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平成18年門審第32号
件名

漁船芳信丸漁具・油送船スタヴァンガー バイキング衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(岩渕三穂,阿部直之,片山哲三)

理事官
工藤民雄

受審人
A 職名:芳信丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
芳信丸・・・曳網索の切断,左舷船尾部圧損,曳網用やぐら破損,船長が右前腕,左膝打撲
スタヴァンガー バイキング・・・右舷側船首部外板に擦過傷

原因
スタヴァンガー バイキング・・・見張り不十分, 各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
芳信丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,スタヴァンガー バイキングが,見張り不十分で,漁ろうに従事している芳信丸の進路を避けなかったことによって発生したが,芳信丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月3日19時15分
 山口県六連島北方沖合
 (北緯34度00.2分 東経130度52.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船芳信丸 油送船スタヴァンガー バイキング
総トン数 2.94トン 56,172トン
全長   239.00メートル
登録長 9.99メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 40キロワット 12,000キロワット
(2)設備及び性能等
ア 芳信丸
 芳信丸は,昭和56年に進水した小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,山口県の六連島と蓋井島間の海域を主な操業区域としていた。
 船体中央やや前方に操舵室,その後方に揚網用のウインチ及びステンレスと鉄製パイプで組み立てられたやぐらを配置し,操舵室上部にマスト及び操業用灯火を設け,同室には操舵装置や機関操縦装置のほかジャイロコンパス,GPSプロッター,舵角指示器の各航海計器及び魚群探知機を備えていたが,自動操舵装置はなく,通信設備として無線電話を,音響信号設備としてモーターホーンをそれぞれ装備していた。
 また,曳網は,直径18ミリメートル長さ約130メートル(m)の化学繊維製ロープ2本を使用して長さ約20mの網を曳くもので,曳網中は船尾から後方約30mの海上部分に曳索が見える状態となっていた。
イ スタヴァンガー バイキング
 スタヴァンガー バイキング(以下「ス号」という。)は,2004年に建造された船尾船橋型鋼製油タンカー兼ケミカルタンカーで,極東地域太平洋岸諸港と米国太平洋岸諸港間の原油,燃料油,タイヤ用原料油の輸送に従事していた。
 操舵室には操舵装置,機関操縦装置のほかGPSプロッター,自動衝突予防援助装置付きレーダー及びドップラーログ等の航海計器を設え,中央前窓壁及び両舷ウイングに汽笛のスイッチを備えていた。

3 事実の経過
 芳信丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.23m船尾1.06mの喫水をもって,平成17年8月3日18時40分山口県下関漁港南風泊分港を発し,六連島北方沖合の漁場に向かい,鼓形形象物を備えずに,日没前であったが,緑色全周灯,白色全周灯及び航海灯を点灯して航行した。
 ところで,六連島の東方から北東にかけての海域は,関門港域内に埋立地を有し,検疫錨地2箇所を含め,関門港に入出港し,また関門海峡を通過する大型船,小型船の輻輳する海域で,さらに良好な漁場でもあって漁ろうに従事する漁船も多く,これら船舶と漁船の進路が交差することから,注意深い見張りと操船が求められる海域であった。
 A受審人は,18時53分六連島灯台から104度(真方位,以下同じ。)980mの地点で,左舷船尾方1.3海里に北上するス号を初認し,18時57分半同灯台から038度1,250mの地点に至り,8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として船尾より網を繰り出したのち,19時02分同灯台から018度2,100mの地点で,針路を354度に定め,機関を前進にかけて回転数毎分2,250とし,2.0ノットの速力で,曳網を始めた。
 19時10分半少し過ぎA受審人は,六連島灯台から013度2,600mの地点に達し,以前に網を破った地点を通過しないように来留見瀬灯標に向けることとして021度に転針したとき,右舷船尾61度1,200mに,北上中で自船と並航状態に見えるス号を認めて続航した。
 A受審人は,19時12分六連島灯台から014度2,680mの地点に達したとき,右舷船尾75度900mとなったス号が転針し,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,自船は漁ろうに従事中の灯火を掲げているので,ス号は自船を避けるものと思い,動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,さらに間近に接近しても,機関を停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま,同じ針路,速力で続航した。
 19時13分A受審人は,ス号が右舷船尾76度580mとなったが,依然,動静監視を十分に行っておらず,このことに気付かずに曳網を続行中,19時15分六連島灯台から014度2,850mの地点において,芳信丸は,原針路,原速力のまま,その曳網索にス号の船首部が後方から75度の角度で衝突し,さらに曳網索に引かれて後退した芳信丸の船尾部がス号の右舷船首部に衝突した。
 当時,天候は晴で,風力3の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,日没時刻は19時16分であった。
 また,ス号は,中華人民共和国籍の船長Bほか同国籍の船員19人及びインド国籍の船員2人が乗り組み,燃料油38,000トンを積載し,船首6.80m船尾8.80mの喫水をもって,同月2日09時00分名古屋港を発し,大韓民国ウルサン港に向かった。
 B船長は,18時53分六連島灯台から178度2,500mの地点を通過し,19時00分同灯台から140度1,550mの地点で水先人を下船させたのち,港内速力から航海速力に増速して北上し,19時08分半同灯台から056度1,630mの地点で,針路を000度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.8ノットの速力で手動操舵により進行した。
 B船長は,船橋中央窓際に立ち,当直の一等航海士をレーダー監視に,操舵手を舵輪操作にそれぞれ配置し,右舷方の検疫錨地及び前方の六連島北方沖合に,錨泊船及び数隻の漁船を認めて続航した。
 19時10分半少し過ぎB船長は,六連島灯台から040度2,100mの地点に達したとき,左舷船首40度1,200mに,芳信丸を認めることができる状況で,同船は形象物を掲げていなかったものの,曳網索及び船尾にやぐらを備えた船型並びにゆっくりした速力から曳網中の漁船であることが分かり,その後同船が右方に転針したものの,見張り不十分で,同船に気付かずに続航した。
 また,レーダーを見ていた一等航海士及び操舵中の甲板手は,芳信丸の接近を船長に報告しなかった。
 19時12分B船長は,関門航路第1号灯浮標(以下「第1号灯浮標」という。)を右舷正横約200mに見る,六連島灯台から033度2,500mの地点に達し,針路を316度に転じたとき,芳信丸が左舷船首10度900mとなり,その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,関門海峡を通過して水先人を下船させ,航海速力に増速したのち,十分な見張りを行っていなかったので,同船に気付かず,その進路を避けることなく続航中,19時13分左舷船首11度580mに,芳信丸の白色船体を初認し,衝突の危険を感じて機関を港内速力の全速
力とし,短音2回を吹鳴後左舵一杯としたが及ばず,ス号は,船首が左回頭して306度を向首したとき,10.0ノットの速力で,前示のとおり衝突した。
 B船長は,芳信丸の様子を見て衝突したことに気付かないまま航行を続け,20時30分ごろ海上保安部の連絡を受けて引き返し,事後の措置にあたった。
 衝突の結果,芳信丸は,曳網索を切断し,左舷船尾部に圧損及び曳網用やぐらに破損を生じたが,のち修理され,ス号は,右舷側船首部に擦過傷を生じ,A受審人が約2週間の通院加療を要する右前腕,左膝打撲を負った。

(航法の適用)
 本件は,六連島北方沖合において,芳信丸の曳網索と,ス号の船首とが衝突したもので,衝突地点に港則法及び海上交通安全法の適用はなく,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
 芳信丸は衝突の約18分前に網を投入して曳網を開始し,同じころス号は芳信丸の後方約1.3海里付近で水先人下船のために減速中であった。その後,衝突の4分半ほど前に,芳信丸が021度に転じ,速力2.0ノットで曳網中で,同じく衝突の3分前に,ス号は316度に転針し,速力10.8ノットで航行中であり,そのまま衝突に至ったのであるから,漁ろうに従事している船舶と航行中の動力船との衝突にあたり,海上衝突予防法第18条各種船舶間の航法についての規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 芳信丸
(1)鼓形形象物を掲げていなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)自船は漁ろうに従事中の灯火を掲げているから,相手船は自船の進路を避けて行くものと思い,動静監視を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

2 ス号
(1)水先人を下船させ,航海速力に増速したのち,十分な見張りを行っていなかったこと
(2)レーダーを活用しなかったこと
(3)一等航海士及び甲板手から芳信丸の報告がなかったこと
(4)芳信丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 本件は,芳信丸が,曳網中の自船に接近する態勢のス号に対して動静監視を十分に行い,警告信号を吹鳴し,その後さらに同船が避航の気配なく接近したとき,機関を中立運転とし曳網索に引かれて即座に停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,自船は漁ろうに従事中の灯火を掲げているから,相手船は自船の進路を避けて行くものと思い,動静監視を行わず,警告信号も行わないで衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,ス号が,船首方の見張りを十分に行っていたなら,芳信丸を認めることができ,同船が形象物を掲げていなかったものの,その船型及び曳網索並びにゆっくりした速力から曳網中の漁船であることが分かり,十分に余裕のある時期に同船の進路を避けることができたものと認められる。
 したがって,B船長が,十分な見張りを行わず,芳信丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 芳信丸が,鼓形形象物を掲げていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 ス号が,レーダーを活用せず,一等航海士及び甲板手が船長に芳信丸の報告をしなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,山口県六連島北方沖合において,ス号が,見張り不十分で,漁ろうに従事している芳信丸の進路を避けなかったことによって発生したが,芳信丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,六連島北方沖合において曳網中,接近するス号を認めた場合,衝突のおそれの有無を確かめることができるよう,同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船は漁ろうに従事中の灯火を掲げているから,そのうちにス号が避けるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,協力動作をとらないまま曳網を続けて衝突を招き,芳信丸の曳網索を切断させ,左舷船尾部に圧損及び曳網用のやぐらに破損を,ス号の右舷側船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせ,自らも約2週間の通院加療を要する右前腕,左膝打撲を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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