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平成18年神審第29号
件名

漁船松福丸漁船矢忠丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月3日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一)

副理事官
天河 宏

受審人
A 職名:松福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:矢忠丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
松福丸・・・左舷船首に擦過傷
矢忠丸・・・左舷船首部に破損,船長が頚部捻挫等

原因
松福丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
矢忠丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,松福丸が,見張り不十分で,錨泊中の矢忠丸を避けなかったことによって発生したが,矢忠丸が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月7日11時00分
 兵庫県東播磨港港外
 (北緯34度40.6分 東経134度51.3分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船松福丸 漁船矢忠丸
総トン数 12.0トン 1.3トン
登録長 16.50メートル 7.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160 56キロワット

3 事実の経過
 松福丸は,平成元年11月に進水した軽合金製漁船で,同14年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人ほか2人が乗り組み,のり養殖作業を行う目的で,船首0.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同16年11月7日05時30分兵庫県東播磨港内の明石市二見町の係留地を発し,05時50分二見地区埋立地先沖合の区第12号のり養殖施設(以下「養殖施設」という。)に至り,のり網を海面から上げて天日干しする作業を行った。
 ところで,養殖施設は,東播磨港港界付近に東西3キロメートル南北2.5キロメートルの海域にあり,東西約80メートル南北約300メートルののり棚に隣接して東西約120メートル南北約100メートルの航行水域を空けて設置され,のり棚は水深約6メートルの海底にワイヤロープで固定されていた。
 10時59分半少し前作業を終えたA受審人は,東播磨港別府東防波堤灯台から149度(真方位,以下同じ。)1.65海里の地点において,操舵室内の舵輪後方のいすに腰掛けて,針路をのり棚に沿う026度に定め,機関を前進速力15.0ノットの対地速力(以下,速力という。)で手動操舵により進行した。
 定針したとき,A受審人は,正船首300メートルのところに錨泊する矢忠丸に向かって衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,航行水域をのり棚に沿って航行すれば大丈夫と思い,右方ののり棚の仕上がり具合に気をとられ,前路の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,矢忠丸を避けることなく続航した。
 11時00分わずか前A受審人は,間近に迫った矢忠丸を初めて認め,慌てて機関中立,後進としたが効なく,11時00分松福丸は,東播磨港別府東防波堤灯台から144度1.57海里の地点において,226度に向いていた矢忠丸の左舷船首部に,松福丸の船首が原針路のまま減速されながら前方から20度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は低潮時であった。
 また,矢忠丸は,平成3年9月に進水した船体中央に操舵室を有するFRP製漁船で,同12年9月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が1人で乗り組み,弟を乗せ,たこ釣り漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同日06時00分東播磨港内の阿閇漁港を発し,養殖施設付近の漁場に向かった。
 ところで,B受審人は,養殖施設内でたこ釣りを行う場合は,のり棚に接触しないよう,主機のスターターにキーを差し込み,いつでも機関を使用して速やかに移動できるようにしていた。
 B受審人は,養殖施設付近に至り,同施設の外でしばらく操業を行い,09時ごろ潮の流れが弱くなったので施設内に入り,船尾端から長さ10数メートル重さ15キログラムの鋼製錨鎖を投入し,錨泊していることを示す,球形の法定形象物を掲げてたこ釣り漁を続けたところ,豊漁であったので,弟を船首甲板で作業にあて,船尾甲板で船尾から出した6本の釣り具の状態の確認作業に追われていた。
 10時59分半少し前B受審人は,前示衝突地点において,船首を226度として錨泊中,左舷船首20度300メートルのところに松福丸が自船に向首する態勢で接近する状況であったが,釣り具の状態の確認作業に追われ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,これに気付かず,速やかに機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けた。
 11時00分少し前B受審人は,何気なく周囲を見回したとき,南方から間近に迫った松福丸を初めて認め,慌てて,立ち上がって大声を出して避航を促したが効なく,矢忠丸は,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,松福丸は左舷船首に擦過傷を生じ,矢忠丸は左舷船首部に破損を生じ,のちに修理され,B受審人が20日間の通院加療を要する頚部捻挫等を負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,東播磨港港外の養殖施設内において,航行中の松福丸が,前路の見張り不十分で,錨泊中の矢忠丸を避けなかったことによって発生したが,矢忠丸が,周囲の見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,東播磨港港外の養殖施設内を航行中,錨泊する矢忠丸を見落とすことのないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,航行水域をのり棚に沿って航行すれば大丈夫と思い,右方ののり棚の仕上がり具合に気をとられ,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊中の矢忠丸に気付かず,同船を避けずに進行して衝突する事態を招き,松福丸の左舷船首に擦過傷を,矢忠丸の左舷船首部に破損をそれぞれ生じさせ,B受審人に20日間の通院加療を要する頚部捻挫等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,東播磨港港外の養殖施設内において,たこ釣り漁の目的で錨泊中,自船に向首して接近する松福丸を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣り具の状態の確認作業に追われ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,松福丸に気付かず,同船との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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