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平成18年門審第37号
件名

漁船第二十一覚栄丸漁船第六進戎丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(阿部直之)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第二十一覚栄丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第二十一覚栄丸甲板員
受審人
C 職名:第六進戎丸漁ろう長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二十一覚栄丸・・・右舷後部外板,同部ブルワーク,船長室壁面に凹損,右舷後部ハンドレールに曲損
第六進戎丸・・・船首部,球状船首に圧壊

原因
第二十一覚栄丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第六進戎丸・・・警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第二十一覚栄丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る第六進戎丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第六進戎丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月28日00時15分
 宮崎県土々呂港東方沖合
 (北緯32度30.5分 東経131度48.9分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一覚栄丸 漁船第六進戎丸
総トン数 198トン 14トン
全長 44.35メートル 19.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 603キロワット 433キロワット

3 事実の経過
 第二十一覚栄丸(以下「覚栄丸」という。)は,昭和53年1月に進水した船尾船橋型鋼製漁獲物運搬船で,船尾楼上部の船橋にレーダー2台及びGPSプロッターを備え,また船首端から船橋前面までが29メートル(m)で,その間は魚倉となっており,A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み,活魚30トンを積載し,船首2.8m船尾3.8mの喫水をもって,平成17年4月27日09時50分鹿児島県鹿児島港沖小島の養殖場を発し,愛媛県今治港に向かった。
 出航後,A受審人は,船橋当直を自らと一等航海士及び航海当直部員の認定を受けたB指定海難関係人とで4時間交替の3直制とし,21時05分富田灯台から108度(真方位,以下同じ。)6.4海里の地点で,無資格のB指定海難関係人に単独の船橋当直を行わせることとしたが,船橋当直経験が豊富であることから特に指示しなくてもよいものと思い,周囲の見張りを十分に行い,他船が接近するときは報告するよう指示することなく,船橋当直を交替して降橋した。
 B指定海難関係人は,船橋当直を交替した地点で針路を019度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行し,翌28日00時06分半細島灯台から058度7.3海里の地点に達したとき,右舷船首38度2.0海里のところに,西行中の第六進戎丸(以下「進戎丸」という。)の紅,白2灯を認めることができ,その後,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,折から黄色回転灯を点灯し左舷前方を沖合に向かって東行する漁船の動静に気をとられ,船橋左舷側で立ち,右方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,続航した。
 00時11分B指定海難関係人は,前示左舷前方の漁船がかわった安心感から,それまで我慢していた尿意を強く催すようになり,船橋左舷側外階段下の前方を見ることができる船尾楼甲板に降り,小用を済ませて船橋左舷側出入口付近まで戻ったところ,突然,衝撃を感じ,00時15分細島灯台から052度8.4海里の地点において,覚栄丸は,原針路,原速力のままその右舷後部と進戎丸の船首とが,前方から79度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 また,進戎丸は,平成12年4月に進水したFRP製漁船で,船体中央部の操舵室にレーダー,GPSプロッター,魚群探知機及びモーターホーンを備えており,船長D及び同人の実父のC受審人(昭和50年6月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか4人が乗り組み,かつお一本釣り漁の目的で,船首0.2m船尾1.5mの喫水をもって,同17年4月26日04時00分宮崎県土々呂港を発し,足摺岬南西沖合の漁場に至り,その後同岬北東沖合まで漁場を移動して操業したのち,翌27日18時30分足摺岬灯台から206度22.5海里の地点付近を発進し,帰途に就いた。
 C受審人は,進戎丸の実質的な船長として操業及び船内全般の指揮を執り,船橋当直を自らとD船長とで適宜交替の2直制とし,23時30分細島灯台から079度18.1海里の地点で,D船長と交替して船橋当直に就き,針路を278度に定め,機関を半速力前進にかけ,9.0ノットの速力で,操舵室の椅子に腰を掛け,自動操舵により進行した。
 翌28日00時05分C受審人は,細島灯台から058度9.5海里の地点で,左舷船首41度2.4海里に覚栄丸の緑,白2灯を初認し,00時06分半同灯台から058度9.3海里の地点に達したとき,同船が同じ方位のまま2.0海里となり,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが,同船の方で避航するものと思い,警告信号を行わずに続航した。
 00時14分半C受審人は,覚栄丸が方位に変化のないまま200mとなり,間近に接近したが,依然同船の方で避航するものと思い,減速するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく,同船から目を離して舵輪右下のGPSプロッターの画面を見ながら進行し,衝突直前顔を前方に向けたところ,船首至近に迫った覚栄丸を認めたがどうすることもできず,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,覚栄丸は,右舷後部外板,同部ブルワーク及び船尾楼の船長室壁面に凹損並びに右舷後部ハンドレールに曲損をそれぞれ生じ,進戎丸は,船首部及び球状船首を圧壊した。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,宮崎県土々呂港東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上する覚栄丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る進戎丸の進路を避けなかったことによって発生したが,西行する進戎丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 覚栄丸の運航が適切でなかったのは,船長が,無資格の甲板員に単独の船橋当直を行わせる際,周囲の見張りを十分に行い,他船が接近するときは報告するよう指示しなかったことと,同甲板員が,見張りを十分に行わず,接近する他船がいることを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,宮崎県土々呂港東方沖合において,愛媛県今治港に向け北上中,無資格のB指定海難関係人に単独の船橋当直を行わせる場合,周囲の見張りを十分に行い,他船が接近するときは報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,船橋当直経験が豊富であることから特に指示しなくてもよいものと思い,周囲の見張りを十分に行い,他船が接近するときは報告するよう指示しなかった職務上の過失により,進戎丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることの報告が得られないまま,同船の進路を避けることができずに進行して衝突を招き,自船の右舷後部外板,同部ブルワーク及び船尾楼の船長室壁面に凹損並びに右舷後部ハンドレールに曲損を生じさせ,進戎丸の船首部及び球状船首を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は,夜間,土々呂港東方沖合において,帰港のため西行中,衝突のおそれがある態勢で接近する覚栄丸を認めた場合,間近に接近したときに減速するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,覚栄丸の方で避航するものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,土々呂港東方沖合を北上中,周囲の見張りを十分に行わず,進戎丸が接近していることに気付かず,船長に報告しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが,船橋当直にあたっては,見張りを十分に行うよう努めなければならない。


参考図
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