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平成17年仙審第80号
件名

貨物船ジョン チアン岸壁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月19日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(小寺俊秋,弓田邦雄,供田仁男)

理事官
宮川尚一

損害
ジョン チアン・・・球状船首に破口を伴う凹損
1号岸壁・・・コンクリート圧壊

原因
着岸時の減速不十分

主文

 本件岸壁衝突は,着岸時の減速が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年5月11日06時15分
 宮城県石巻港
 (北緯38度25.2分 東経141度16.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ジョン チアン
総トン数 4,908トン
全長 110.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 3,501キロワット
(2)設備及び性能等
 ジョン チアン(以下「ジ号」という。)は,1984年に建造され,甲板上にデリックポスト3基と,各同ポストに計4本のデリックブームを装備した船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端から船橋前面までの水平距離が約88メートルあり,主として台湾及び日本諸港間の貨物輸送に従事していた。
 操舵室に掲示された港内速力表によると,全速力前進,半速力前進,微速力前進及び極微速力前進で,それぞれ10.3ノット,8.4ノット,6.1ノット及び4.9ノットであった。
 また,操縦性能表によると,満載状態での最短停止距離及び同時間が,港内全速力前進,同半速力前進並びに同微速力前進で航走した場合,それぞれ860メートル及び5分20秒,560メートル及び3分25秒,440メートル及び2分55秒で,軽貨状態での最短停止距離及び同時間が,前示各速力で航走した場合,それぞれ535メートル及び2分50秒,325メートル及び2分15秒,260メートル及び1分55秒であった。
 操舵室には,レーダー2台,GPS及び速力計等が備えられていた。

3 事実の経過
 ジ号は,中華人民共和国籍の船長Aほか同国籍船員23人が乗り組み,白石灰石3,170トンを載せて半載状態とし,船首4.0メートル船尾5.3メートルの喫水をもって,平成17年5月9日15時15分静岡県田子の浦港を発し,宮城県石巻港に向かい,翌10日18時55分同港港外に至り,石巻港雲雀野防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から152度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点で投錨し,入港待機した。
 ところで,石巻港において大型船が着岸する岸壁は,主として大手ふ頭,日和ふ頭及び中島ふ頭が供用されており,ほぼ東西方向で長さ600メートルの大手ふ頭を中央にして,日和ふ頭が南北方向380メートルの長さで東側に,中島ふ頭が南北方向500メートルの長さで西側にそれぞれ接続していて,この3本のふ頭で囲まれた水域が,南に開口したほぼ四角形となっていた。
 石巻港への入港進路は,陸岸から217度方向に付き出している雲雀野防波堤を右舷に見て約1,500メートル北東進したのち,同防波堤付け根付近からほぼ真北に向けて約1,200メートル北上すると,大手ふ頭に至る状況となっていた。
 また,A船長は,平成11年9月から船長職を執り,ジ号には同16年8月から船長として乗船しており,同船の操縦性能に習熟し,日本諸港の入出港を100回以上経験していたことから,強制水先区以外の港では水先人を使用せず,本件当時,石巻港への入港は2回目であって十分慣れている状況でなかったが,水先人の嚮導を受けずに入港することとしていた。
 翌々11日05時20分A船長は,船首に一等航海士ほか4人を,船尾に二等航海士ほか3人を配置し,見習い航海士を操船の補佐に,甲板員を操舵に就けて前示投錨地点を発進し,大手ふ頭1号岸壁(以下「1号岸壁」という。)に向かった。
 A船長は,発進後船首配置の乗組員に両舷錨の投錨準備をさせ,増速しながら西行し,防波堤灯台の南方約2海里の地点から右転を開始して入港進路に向かい,05時58分少し過ぎ同灯台から286度210メートルの地点で,針路をほぼ雲雀野防波堤に沿う034度に定め,機関を半速力前進から微速力前進に落とし,7.4ノットの平均速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 A船長は,雲雀野防波堤の付け根付近に差し掛かったころ,引船1隻を右舷船尾にとったが,着岸時の船体姿勢制御のみに使用するつもりでいたので,曳索を張り合わせて減速を補助する作業態勢をとらせないまま,適宜減速しながら小角度の左転と右転を行ったのち,06時05分半少し前防波堤灯台から021度1,550メートルの地点に達したとき,1号岸壁に向首して007度の針路とし,機関を極微速力前進にかけ,4.3ノットの速力で続航した。
 06時10分A船長は,防波堤灯台から017度1.17海里の地点に至り,1号岸壁までの距離が約370メートルとなったとき,機関を停止したものの,同距離は半載状態のジ号が港内微速力前進で航行した場合の最短停止距離にほぼ匹敵し,機関を後進にかけて容易に停止することができる速力まで減速する必要があったが,これまで機関を極微速力前進にかけていたので,もう少し岸壁に近付いてから後進にかけても行きあしを止めることができると思い,一旦,機関を後進にかけるなど,着岸時の減速を十分に行うことなく,過大な速力のまま進行した。
 A船長は,06時14分半1号岸壁まで100メートルとなったとき,右舷錨を投下し機関を微速力後進にかけて続航中,同岸壁まで50メートルに迫ったころ,一等航海士から速力がやや過大である旨の報告を受け,機関を半速力後進にかけ,錨鎖のブレーキをかけるように指示したものの効なく,全速力後進としたが,及ばず,06時15分防波堤灯台から016度1.38海里の地点において,ジ号は,船首が354度に向き,2.0ノットの残存速力となったとき,同岸壁に直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 衝突の結果,ジ号は,球状船首に破口を伴う凹損を生じ,1号岸壁は,幅1メートル長さ2.8メートルにわたり,前面コンクリートの圧壊を生じたが,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 石巻港への入港に十分慣れている状況でなかったが,水先人の嚮導を受けずに入港したこと
2 引船に減速を補助する作業態勢をとらせなかったこと
3 もう少し岸壁に近付いてから後進にかけても行きあしを止めることができると思い,一旦,機関を後進にかけるなど,着岸時の減速を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,石巻港において,ジ号が着岸するため大手ふ頭1号岸壁に接近する際,余裕のある時期に一旦機関を後進にかけるなどして,着岸時の減速を十分に行っていれば,発生を避けることができたものと認められる。
 しかしながら,A船長は,もう少し岸壁に近付いてから後進にかけても行きあしを止めることができると思い,一旦,機関を後進にかけるなど,着岸時の減速を十分に行うことなく,過大な速力のまま岸壁に向首接近して衝突したものである。
 したがって,ジ号が,着岸時の減速を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A船長が,石巻港への入港に十分慣れている状況でなかったが,水先人の嚮導を受けずに入港したこと及び引船に減速を補助する作業態勢をとらせなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件岸壁衝突は,石巻港において,大手ふ頭1号岸壁に着岸するため接近中,着岸時の減速が不十分で,過大な速力のまま同岸壁に向首接近したことによって発生したものである。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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