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平成18年仙審第15号
件名

漁船明雄丸漁船明神丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年8月29日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(小寺俊秋,弓田邦雄,供田仁男)

理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:明雄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a
受審人
B 職名:明神丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
明雄丸・・・右舷船首部外板に破口
明神丸・・・左舷中央部外板に圧壊

原因
明雄丸・・・視界制限状態時の航法(信号,レーダー,速力)不遵守(主因)
明神丸・・・視界制限状態時の航法(信号,レーダー)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,明雄丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが,明神丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月1日06時00分
 福島県請戸漁港東方沖合
 (北緯37度29.0分 東経141度07.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船明雄丸 漁船明神丸
総トン数 6.6トン 4.4トン
全長 16.70メートル 11.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 426キロワット 139キロワット
(2)設備及び性能等
ア 明雄丸
 明雄丸は,昭和59年7月に進水し,船体中央部に機関室囲壁と,その船尾側に操舵室を有するFRP製漁船で,毎年1月から3月及び5月から9月の間,福島県北部の沖合でさし網漁業に従事していた。
 操舵室には,前部中央に操舵装置,その左舷側にレーダー及びGPS,右舷側に魚群探知機及び主機操縦盤等,中央部天井に汽笛のスイッチが設置されており,また,同室前面の両舷に旋回窓,側壁に引き戸で開閉するガラス窓が取り付けられ,機関室囲壁の天井右舷側に煙突があったが,操舵室からの前方の見通しを妨げる状況ではなかった。
イ 明神丸
 明神丸は,昭和49年4月に進水し,船体中央部に機関室囲壁と,その船尾側に,前面にガラス窓が取り付けられ,後方が開放されている操縦席を有するFRP製漁船で,福島県北部の沖合で,主としてさし網漁業に従事していた。
 操縦席には,下部に船横方向の板を差し渡し,そこに立つと前方を見通すことができ,同席にレーダー,GPS及び魚群探知機を備え,同席右舷側にクラッチ及び主機操縦レバーを設置し,汽笛を装備し,舵柄によって操舵するようになっていた。

3 事実の経過
 明雄丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,さし網漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年8月1日01時00分福島県請戸漁港を発し,霧による視界制限状態のもと,同港東北東方約8海里沖合の漁場へ向かった。
 ところで,明雄丸が行うさし網漁は,1反の長さ67.5メートルのナイロン製漁網10反を1張りとし,両端上部に発泡スチロール製浮玉と旗竿の目印を,同下部に重りをそれぞれ取り付けて投網し,水深30メートルないし50メートルのところに設置して,翌日以降に揚網するものであった。
 A受審人は,01時40分漁場に至り,設置してあった5張りのさし網を揚網し,同じ場所に,新たに持参した網を投網した後,請戸漁港の東方約4海里の漁場に移動し,6張り目の揚網と投網を行った。
 05時50分A受審人は,予定した操業を終え,東電福島原子力発電所専用港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から055.5度(真方位,以下同じ。)6.6海里の地点を発進し,針路を265度に定めて自動操舵とし,機関を半速力前進にかけて8.1ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で請戸漁港への帰途に就いた。
 発進したときA受審人は,視程が約20メートルに狭められていたが,航行中の動力船が吹鳴しなければならない音響信号(以下「霧中信号」という。)を行わず,所定の灯火に加え操舵室上のマストに黄色の,船首マストに青色の各回転灯をそれぞれ点灯し,同室右舷側に立ち,レーダーを1.5海里レンジで作動して進行した。
 A受審人は,05時58分南防波堤灯台から050.5度5.7海里の地点に達したとき,正船首500メートルに漂泊中の明神丸のレーダー映像を認めることができ,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となった。
 しかし,A受審人は,北方に映っていた僚船のはっきりしたレーダー映像以外に他船の映像はないものと思い,使用レンジを適宜切り換えて小さな映像を大きく表示させたり,船首輝線を一時消してこれと重なる映像の有無を確認するなど,レーダーによる見張りを十分に行わなかったので,同輝線付近の小さな明神丸の映像を見落とし,前示状況に気付かないまま,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めることなく続航中,06時00分南防波堤灯台から049度5.5海里の地点において,明雄丸は,原針路,原速力で,その船首が明神丸の左舷中央部に後方から85度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風はなく,視程は約20メートルで,福島県浜通り地方に濃霧注意報が発表され,潮候は下げ潮の末期であった。
 また,明神丸は,B受審人が1人で乗り組み,さし網漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日02時00分請戸漁港を発し,霧による視界制限状態のもと,同港東方約4海里沖合の漁場へ向かった。
 B受審人は,1反の長さ75メートルのナイロン製漁網5反を1張りとし,明雄丸と同様の要領で操業を行っており,02時25分漁場に至り,所定の灯火に加え,船首甲板のマストに黄色回転灯1個と,船首尾甲板に作業用ハロゲン灯各1個を点灯し,南北方向に設置してあったさし網4張りを南から北に向かって揚網し,揚網終了地点から南に向かい,新たに4張りのさし網を投網して揚網開始地点に戻った。
 B受審人は,漁模様が良かったので,更にもう1張りを投網して設置することとし,0.5海里レンジとしたレーダーを時々見ながら,前示4張りのさし網の北端付近に移動し,05時48分南防波堤灯台から050.5度5.4海里の地点で,北へ向かって5張り目の投網を開始した。
 05時58分B受審人は,衝突地点で投網を終え,機関を中立運転として船首を180度に向けて漂泊を開始し,視程が約20メートルに狭められていたが,霧中信号を行わないまま,船尾で網を包んでいた風呂敷状の布の後片付けに取り掛かったとき,左舷船尾85度500メートルに明雄丸のレーダー映像を認めることができ,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となった。
 しかし,B受審人は,航走している他船が漂泊している自船を避けてくれるものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかったので,前示状況に気付かず,同船に対して注意喚起信号を行わずに漂泊中,明神丸は,船首が180度を向いたまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,明雄丸は,右舷船首部外板に破口を生じ,明神丸は,左舷中央部外板を圧壊したが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,霧のため視程が約20メートルとなった福島県請戸漁港東方沖合において,漁場から同港へ向けて西行中の明雄丸と,漂泊中の明神丸とが衝突したものであり,同海域に特別の規定が定められていないので海上衝突予防法を適用し,両船は互いに他の船舶の視野の内になかったのであるから,同法第19条視界制限状態における船舶の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 明雄丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)北方に映っていた僚船のはっきりしたレーダー映像以外に他船の映像はないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(3)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこと

2 明神丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)航走する他船が漂泊している自船を避けてくれるものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(3)注意喚起信号を行わなかったこと

3 気象等
 衝突地点付近の海域が霧のため視界制限状態となっていたこと

(原因の考察)
 本件は,明雄丸が,霧のため視界制限状態となった福島県請戸漁港東方沖合を同港に向けて西行中,霧中信号を吹鳴し,レーダーによる見張りを十分に行い,更に,明神丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めていたら,発生を避けられたものと認められる。
 したがって,A受審人が,霧中信号を行わなかったこと,北方に映っていた僚船のはっきりしたレーダー映像以外に他船の映像はないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと及び針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,明神丸が,霧のため視界制限状態となった請戸漁港東方沖合で漁具等の後片付けのため漂泊中,霧中信号を吹鳴し,レーダーによる見張りを十分に行い,更に,明雄丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,注意喚起信号を行っていれば,本件は発生を避けられたものと認められる。
 したがって,B受審人が,霧中信号を行わなかったこと,航走する他船が漂泊している自船を避けてくれるとものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと及び注意喚起信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 衝突地点付近の海域が霧のため視界制限状態となっていたことは,航行船や漂泊船にとって,通常に起こり得る気象現象であって特別なこととはいえず,本件発生の原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件衝突は,霧のため視界が制限された福島県請戸漁港東方沖合において,同港に向けて西行する明雄丸が,霧中信号を行わなかったばかりか,レーダーによる見張り不十分で,前路で漂泊中の明神丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが,明神丸が,霧中信号を行わず,レーダーによる見張り不十分で,明雄丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,霧のため視界が制限された福島県請戸漁港東方沖合において,同港に向けて西行する場合,前路の他船を見落とすことのないよう,使用レンジを適宜切り換えて小さな映像を大きく表示させたり,船首輝線を一時消してこれと重なる映像の有無を確認するなど,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,北方に映っていた僚船のはっきりしたレーダー映像以外に他船の映像はないものと思い,使用レンジを適宜切り換えて小さな映像を大きく表示させたり,船首輝線を一時消してこれと重なる映像の有無を確認するなど,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,明神丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き,明雄丸の右舷船首部外板に破口を,明神丸の左舷中央部外板に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,霧のため視界が制限された福島県請戸漁港東方沖合において,漂泊して漁具等の後片付けを行う場合,自船に著しく接近する明雄丸を見落とすことのないよう,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,航走する他船が漂泊している自船を避けてくれるものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,明雄丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,注意喚起信号を行わないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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