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平成17年仙審第56号
件名

漁船第六十五新生丸漁船第三康正丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年7月19日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(供田仁男,弓田邦雄,小寺俊秋)

理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:第六十五新生丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第六十五新生丸漁撈長 海技免許:四級海技士(航海)
C 職名:第三康正丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
D 職名:第三康正丸甲板員

損害
第六十五新生丸・・・球状船首外板に凹損,右舷船首部ハンドレールに曲損
第三康正丸・・・左舷後部外板に凹損,左舷側集魚灯に破損,機関室内雑用水配管が破損して補機に濡損

原因
第六十五新生丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三康正丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第六十五新生丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る第三康正丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第三康正丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月21日15時55分
 岩手県釜石港南東方沖合
 (北緯39度12.4分 東経142度06.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第六十五新生丸 漁船第三康正丸
総トン数 184トン 149トン
全長 43.96メートル 37.06メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 802キロワット 595キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第六十五新生丸
 第六十五新生丸(以下「新生丸」という。)は,平成12年3月に進水した鋼製漁船で,5月から8月までさけ・ます流し網漁業に,続いて12月までさんま棒受網漁業に従事し,さんま漁の期間中,甲板上の舷側には起倒式の集魚灯を取り付けていた。
 操舵室は,長船尾楼に設けた一層の甲板室前部の上にあって,前壁が船体中央のやや後方に位置し,室内には前部船首尾線上に操舵スタンド及びジャイロコンパスレピーター,その右舷側にレーダー2台,無線電話装置,同左舷側にGPSプロッター,遠隔操舵及び主機遠隔操縦の両装置と可変ピッチプロペラの翼角調節ダイヤルを組み込んだ操縦盤などを設置し,両舷の壁寄りに1脚ずつのいすを置いていた。
 集魚灯は,右舷側に23本,左舷側に13本有り,これを起こして格納すると,笠が操舵室よりも高くなるものの,各笠の間隔が約1.8メートルであることから,見張り位置を変えることによって,遮られた視界を補うことができ,操舵室からの見通しを損なうことはなかった。
 操縦性能は,海上公試運転成績書によると,全速力前進中に舵角35度をとったとき,旋回半径が40メートルで,90度回頭するまでに右回頭では21秒,左回頭では19秒を要し,最短停止距離及び船体が停止するまでに要する時間がそれぞれ87メートル及び32秒であった。
 船橋当直体制は,さんま漁の期間中,操業準備及び操業時には,その指揮を執る漁撈長が単独で船橋当直を担い,水揚げ港と漁場との往復航時には,漁場が近いときを除き,船長と漁撈長がそれぞれ甲板員2人を従えて交替で同当直を担うものであった。
イ 第三康正丸
 第三康正丸(以下「康正丸」という。)は,昭和63年5月に進水した鋼製漁船で,5月から8月までさけ・ます流し網漁業に,続いて11月までさんま棒受網漁業に従事していたところ,平成13年さけ・ます漁を止め,以来,さんま漁のみに出漁し,甲板上の舷側には起倒式の集魚灯を取り付けていた。
 操舵室は,長船尾楼に設けた一層の甲板室前部の上にあって,前壁が船体中央のやや後方に位置し,室内には前部船首尾線上に操舵スタンド及びジャイロコンパスレピーター,その右舷側にレーダー2台,同左舷側に主機遠隔操縦装置,汽笛吹鳴ボタンなどを設置し,操舵スタンド後方と両舷の壁寄りに1脚ずつのいすを置いていた。
 集魚灯は,これを倒して舷外に振り出すと,笠が操舵室よりも低くなり,操舵室からの見通しを損なうことはなかった。
 操縦性能は,船舶件名表の試運転成績表によると,全速力前進中に舵角35度をとったとき,旋回径が50メートルで,90度回頭するまでに右回頭では23秒,左回頭では21秒を要し,最短停止距離及び船体が停止するまでに要する時間がそれぞれ105メートル及び39秒であった。
 水揚げ港と漁場との間の往復航時における船橋当直体制は,船長と8人の甲板部員を4組に分け,1組ずつ2時間交替で船橋当直を担い,沿岸航行中で甲板員のみが入直しているときには,船長あるいは漁撈長が交替で常に加わるものであった。

3 事実の経過
 新生丸は,A,B両受審人ほか15人が乗り組み,さんま漁の目的で,船首2.5メートル船尾5.0メートルの喫水をもって,平成16年10月21日12時10分台風を避けて寄港していた宮城県気仙沼港を出港し,同港北東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は,出港操船を終えたのち,漁場が近いため,自らが船橋当直に就き,15時03分少し前首埼灯台から070度(真方位,以下同じ。)2.7海里の地点で,針路をB受審人が選定した漁場に向く045度に定め,操舵を手動から自動に切り換え,可変ピッチプロペラの翼角を半速力前進とし,折からのうねりを船首少し左から受け,10.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 B受審人は,出港時から在橋し,台風を避けて気仙沼港や近隣の港に寄港していた僚船が一斉に出港したことから,これら僚船と無線電話で交信して情報を交換し合い,15時25分釜石港南東方沖合にあたる,陸中尾埼灯台から150度5.7海里の地点に至り,操業準備を開始することとし,船内のベルを鳴らしてA受審人及び機関長を除く乗組員を甲板に集め,船橋当直に就いた。
 このとき,B受審人は,まだしばらく僚船と交信しなければならず,見張りがおろそかになりやすい状況であったものの,同交信が終わるまで操船の指揮をA受審人に託さず,同人を在橋させたまま,操船及び操業準備の両指揮を執り,甲板上の乗組員に対して一部の魚倉に積んである氷をすべての魚倉に均等に配分する作業に取り掛かるよう命じ,操舵室前部右舷側で無線電話の後方に立ち,僚船との交信を続けた。
 A受審人は,B受審人が船橋当直に就いたとき,僚船との交信がまだ続いており,同人が操船及び操業準備の両指揮を執ると,見張りがおろそかになりやすい状況であったが,いつもしていることだから大丈夫と思い,同交信が終わるまで自らが操船の指揮を執らず,これを同人に委ね,在橋して操舵室左舷側のいすに腰掛け,前方の見張りを行う傍ら,乗組員の作業を見守った。
 15時45分B受審人は,陸中尾埼灯台から115度5.9海里の地点に達し,甲板での氷を配分する作業が終わりかけたころ,向かっている漁場には多数の同業船が集まることを予想して漁場を変更し,自動操舵の針路設定つまみを自ら回して,針路を090度に転じ,乗組員に氷を配分し終えたなら引き続いて右舷側の集魚灯を舷外に振り出す作業に取り掛かるよう命じ,左舷前方から受けるようになったうねりに対して甲板作業を容易にするため,A受審人に指示し,プロペラの翼角を微速力前進とさせ,5.0ノットに減速した。
 15時50分B受審人は,陸中尾埼灯台から113度6.2海里の地点に至ったとき,右舷正横後8度1,220メートルに康正丸を視認でき,その後同船が前路を左方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが,A受審人が在橋している安心感もあって僚船との無線電話による情報交換に気を取られ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,康正丸の進路を避けることなく,同じ針路,速力で続航した。
 一方,A受審人は,B受審人の指示を受けて減速したのち,依然としていすに腰掛け,乗組員の作業を見守るうち,康正丸と衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況となったものの,操船をB受審人に委ね,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,15時54分半「船が来るぞ,アスターン,アスターン。」と叫ぶ声を聞くと同時に甲板上で右舷方を指さす甲板員の姿を見て,同方正横に迫った康正丸を初めて視認し,プロペラの翼角を半速力後進に操作した。
 B受審人は,プロペラの翼角が後進に変わり,振動が発生して異常を感じ,右舷方に目を向けて康正丸を初めて視認し,操舵を遠隔に切り換えたものの,転舵する間もなく,15時55分陸中尾埼灯台から112度6.6海里の地点において,新生丸は,070度に向首し,行きあしがほぼなくなったころ,その右舷船首部が康正丸の左舷後部に後方から32度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の北東風が吹き,視界は良好で,北東寄りで波高3メートルのうねりがあった。
 また,康正丸は,C受審人及びD指定海難関係人ほか14人が乗り組み,さんま漁の目的で,船首1.5メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,同日13時40分台風を避けて寄港していた岩手県大船渡港を出港し,同港北東方沖合の漁場に向かった。
 C受審人は,出港操船を終えたのち,自らが船橋当直に就き,14時07分集魚灯を舷外に振り出す作業を終えて昇橋したD指定海難関係人と甲板員1人を相当直者として入直させ,14時27分綾里埼灯台から103度2.9海里の地点で,針路を038度に定め,操舵を自動から手動に切り換え,機関をほぼ全速力前進にかけ,折からのうねりを船首方から受け,10.0ノットの速力で進行した。
 15時40分C受審人は,釜石港南東方沖合にあたる,陸中尾埼灯台から134度6.4海里の地点に至り,夜間の操業に備えて早めに夕食を済ますため,船橋当直を2人の相当直者に委ねることとしたが,平素から見張りをしっかりと行うよう指導しているので改めて指示する必要はないと思い,船首方だけでなく側方も見張りを十分に行うよう厳重に指示せず,小型船舶操縦士の免許を所有しているD指定海難関係人を当直責任者として,同人に波が高いようならば減速してもよい旨を告げ,降橋して食堂に赴いた。
 D指定海難関係人は,船橋当直に就いて以来,左舷側のいすに腰掛け,右舷側のいすに腰掛けた相当直の甲板員とともに,前方を向いて見張りにあたっていたところ,C受審人が降橋し,当直責任者となったのちも,同じ姿勢で見張りを続けた。
 15時50分D指定海難関係人は,陸中尾埼灯台から119度6.4海里の地点に達したとき,左舷船首30度1,220メートルに新生丸を視認でき,その後同船が前路を右方に横切り,衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが,うねりの来る船首方だけを見て,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船に避航の気配がなかったものの,警告信号を行うことも,更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもなく,同じ針路,速力で続航した。
 15時55分少し前D指定海難関係人は,次直の甲板員を呼ぶ時刻となり,いすから降りて階下の甲板室に赴き,15時55分わずか前同室左舷側扉の窓を通して間近に迫った新生丸を初めて視認したものの,大声を発してその場に立ち尽くすしかなく,折しも昇橋した漁撈長が同指定海難関係人の声を聞き,同船を視認して主機遠隔操縦装置の操縦ハンドルを中立位置に操作したものの,康正丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,新生丸は,球状船首外板に凹損と右舷船首部ハンドレールに曲損を生じ,康正丸は,左舷後部外板に凹損を生じ,左舷側集魚灯6本が破損したほか,機関室内左舷側の雑用水配管が破損して補機に濡損を生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は,海上衝突予防法が適用される釜石港南東方沖合において,両船が互いに視野の内にあり,新生丸が康正丸を右舷側に,康正丸が新生丸を左舷側にそれぞれ見て,互いに進路を横切る態勢で接近して発生したものである。
 したがって,同法第15条で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 新生丸
(1)B受審人の見張りがおろそかになりやすい状況であったこと
(2)B受審人が,僚船との交信が終わるまで操船の指揮をA受審人に託さず,操船及び操業準備の両指揮を執ったこと
(3)A受審人が,いつもしていることだから大丈夫と思い,B受審人の僚船との交信が終わるまで操船の指揮を執らず,これを同人に委ねたこと
(4)B受審人が,A受審人が在橋している安心感もあって僚船との無線電話による情報交換に気を取られ,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(5)康正丸の進路を避けなかったこと
(6)A受審人が,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと

2 康正丸
(1)C受審人が降橋したこと
(2)C受審人が,平素から見張りをしっかりと行うよう指導しているので改めて指示する必要はないと思い,船首方向だけでなく側方も見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかったこと
(3)D指定海難関係人が,うねりの来る船首方を見て,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(4)警告信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

3 その他
 北東寄りで波高3メートルのうねりがあったこと

(原因の考察)
 新生丸における見張りが十分に行われていたなら,康正丸の進路を避けることによって,衝突は回避されたと認められる。
 ところが,B受審人は,見張りがおろそかになりやすい状況であったにもかかわらず,僚船との交信が終わるまで操船の指揮をA受審人に託さず,操船及び操業準備の両指揮を執り,A受審人が在橋している安心感もあって僚船との無線電話による情報交換に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかったことから,康正丸の存在及び同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることを認めず,その進路を避けなかったものである。
 B受審人が,漁撈長として操業準備の指揮を執ることは当然であるものの,操船の指揮については船長であるA受審人に託していたならば,同人が見張りを十分に行い,衝突には至らなかったはずである。また,船橋当直者であることを自覚している以上は,周囲の見張りを十分に行っていたなら,やはり衝突には至らなかったはずである。
 したがって,B受審人が,操船の指揮をA受審人に託さなかったこと,周囲の見張りを十分に行わなかったこと及び康正丸の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人は,B受審人の見張りがおろそかになりやすい状況であったにもかかわらず,いつもしていることだから大丈夫と思い,同人の僚船との交信が終わるまで操船の指揮を執らず,これを同人に委ねたもので,このことから衝突に至ったことは,すでに述べたとおりである。
 また,在橋している以上は,船長として周囲の見張りを十分に行っていたなら,衝突には至らなかったはずである。
 したがって,A受審人が,操船の指揮を執らなかったこと,周囲の見張りを十分に行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 一方,康正丸における見張りが十分に行われていたなら,新生丸に対して警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとることによって,衝突は回避されたと認められる。
 ところが,D指定海難関係人は,うねりの来る船首方を見て,周囲の見張りを十分に行っていなかったことから,新生丸の存在のみならず,同船と衝突のおそれがある態勢で接近すること及び同船に避航の気配がないことを認めず,警告信号を行うことも,更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもしなかったものである。
 したがって,D指定海難関係人が,周囲の見張りを十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 C受審人は,船橋当直を相当直者に委ねるにあたり,平素から見張りをしっかりと行うよう指導しているので改めて指示する必要はないと思い,船首方だけでなく側方も見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかったもので,この指示を徹底していたなら,D指定海難関係人がこれを守り,衝突には至らなかったはずである。
 したがって,C受審人が,船首方だけでなく側方も見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 C受審人が降橋したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,降橋するに際して船橋当直者に十分な指示を与え,同当直者がこれを守ることによって新生丸の存在を知ることができたので,本件発生の原因とはならない。しかしながら,このことは,船橋当直中の食事は操舵室でとるなど,海難防止の観点から,是正されるべき事項である。
 北東寄りで波高3メートルのうねりがあったことは,新生丸が減速航行したこと及びD指定海難関係人の見張り模様に関与した事実であるが,同船は見合い関係の発生以前から衝突に至るまで同一速力で航行し,また,同指定海難関係人にとって,見張りをおろそかにしてまでもうねりを監視する必然性はなく,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,釜石港南東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,東行する新生丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る康正丸の進路を避けなかったことによって発生したが,北上する康正丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 新生丸の運航が適切でなかったのは,船長が,操船の指揮を執らず,見張りを十分に行わなかったことと,漁撈長が,操船の指揮を船長に託さず,見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 康正丸の運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直責任者に対して見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかったことと,同責任者が,見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 B受審人は,釜石港南東方沖合において,操業準備を開始して船橋当直に就き,漁場に向け航行する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,船長が在橋している安心感もあって僚船との無線電話による情報交換に気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,康正丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,その進路を避けることなく進行して衝突を招き,新生丸の球状船首外板に凹損と右舷船首部ハンドレールに曲損を生じさせ,康正丸の左舷後部外板に凹損を生じさせ,左舷側集魚灯を破損させたほか,機関室内雑用水配管を破損せしめて補機に濡損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,釜石港南東方沖合において,漁場に向け航行中,船橋当直に就いた漁撈長が僚船との無線電話による交信をしていた場合,同人が操船と操業準備の両指揮を執ると,見張りがおろそかになりやすかったから,同交信が終わるまで操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかし,A受審人は,いつもしていることだから大丈夫と思い,漁撈長の僚船との無線電話による交信が終わるまで操船の指揮を執らなかった職務上の過失により,操船を委ねた漁撈長が見張りを十分に行わずに進行して衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は,釜石港南東方沖合において,船橋当直に就いて漁場に向け航行中,降橋して夕食をとるため同当直を相当直者に委ねる場合,船首方だけでなく側方も見張りを十分に行うよう厳重に指示すべき注意義務があった。しかし,C受審人は,平素から見張りをしっかりと行うよう指導しているので改めて指示する必要はないと思い,船首方だけでなく側方も見張りを十分に行うよう厳重に指示しなかった職務上の過失により,船橋当直責任者が見張りを十分に行わずに進行して衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D指定海難関係人が,船橋当直責任者として漁場に向け航行する際,周囲の見張りを十分に行わず,新生丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま,同船に避航の気配がなかったものの,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては,その後周囲の見張りを十分に行うよう努めている点に徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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