日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成18年神審第43号
件名

貨物船明秀岸壁衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月26日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:明秀船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
球状船首を圧壊

原因
行きあし制御不十分

裁決主文

 本件岸壁衝突は,後方から強風を受ける態勢で接岸作業中,行きあしの制御が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年12月14日13時27分
 福井県敦賀港
 (北緯35度40.5分 東経136度04.5分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船明秀
総トン数 1,502トン
全長 79.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,765キロワット

3 事実の経過
(1)設備及び性能等
 明秀は,平成11年1月に進水した,バウスラスター装備の船尾船橋型鋼製貨物船で,主に愛媛県新居浜港と福井県敦賀港間における液体カプロラクタム専用輸送に従事していたが,たまに中国や韓国などに就航することがあったので,航行区域は近海区域(国際航海)を取得していた。カプロラクタムとは,融点が摂氏70度の化学物質で,ナイロンの原料であったが,明秀では摂氏約80度に加熱液化して輸送していた。
 海上試運転成績書写によれば,旋回性能は,右舵一杯で港内半速力前進の9.5ノットの場合,縦距が223メートル,横距が99メートルで,逆転停止性能は,港内半速力前進の9.5ノットの場合,停止距離が367メートルで,経過時間は2分8秒であった。
(2)気象の状況
 敦賀港を含む福井県嶺南東部には,平成17年12月14日06時30分から同日20時30分までの間には大雪警報が,また,終日風雪・波浪などの注意報が発表され,同港内では終日西寄りの風が連吹して,瞬間では風速が毎秒20メートルに達することもあった。加えて,降雪が激しいときには,周囲の視界が制限される場合があった。
(3)本件発生に至る経緯
 明秀は,A受審人ほか9人が乗り組み,積荷の液体カプロラクタムを荷揚げした後,ねずみ族駆除の検査を受検する目的で,船首2.58メートル船尾4.13メートルの喫水をもって,風力4の西風のなか,平成17年12月14日13時00分福井県敦賀港金ケ崎岸壁を発し,指定された同港鞠山北岸壁に向かった。
 ところで,明秀は,近海区域(国際航海)を取得していたので,6箇月毎にねずみ族駆除の検査が必要で,今回は金ケ崎岸壁に着岸中に行われる予定であったが,大阪から派遣された検査官の大雪による遅延と同岸壁の後船の関係から,鞠山北岸壁に移動して行われることになったもので,代理店関係者が移動先の岸壁に先回りして雪に埋もれている使用ビットを指示する予定であった。
 A受審人は,13時23分半敦賀港金ケ崎防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から035度(真方位,以下同じ。)1,540メートルの地点に達したとき,針路を予定岸壁に向かう090度に定め,機関を極微速力前進にかけ,6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 このとき,A受審人は,船橋で機関長をエンジンテレグラフにつけ,船首に一等航海士ら2人,船尾に二等航海士ら3人を配置して,自らは船橋で舵輪を操作していたが,着岸にあたっては,目測により予定岸壁との距離を判断しながら,岸壁から200メートルほどのところで船橋正面上部に表示される速力計を見て行きあしを制御し,さらに岸壁から100メートルほどのところで左舷錨を入れ,岸壁至近で停止したのちバウスラスターを併用して左回頭し,右舷付けするつもりであった。
 13時25分半少し前A受審人は,防波堤灯台から045度1,790メートルの地点で,岸壁から200メートルの減速予定地点に至ったが,岸壁との距離を大きめに見積もったまま続航した。
 こうして,A受審人は,機関を停止したものの,4.0ノットほどの過大な速力で進み,降雪が激しく視界が効き難い状況で,岸壁上の代理店関係者を捜すことに気を奪われていて,速力計を確認しながら早期に機関を後進とするなど,行きあしの制御を十分に行わないで,向首接近し,13時27分少し前,自分が考えていたほど速力が低減していないことに気付き,機関を全速力後進にかけて左舷錨を投下したが,効なく,13時27分防波堤灯台から049.5度1,940メートルの地点において,船首方位090度,残存速力2.0ノットで,球状船首が岸壁に直角に衝突した。
 当時,天候は雪で風力7の西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 衝突の結果,明秀は,球状船首を圧壊したが,のち修理された。

(海難の原因)
 本件岸壁衝突は,福井県敦賀港において,後方から強風を受ける態勢で接岸作業する際,行きあしの制御が不十分で,過大な速力を残したまま予定岸壁に向首接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,福井県敦賀港において,大雪警報,風雪注意報などが発表されているなか,後方から強風を受ける態勢で接岸作業を行う場合,岸壁への接近速度が過大とならないよう,速力計を確認しながら早期に機関を後進とするなど,行きあしの制御を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,岸壁上の代理店関係者を捜すことに気を奪われて,行きあしの制御を十分に行わなかった職務上の過失により,過大な速力を残したまま岸壁に向首接近して,岸壁との衝突を招き,明秀の球状船首を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:14KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION