーナ」という。)に係留され,釣り目的等の航海に用いられるほか,同係留地で知人等の集りの会場としても用いられていた。

3 事実の経過
 エ号は,A受審人が1人で乗り組み,知人6人を乗せ,海上からの花火大会見物の目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年7月31日18時00分マリーナを発し,愛知県三河港蒲郡地区に向かった。
 ところで,A受審人は,前日30日夜自宅で1.8リットル瓶半分以上の日本酒を飲み,31日昼ごろ友人が操縦した別の船による三河港の下見の途中で,350ミリリットルの缶ビールを2本飲み,出港時は二日酔いの状態で,更に飲酒すると,少量のアルコールでも注意力や判断力が低下し,飲酒運航となるおそれがあった。
 A受審人は,18時20分三河港蒲郡地区に到着し,漂泊して花火の開始を待ち,後部甲板で飲食や歓談を始めた同乗者の中に加わり,酒は強い方なので少しぐらい飲んでいても大丈夫と思い,飲酒を控えるなど飲酒運航の防止措置を十分にとることなく飲酒を始め,その後開始された花火大会を見物しながら350ミリリットルの缶ビールを1本及び焼酎の水割りを紙コップ2杯飲んだ。
 20時50分A受審人は,花火大会終了に伴い帰途に就き,法定灯火を掲げ,後部甲板で飲食や歓談を続ける同乗者のために,同甲板照射用デッキライト2灯を点灯したまま,操舵室後部の仕切りを上部に引き上げ,操縦席に腰を下ろして操縦に当たった。
 21時27分A受審人は,GPSプロッターでマリーナの方向を確認し,橋田鼻灯台から311度(真方位,以下同じ。)690メートルの地点で,針路を358度に定め,機関を回転数毎分3,000にかけ,16.0ノットの対地速力で,手動操舵によって進行した。
 21時29分A受審人は,東幡豆港洲崎南防波堤外灯台(以下「防波堤外灯台」という。)から186度500メートルのマリーナ沖合の東幡豆港洲崎南防波堤(以下「防波堤」という。)によって形成される入り口に向けて転針する地点に至ったが,二日酔い状態で更に飲んだアルコールが作用して酒酔い等操縦となり,前方の防波堤外灯台等の灯火及びGPSプロッターに表示された防波堤を認めることができず,転針地点に達したことに気付かず,転針しないまま防波堤に向首して進行した。
 エ号は,原針路,原速力で続航し,21時30分わずか前A受審人が顔を上げたとき,前方に防波堤の黒い影を認め,機関のスロットルレバーを操作したものの,どうすることもできず,21時30分防波堤外灯台から270度60メートルの地点において,防波堤の消波ブロックに衝突した。
 当時,天候は曇で風力1の南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 防波堤衝突の結果,船首部船底に破口及び同部右舷外板に擦過傷を生じたが,のち修理され,A受審人が頭部外傷,頭部挫創及び頚椎捻挫を負い,同乗者5人が腰部打撲等を負った。また,衝突の衝撃で左回頭して進行し,付近に設置されていた小型定置網の索に衝突して同索の一部に破損を生じたが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 出港時,A受審人が二日酔いの状態であったこと
2 A受審人が酒は強い方なので少しぐらい飲んでいても大丈夫と思ったこと
3 A受審人が漂泊して海上から花火大会を見物中に飲酒したこと
4 帰航中,後部甲板照射用デッキライトを点灯していたこと
5 A受審人が酒酔い等操縦となったこと

(原因の考察)
 本件は,愛知県三河港蒲郡地区で漂泊して海上から花火大会を見物中,飲酒を控えるなど飲酒運航の防止措置を十分にとっていたなら,帰航中,転針地点に気付いて転針することができ,発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,二日酔いの状態で,酒は強い方なので少しぐらい飲んでいても大丈夫と思い,漂泊して海上から花火大会を見物中に飲酒し,酒酔い等操縦となったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,帰航中,後部甲板照射用デッキライトを点灯していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,同人が酒酔い等操縦となったことから,本件発生の原因とならない。しかし,これは,操舵室における見張りの妨げになることのみならず,海上衝突予防法の規定に違反する行為であり,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本防波堤衝突は,夜間,愛知県三河港蒲郡地区から同県東幡豆港のマリーナに向けて帰航する際,飲酒運航の防止措置が不十分で,マリーナ沖合の防波堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,愛知県三河港蒲郡地区において,漂泊して海上から花火大会を見物する場合,前日と当日昼ごろ飲酒して二日酔いの状態で,更に飲酒すると,少量のアルコールでも注意力や判断力が低下し,飲酒運航となるおそれがあったから,飲酒を控えるなど飲酒運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,酒は強い方なので少しらい飲んでいても大丈夫と思い,飲酒運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,漂泊して海上から花火大会を見物中に飲酒し,同県東幡豆港のマリーナに向かって帰航中,酒酔い等操縦となり,前方の防波堤外灯台等の灯火及びGPSプロッターに表示された防波堤を認めることができず,防波堤に向首したまま進行して衝突を招き,船首部船底に破口及び同部右舷外板に擦過傷を生じさせ,同乗者5人に腰部打撲等を負わせ,自らも頭部外傷,頭部挫創及び頚椎捻挫を負い,防波堤衝突の衝撃で左回頭して進行し,付近に設置されていた小型定置網の索に衝突して同索の一部に破損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。これは,同人が国土交通大臣の指定する再教育講習を受講したことを酌量したものである。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:15KB)





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