日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成18年門審第7号
件名

貨物船第八吉賀丸貨物船コーラル レンジャー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(阿部直之,向山裕則,岩渕三穂)

理事官
工藤民雄

受審人
A 職名:第八吉賀丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
第八吉賀丸・・・船首部に凹損,球状船首部に破口
コーラル レンジャー・・・左舷中央部外板に凹損,同部フレームに曲損

原因
第八吉賀丸・・・居眠り運航防止措置不十分,船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は,第八吉賀丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,錨泊中のコーラル レンジャーを避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年2月12日23時50分
 福岡県苅田港東方沖
 (北緯33度48.9分 東経131度07.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第八吉賀丸 貨物船コーラル レンジャー
総トン数 199トン 25,498トン
全長 55.07メートル 185.06メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 7,893キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第八吉賀丸
 第八吉賀丸(以下「吉賀丸」という。)は,平成3年4月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端から船橋前面までの長さが42.9メートル(m)でその間が貨物倉となっていた。
 船橋前部に設置されたコンソールには,左舷側からレーダー2台,ジャイロコンパス,GPSプロッター,電動油圧操舵装置及び機関コントロール盤がそれぞれ設けられ,同中央部の舵輪の後方に肘掛け背もたれ付きのいすが置かれていた。
イ コーラル レンジャー
 コーラル レンジャー(以下「コ号」という。)は,1994年に大韓民国の造船所で建造された,日本,中華人民共和国,東南アジア,インド及び北米間の航路に就航する船尾船橋型ばら積貨物船で,船橋にはレーダー2台及びGPSがそれぞれ設けられ,エアーホーン及びモーターホーン各1個並びに固定式サーチライト2個及び持ち運び式昼間信号灯1個が装備されていた。

3 事実の経過
 吉賀丸は,主として関門港と愛媛,徳島両県内各港との間の石炭等の輸送に従事しており,A受審人ほか2人が乗り組み,石灰灰740トンを積載し,船首2.9m船尾4.1mの喫水をもって,平成17年2月12日11時30分愛媛県三島川之江港を発し,福岡県苅田港に向かった。
 A受審人は,船橋当直を自らと一等航海士とで5時間交替の単独2直制とし,出港操船に引き続き船橋当直に就いて西行し,17時00分一等航海士と交替して降橋した。
 ところで,A受審人は,三島川之江港の錨地で沖待ちした際,錨地の水深が浅いことが気になり何度も目が覚めてよく眠れず,睡眠不足であったうえ,当日朝からの入港操船,荷役作業の立会い,出港操船及び船橋当直などの作業が連続したことから,十分な休息がとれず,疲労気味の状態になっていた。
 A受審人は,降橋後も会社報告書類作成等を行い,休息をとらないまま,22時00分琵琶埼灯台から333度(真方位,以下同じ。)7.5海里の地点で,再び昇橋後一等航海士と交替して船橋当直に就き,針路を苅田港第1号灯浮標及び同第3号灯浮標との間に向かう273度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
 A受審人は,船橋当直中,前示の睡眠不足や疲労から,ときどき眠気を感じ,その都度いすから立ち上がって船橋内を移動したり,ウイングに出て外気に当たったりして眠気を払いながら続航し,23時26分本山灯標から207度4.7海里の地点で,船首約4海里のところにコ号を含む数隻の錨泊船のレーダー映像を認め,その灯火を肉眼で視認した。
 23時40分A受審人は,苅田港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から084度7.5海里の地点に達したとき,航行に支障をきたす船舶が付近にいなくなったことなどから,強い眠気を感じるようになったが,もう少しで入港なので居眠りすることはあるまいと思い,一等航海士を昇橋させ2人当直体制とするなど居眠り運航の防止措置をとらず,いすに腰掛けたまま当直中,いつしか居眠りに陥った。
 23時44分A受審人は,正船首1.0海里となったコ号に衝突のおそれがある態勢で接近したが,居眠りしていてこのことに気付かず,同船を避けずに進行し,衝突直前ふと目を覚まし,船首至近に迫ったコ号を認め,急いで自動操舵の針路設定つまみを左に回し,クラッチを中立としたが効なく,吉賀丸は,23時50分北防波堤灯台から081度5.9海里の地点において,原針路,原速力のまま,その船首が,コ号の左舷中央部に,後方から75度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の南西風が吹き,潮候は高潮時で,視界は良好であった。
 また,コ号は,ポーランド共和国籍の船長及びウクライナ国籍の三等航海士ほか同国籍の船員19人が乗り組み,空倉のまま,船首4.0m船尾6.2mの喫水をもって,同年2月9日18時00分(現地時間)中華人民共和国秦皇島を発し,苅田港に向かい,越えて12日02時40分(以下,日本時間)代理店の指示に従い着岸待ちのため,同港港外の前示衝突地点付近において,右舷錨を投下し錨鎖5節を延出して錨泊を始めた。
 コ号は,法定灯火を表示したうえ,甲板上のすべての照明を点灯し錨泊中,23時44分停泊当直中の三等航海士が左舷船尾75度1.0海里のところに自船に向かって接近する吉賀丸を認め,注意喚起信号を行わずにその動静を見守るうち,198度に向首した状態で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,吉賀丸は,船首部に凹損及び球状船首部に破口を,コ号は,左舷中央部外板に凹損及び同部フレームに曲損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,海上交通安全法の適用海域である福岡県苅田港東方沖の瀬戸内海において,航行中の吉賀丸と錨泊中のコ号とが衝突したものであり,同法には本件に適用する航法規定がないので,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 海上衝突予防法上,この関係について個別に規定した条文はないから,同法第38条及び39条の船員の常務によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 吉賀丸
(1)疲労気味であったこと
(2)眠気を感じていたこと
(3)航行に支障をきたす船舶が付近にいなくなったことなどから,強い眠気を感じるようになったこと
(4)もう少しで入港なので居眠りすることはあるまいと思い,一等航海士を昇橋させ2人当直体制とするなど居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(5)居眠りに陥ったこと
(6)コ号を避けなかったこと

2 コ号
 注意喚起信号を行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,苅田港東方沖を西行中,吉賀丸の船橋当直者が,強い眠気を感じるようになったとき,居眠り運航の防止措置をとっていれば,居眠りに陥ることはなく,前路で錨泊中のコ号に気付き,発生を防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,疲労気味であり,眠気を感じていた状況で船橋当直中,航行に支障をきたす船舶が付近にいなくなったことなどから,強い眠気を感じるようになった際,もう少しで入港なので居眠りすることはあるまいと思い,一等航海士を昇橋させ2人当直体制とするなど居眠り運航の防止措置をとらずに居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 一方,コ号が,自船に向かって接近する吉賀丸を認めた際,注意喚起信号を行わなかったことについては,周囲の3隻ばかりの船舶とともに錨泊し,所定の灯火を表示したうえ,甲板上のすべての照明を点灯した状況で,錨泊地点付近は船舶が輻輳する海域ではないものの,錨泊船に向首して来航する出入航船などは近距離で転針することがあり,吉賀丸が避航動作をとらないことを予見することは困難であったと認められるから,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,福岡県苅田港東方沖において,西行中の吉賀丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,錨泊中のコ号を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独の船橋当直に就き,苅田港東方沖を同港に向け西行中,強い眠気を感じるようになった場合,居眠り運航とならないよう,一等航海士を昇橋させ2人当直体制とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,もう少しで入港なので居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,錨泊中のコ号を避けずに進行して衝突を招き,自船の船首部に凹損及び球状船首部に破口を,コ号の左舷中央部外板に凹損及び同部フレームに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:22KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION