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平成17年門審第44号
件名

漁船第十二仁洋丸貨物船マニラ ハーモニー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(片山哲三,向山裕則,小金沢重充)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:第十二仁洋丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第十二仁洋丸・・・船首部に圧壊
マニラ ハーモニー・・・左舷船首部外板に破口及び凹損

原因
第十二仁洋丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
マニラ ハーモニー・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第十二仁洋丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切るマニラ ハーモニーの進路を避けなかったことによって発生したが,マニラ ハーモニーが,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月13日18時40分
 山口県六連島東方沖合
 (北緯33度58.0分 東経130度53.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十二仁洋丸 貨物船マニラ ハーモニー
総トン数 75トン 4,887トン
全長 33.278メートル 102.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 2,500キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十二仁洋丸
 第十二仁洋丸(以下「仁洋丸」という。)は,昭和63年6月に進水した船首船橋型鋼製漁船で,操舵室前部右舷側にレーダーを,同室中央部に磁気コンパス及び操舵スタンドを装備していたが,自動操舵装置を備えていなかった。
 また,船体部公試運転成績書によれば,主機回転数375(毎分,以下同じ。)での最大縦距及び最大横距が,左旋回,右旋回ともに50メートル(m)で,90度旋回するのに要する時間は左旋回で22.4秒,右旋回で20.0秒であり,同回転数の速力12.1ノットで前進中,全速力後進発令から船体停止までの所要時間は28.5秒であった。
イ マニラ ハーモニー
 マニラ ハーモニー(以下「マ号」という。)は,1990年3月に竣工した船尾船橋型鋼製貨物船で,2個の貨物倉の前後にそれぞれデリッククレーンを装備し,船橋にはレーダー2台,操舵装置,主機遠隔操縦装置及びGPSを備えていた。
 また,船体部海上試運転成績書によれば,主機回転数227での最大縦距は,左旋回361m,右旋回388mで,最大横距は,左旋回392m,右旋回409mで,90度旋回するのに要する時間は左旋回1分2秒,右旋回1分6秒であり,同回転数の速力13.8ノットで前進中,全速力後進発令から船体停止までの所要時間は2分45秒であった。

3 事実の経過
 仁洋丸は,山口県下関漁港を基地とし,同型の僚船第十一仁洋丸(以下「主船」という。)とともに沖合以西底びき網漁業の2そう引きの従船として従事し,A受審人ほか9人が乗り組み,操業の目的で,船首尾とも2.3mの等喫水をもって,平成16年11月13日18時25分同漁港を発し,対馬東方沖合の漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,広い海域を航行するときは船橋当直体制を甲板員による単独2時間交替制とし,出入港時は,自らが操船指揮を執り,甲板員を操舵に当たらせていた。また,漁場との往復航の際は主船を追走することとし,夜間は,主船の船尾灯及びその両側に同灯と同じ高さに各1個設置された投光器の灯火(以下「主船の灯火」という。)を操舵目標としていた。
 発航後,A受審人は,法定灯火,船尾部の水銀灯1個及び投光器2個を点灯して小瀬戸を西行し,18時33分わずか過ぎ同瀬戸を抜け六連島灯台から129度(真方位,以下同じ。)2.4海里の地点に達したとき,針路を316度に定め,6.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって,先行する主船を0.18海里離して追走した。
 18時34分A受審人は,六連島灯台から128度2.3海里の地点に達し,甲板員に食事を摂らせるため降橋させ,1人で船橋当直に就き,機関を全速力前進の回転数380にかけて10.5ノットに増速し,手動操舵によって北西進した。
 18時35分A受審人は,六連島灯台から128度2.2海里の地点で,昇橋した甲板員に,正船首方に見える主船の灯火を示し同船を追走することを指示して操舵を引き継がせ自ら操船指揮を執り,右舷船首6度1.0海里のところにマ号の白,白,紅3灯のほか,船首部作業灯を視認でき,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することが分かる状況であったが,前方には錨泊船しかおらず先行する主船を追走すれば無難に航行できると思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,マ号の進路を避けることなく進行した。
 A受審人は,18時40分少し前マ号の船体に前方を遮られ突然主船の灯火が見えなくなったことに驚いた甲板員の叫び声を聞き,前方至近にマ号の船体が迫っていることに気付き,慌てて右舵一杯をとったものの効なく,18時40分六連島灯台から122度1.3海里の地点において,仁洋丸は,原針路,原速力のまま,その船首部が,マ号の左舷船首部に,前方から35度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の東南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,日没時刻は17時15分であった。
 また,マ号は,フィリピン共和国国籍の船長Bほか同国籍の22人が乗り組み,鋼材及びコンテナ貨物2,917.891トンを積載し,船首4.4m船尾6.1mの喫水をもって,同日00時55分広島県福山港を発し,関門港に向かった。
 B船長は,船橋当直を00時から04時までを二等航海士,04時から08時までを一等航海士,08時から12時までを三等航海士にそれぞれ行わせ,各直に甲板員1人を配する2人1組で4時間交替の3直制とし,入出港時,視界制限時,狭水道通航時及び船舶輻輳時など,必要に応じ自ら昇橋して操船指揮を執っていた。
 14時00分B船長は,下関南東水道第4号灯浮標を航過したとき昇橋し,その後自ら操船指揮に当たり,着桟時刻調整のため六連島東方沖合で錨泊待機することとし,まもなく関門航路に入航し,17時00分法定灯火及び船首部作業灯を点け,予定錨地へ向け機関を適宜操作して進行した。
 18時32分B船長は,六連島灯台から111度1.2海里の地点で,針路を171度に定め,2.2ノットの微速力を保ち,手動操舵で南下した。
 18時35分B船長は,六連島灯台から116度1.2海里の地点に達し,予定錨地までの距離が0.6海里となったとき,左舷船首29度1.0海里のところに仁洋丸の灯火を視認したが,その後,同船の動静監視を十分に行わず,同船の方位変化がほとんどなく,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったものの,このことに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく同じ針路及び速力で進行した。
 18時39分わずか過ぎB船長は,左舷船首方間近に迫った仁洋丸に気付き,衝突の危険を感じて汽笛を吹鳴したものの効なく,マ号は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,仁洋丸は,船首部を圧壊し,マ号は左舷船首部外板に破口及び凹損を生じるに至ったが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,山口県六連島東方沖合において,夜間,漁場に向けて北西進中の仁洋丸と,予定錨地に向けて南下中のマ号が衝突したものであり,衝突地点に港則法及び海上交通安全法の適用はなく,一般法である海上衝突予防法で律することになる。
 本件は,仁洋丸が衝突時刻の5分前,2船間の距離が1.0海里のとき,針路316度で速力10.5ノットに増速し,また,マ号が針路171度速力2.2ノットで航行していたところ衝突したものである。
 衝突前の5分間,両船が一定の針路速力で航行したこと,及びマ号が航行中であることを示す法定の灯火を点けて微速力で南下していたこと,また,両船が相手船の方位変化がほとんどないことを知り得る状況にあったことが,それぞれ認められる。
 したがって,両船とも避航動作をとる十分な余裕がある衝突の5分前を航法適用の時機としてとらえ,本件は海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用して律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 仁洋丸
(1)前方には錨泊船しかおらず先行する主船を追走すれば無難に航行できると思い,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)マ号の進路を避けなかったこと

2 マ号
(1)動静監視を十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,仁洋丸が,周囲の見張りを十分に行っていれば,マ号の白,白,紅3灯の他,船首部作業灯を認め,同船が微速力で南下し,その方位に変化がほとんどなく,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付き,時間的空間的に十分な余裕を持って,同船を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前方には錨泊船しかおらず先行する主船を追走すれば無難に航行できると思い,周囲の見張りを十分に行わず,マ号の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,マ号は,仁洋丸を初認したのち,同船の動静監視を十分に行っていれば,同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付き,警告信号を行い,その後機関を全速力後進とするなど衝突を避けるための協力動作をとることによって,本件の発生を回避できたものと認められる。
 したがって,B船長が,動静監視を十分に行わず,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,山口県六連島東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北西進中の仁洋丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切るマ号の進路を避けなかったことによって発生したが,南下中のマ号が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,山口県六連島東方沖合において,漁場に向けて北西進中,甲板員に操舵を引き継ぎ操船指揮に当たる場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,前方には錨泊船しかおらず先行する主船を追走すれば無難に航行できると思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するマ号に気付かず,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,仁洋丸の船首部に圧壊を,マ号の左舷船首部外板に破口及び凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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