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平成18年門審第11号
件名

貨物船東峯丸貨物船昭眞丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月31日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小金沢重充,安藤周二,岩渕三穂)

理事官
工藤民雄

受審人
A 職名:東峯丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
補佐人
a
受審人
B 職名:昭眞丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)
補佐人
b

損害
東峯丸・・・船首部に破口を伴う圧壊
昭眞丸・・・右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損,右舷後部外板,船橋右舷側圧壊

原因
東峯丸・・・視界制限状態時の航法(信号,レーダー,速力)不遵守
昭眞丸・・・視界制限状態時の航法(信号,レーダー,速力)不遵守

主文

 本件衝突は,東峯丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,昭眞丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月14日21時25分
 和歌山県樫野埼東方沖合
 (北緯33度28.5分 東経135度53.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船東峯丸 貨物船昭眞丸
総トン数 199トン 198トン
全長 48.30メートル 47.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 478キロワット
(2)設備及び性能等
ア 東峯丸
 東峯丸は,平成2年4月に進水した限定沿海区域を航行区域とする液体化学薬品ばら積船で,主として山口県徳山下松港で塩酸を積み,三重県四日市港及び愛知県名古屋港で荷揚げする運航に従事していた。
 船橋には,前部中央に操舵スタンドがあり,同スタンドの左舷側にGPS,レーダー2台及び汽笛スイッチ,同右舷側に機関制御装置及び航海灯スイッチが備え付けられ,船橋後部左舷側に海図台が設備されていた。なお,両レーダーに自動衝突予防援助装置は組み込まれておらず,また,うち1台のレーダーは故障していた。
 海上試運転成績表によれば,ほぼ満載状態で対地速力10.4ノットの全速力前進中に,舵角35度で右旋回したとき,5度,60度,120度及び180度旋回に要する時間が,6秒,25秒,42秒及び56秒,同様に左旋回したとき,5秒,21秒,36秒及び50秒で,10.4ノットの前進中に,後進発令から船体停止までの所要時間が1分5秒であった。
イ 昭眞丸
 昭眞丸は,平成7年12月に進水した限定沿海区域を航行区域とする液体化学薬品ばら積船で,主として徳山下松港で塩酸を積み,大阪港及び名古屋港で荷揚げする運航に従事していた。
 船橋には,前部中央に操舵スタンドがあり,同スタンドの左舷側にレーダー,GPS及び航海灯スイッチ,同右舷側に機関制御装置,船長室直通電話及び汽笛スイッチが備え付けられ,船橋後部に海図台が設備されていた。なお,レーダーに自動衝突予防援助装置は組み込まれていなかった。
 海上公試成績表によれば,ほぼ満載状態で対地速力10.1ノットの全速力前進中に,舵角35度で右旋回したとき,5度,90度及び180度旋回に要する時間が,6.8秒,30.0秒,及び55.6秒,同様に左旋回したとき,8.4秒,31.2秒及び56.0秒で,10.1ノットの前進中に,後進発令から船体停止までの所要時間は1分11秒であった。

3 事実の経過
 東峯丸は,船長C,A受審人ほか2人が乗り組み,空倉で,船首1.2メートル船尾3.1メートルの喫水をもって,平成17年7月14日10時25分名古屋港を発し,徳山下松港へ向かった。
 C船長は,出港操船後の船橋当直を,甲板員,A受審人,甲板員そして自らの順番に2時間交替で行う単独4直の輪番制としていた。また,運航者の運航管理担当者から視程が制限されたときの見張り強化,霧中信号の吹鳴及び安全な速力にするなどを規定した運航基準を遵守するよう訪船指導を受け,乗組員に対して,同基準を遵守するよう指導するとともに,視界制限時に自ら操船指揮が執れるよう,視界制限状態となったときの報告について当直者に順次申し送りを指示していた。
 20時50分A受審人は,梶取埼灯台から167度(真方位,以下同じ。)3.0海里の地点で,前直者と交替して単独の船橋当直に就き,船長指示のコースラインより1.5海里ばかり陸岸に寄っていたものの,視界も良かったことから,同ラインに沿う228度の針路に定め,機関を全速力前進にかけ,11.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
 21時05分A受審人は,樫野埼灯台から061度4.0海里の地点に達したとき,霧により視程が1海里以下の視界制限状態となったのを認め,また,反航船が0.5海里ばかりで見え隠れすることもあったので,8.0ノットに減速して手動操舵に切り替え,同状態になったとき船長に報告するよう指示されていたが,濃淡を繰り返す霧模様から,しばらく様子を見ることとし,視界制限状態になったことを船長に報告しなかった。
 21時15分ごろA受審人は,霧が濃くなって視程約100メートルになったものの,安全な速力にすることも,霧中信号を行うこともしないまま,1.5海里レンジとしたレーダー画面を時折見ながら続航した。
 21時18分少し過ぎA受審人は,樫野埼灯台から070度2.2海里の地点に達したとき,昭眞丸が左舷船首4度2.0海里のところを北上中で,その後,著しく接近することを避けることができない状況となったが,他船と1.5海里以内に近づいてからでも避けられると思い,レンジを切り替えるなど,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,また,必要に応じて行きあしを停止することもなく進行した。
 21時20分わずか前A受審人は,樫野埼灯台から073度2.0海里の地点で,ふと見たレーダー画面の左舷前方外周一杯の左舷船首4度1.5海里のところに昭眞丸の映像が現れ始め,同船が反航する針路で進行していることを認めたが,左舷方に現れたことと自船が陸岸に近寄って航行していたこととから,左舷対左舷で航過できるものと考え,同じ針路速力で続航した。
 A受審人は,いずれ昭眞丸が左舷方に見えてくるものと思い,左舷方に目を凝らしながら樫野埼東方沖合を南下中,21時25分わずか前左舷船首至近に昭眞丸の緑灯を初認し,驚いて左舵一杯としたが及ばず,21時25分樫野埼灯台から083.5度1.4海里の地点において,東峯丸は,原速力のまま,223度に向いたその船首が,昭眞丸の右舷船首部に前方から15度の角度で衝突し,更に,同船の船橋右舷側に衝突した。
 C船長は,衝撃を感じて直ちに昇橋し,事後の措置に当たった。
 当時,天候は霧で風力1の東北東風が吹き,視程は約100メートルであった。
 また,昭眞丸は,船長D,B受審人ほか1人が乗り組み,塩酸200トンを積載し,船首2.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,平成17年7月14日11時10分大阪港を発し,名古屋港へ向かった。
 D船長は,船橋当直を,00時から04時までと12時から16時までを自ら,04時から08時までと16時から20時までを機関長及び08時から12時までと20時から24時までをB受審人がそれぞれ単独で就く4時間交替の3直体制としていた。また,運航者の運航管理担当者から視程が制限されたときの見張り強化,霧中信号の吹鳴及び安全な速力にするなどを規定した運航基準を遵守するよう訪船指導を受け,乗組員に対して,同基準を遵守するよう指導するとともに,視界制限時に自ら操船指揮が執れるよう,視界制限状態となったときの報告について当直者に指示していた。
 19時30分B受審人は,和歌山県周参見漁港沖合で単独の船橋当直に就き,紀伊半島の距岸1ないし2海里に引かれた船長指示のコースラインに沿って東行を続けた。
 B受審人は,21時10分ごろ須江港沖東防波堤灯台から119度1.5海里の地点で,040度の針路及び9.7ノットの速力で進行していたとき,霧により視程が1海里以下の視界制限状態となり,同状態になったとき船長に報告するよう指示されていたものの,流れるような霧で直ぐに晴れそうでもあったので,この状況を船長に報告せず,安全な速力にすることも,霧中信号を行うこともしないまま,手動操舵により続航した。
 B受審人は,21時16分半樫野埼灯台から151度1.0海里の地点で,1.5海里レンジをオフセンターとして前方の映像探知範囲を後方より広く表示できるように設定したレーダー画面を時折見ていたとき,右舷船首5度2.5海里のところに東峯丸の映像を初めて探知したので,その輝点に向首するように045度の針路とし,その後,輝点がほぼ船首輝線上を接近していることを確認したのち,右舷対右舷で航過することとして左へ舵をとることにした。
 21時18分少し過ぎB受審人は,樫野埼灯台から136度1.0海里の地点で,針路を040度に定めたとき,右舷船首4度2.0海里となった東峯丸の映像を認めたが,左に転舵したことから右舷対右舷で航過できるものと思い,その後,輝点にカーソルを当てて方位変化を確認するなど,レーダーによる動静監視を十分に行わなかったので,東峯丸と衝突のおそれがあることに気付かず,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく,樫野埼東方沖合を北上した。
 B受審人は,霧が次第に濃くなって視程が約100メートルとなった状況下,同じ針路,速力のまま続航し,21時23分半東峯丸の映像を右舷船首方850メートルに認め,依然,右舷対右舷で航過できるものと思い込んだまま,少しでも船間距離を開けようとして左舵5度を数秒とった後中央に戻す操舵を2ないし3回繰り返すうち,21時25分わずか前右舷船首約100メートルのところに東峯丸の紅灯を視認し,左舵をとったが及ばず,昭眞丸は,船首が028度を向いたとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 D船長は,衝撃を感じて直ちに昇橋し,事後の措置に当たった。
 衝突の結果,東峯丸は,船首部に直径約1メートルの破口を伴う圧壊を,昭眞丸は,右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損,右舷後部外板及び船橋右舷側に圧壊をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,霧のため視程が100メートルの視界制限状態となった樫野埼東方沖合において,名古屋港から徳山下松港に向けて南下中の東峯丸と,大阪港から名古屋港に向けて北上中の昭眞丸とが衝突したもので,両船は互いに他の船舶の視野の内になかったのであるから,海上衝突予防法第19条視界制限状態における航法が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 東峯丸
(1)A受審人が,視界制限状態になったとき,船長に報告しなかったこと
(2)霧中信号を行わなかったこと
(3)安全な速力としなかったこと
(4)1.5海里以内に近づいてからでも避けられると思い,レンジを切り替えるなど,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(5)昭眞丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこと

2 昭眞丸
(1)B受審人が,視界制限状態になったとき,船長に報告しなかったこと
(2)霧中信号を行わなかったこと
(3)安全な速力としなかったこと
(4)東峯丸を正船首方に探知していた状態から左に転舵したので右舷対右舷で航過できると思い,輝点にカーソルを当てて方位変化を確認するなど,レーダーによる動静監視を行わなかったこと
(5)レーダーで前方に認めた東峯丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこと

(原因の考察)
 東峯丸が,樫野埼東方沖合を南下中,A受審人が霧により視界制限状態になったとき船長に報告せず,視界制限時船長による操船指揮が執られなかったことは本件発生の原因となる。さらにレーダーによる見張りを十分に行っていれば,昭眞丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことが分かり,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを停止することによって,本件発生を防止できたものと認められるので,レンジを切り替えるなど,レーダーによる見張りを十分に行わず,昭眞丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
 霧中信号を行わなかったこと及び安全な速力としなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,昭眞丸との距離が1.5海里となったときレーダーで同船を探知してその存在と接近を知っており,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを停止することによって衝突を回避できたと認められるから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,昭眞丸が,樫野埼東方沖合を北上中,B受審人が霧により視界制限状態になったとき船長に報告せず,視界制限時船長による操船指揮が執られなかったことは本件発生の原因となる。さらに東峯丸のレーダー映像を探知した際,レーダーによる動静監視を十分に行っていれば,同船と衝突のおそれがあることが分かり,東峯丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを停止することによって,本件発生を防止できたものと認められるので,レーダー画面上で東峯丸を探知したのち,輝点にカーソルを当てて方位変化を確認するなど,レーダーによる動静監視を十分に行わず,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
 霧中信号を行わなかったこと及び安全な速力としなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,東峯丸をレーダーで探知してその存在と接近を知っており,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを停止することによって衝突を回避できたと認められるから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(主張に対する判断)
 昭眞丸側は,東峯丸が左舷対左舷で航過することを期待して緩やかに右転し,昭眞丸と近距離に至ってから衝突の危険を生じさせたことが主たる原因である旨主張するので,この点について検討する。
 この主張は,東峯丸の当直者が梶取埼沖3.0マイルの地点で昇橋したことを前提とし,8.3ノットの速力で徐々に右転しながら衝突したとするものである。
 しかしながら,東峯丸が船長指示のコースラインより1.5海里ばかり陸岸に寄って航行し,梶取埼の正横距離が2.4海里であったこと,及び速力についても,GPS表示の速力8.0ノットであったことがそれぞれ認められることから,定めた針路線上で衝突したことは明らかであるので,同主張は採用できない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,霧で視界制限状態となった樫野埼東方沖合において,南下する東峯丸が,船長による操船指揮が執られなかったばかりか,レーダーによる見張り不十分で,昭眞丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを停止しなかったことと,北上中の昭眞丸が,船長による操船指揮が執られなかったばかりか,レーダーによる動静監視不十分で,前方に探知した東峯丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,霧で視界制限状態となった樫野埼東方沖合を南下する場合,前路を北上する昭眞丸を見落とさないよう,レンジを切り替えるなど,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,他船と1.5海里以内に近づいてからでも避けられると思い,レンジを切り替えるなど,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しないまま進行して昭眞丸との衝突を招き,自船の船首部に破口を伴う圧壊を,昭眞丸の右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損と右舷後部外板及び船橋右舷側に圧壊を,それぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,夜間,霧で視界制限状態となった樫野埼東方沖合を北上中,前方に東峯丸のレーダー映像を探知した場合,同船と衝突のおそれが生じるかどうか判断できるよう,輝点にカーソルを当てて方位変化を確認するなど,レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,正船首方に探知していた状態から左に転舵したので右舷対右舷で航過できるものと思い,レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,東峯丸と衝突のおそれがあることに気付かず,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しないまま進行して東峯丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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