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平成18年函審第5号
件名

漁船第三十一銀鱗丸火災事件(簡易)

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成18年6月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(井上 卓)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第三十一銀鱗丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
機関室内の電路,照明,配電盤,発電機,電動機,主機過給機及び計器類等焼損
乗組員2人が手等に火傷

原因
機関室の燃料油小出しタンクからの漏油防止措置不十分

裁決主文

 本件火災は,機関室の燃料油小出しタンクからの漏油防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月23日04時30分
 北海道落石岬南東方沖合
 (北緯42度58分 東経145度43分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十一銀鱗丸
総トン数 7.3トン
全長 16.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 540キロワット

3 事実の経過
 第三十一銀鱗丸(以下「銀鱗丸」という。)は,昭和62年8月に進水した,さけます流し網,さんま流し網漁業等に従事する長船尾楼付一層甲板型FRP製漁船で,船体中央の甲板上には,船首尾方長さ(以下「長さ」という。)約2.2メートル(m)船横方長さ(以下「幅」という。)約1.6m高さ約1.4mの機関室囲壁とその上方に操舵室並びに同囲壁の左右及び後方に食堂が,同甲板下には長さ3.6m幅3.2m高さ2.2mの機関室とその後方に船員室がそれぞれ設けられていた。
 機関室は,食堂の機関室囲壁の左舷壁後部に設けた引戸から入り,約70センチメートル(cm)下がった機関室床に降り立つようになっていた。
 機関室の機器の配置は,中央部に,主機として過給機付6シリンダディーゼル機関が備えられ,機関室囲壁の後壁右舷側隅に主機用として燃料油小出しタンクが,機関室床から約1.5mが同タンクの底となる高さに取り付けられ,同囲壁の両舷壁には,異常な高温度を感知すると自動的に消火液を噴射する筒型の自動消火器がそれぞれ1台備えられていた。
 燃料油小出しタンクは,外形が長さ約30cm幅約60cm高さ約60cm,容量が約80リットルで,底部周囲に深さ約1cmの油受が備えられ,前面左側に外径約12ミリメートル(mm)内径約10mm高さ約40cmで保護金物のないアクリル樹脂製油面計管が,タンク付きゲージバルブの2箇所で支持されていたが,経年により同樹脂の劣化が進行していた。
 主機の過給機及び排気ガス管系は,主機の船尾側上端部に過給機が備えられ,排気タービン出口側の,煙突に導く煙道との接続部に防熱材で覆われた伸縮継手が設けられていたが,その上方約20cmには,燃料油小出しタンクの左舷側があって,同タンクから漏油があると,同継手部にかかるおそれがあった。
 A受審人は,昭和52年2月現有海技免許を取得し,平成16年4月16日から銀鱗丸の機関長として乗り組み,機関の運転管理に携わっていたもので,燃料油小出しタンクの下方近くに主機の排気ガス管系が配管されていることを認めたが,火災となることはないと思い,同タンクの油量を確認するとき以外には,ゲージバルブを閉鎖しておくなど,同タンクからの漏油防止措置を十分に行うことなく,同バルブを常時開放のままとした。
 こうして,銀鱗丸は,A受審人ほか6人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0m船尾1.5mの喫水をもって,同16年6月23日03時00分北海道落石漁港を発し,主機を全速力前進にかけて漁場に向け航行していたところ,時化模様で船体が大きく動揺し,材質が劣化していた燃料油小出しタンクの油面計の根本に亀裂を生じ,油面計の下から約10cmまで入っていたA重油が,同タンクの油受に漏れ出るようになり,やがて,油受を乗り越えて真下にある過給機出口側の伸縮継手部にかかり,防熱材の隙間から内部に入り,高熱部に接触して発火し,04時30分落石岬灯台から真方位143度14.8海里の地点において,機関室が火災となった。
 当時,天候は晴で風力6の南西風が吹き,海上は時化模様であった。
 機関室で機関の点検中であったA受審人は,火炎に驚き,直ちに室外に逃れ,機関室入口から消火器等で消火に努めた結果,燃料油小出しタンク内の残油が少なかったことと,自動消火器が作動したこと等もあって20分後には消火に成功したが,自力航行できず,来援した僚船に引かれて落石漁港に引き付けられた。
 火災の結果,機関室内の電路,照明,配電盤,発電機,電動機,主機過給機及び計器類等が焼損を生じ,消火活動中に,A受審人ほか1人が手等に軽い火傷を負った。

(海難の原因)
 本件火災は,機関の運転管理を行うにあたり,燃料油小出しタンクからの漏油防止措置が不十分で,漏れ出たA重油が過給機出口側の伸縮継手部にかかり,高熱部に接触して発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関の運転管理を行うにあたり,燃料油小出しタンクの下方近くに主機の排気ガス管系が配管されていることを認めた場合,同タンクの油量を確認するとき以外には,ゲージバルブを閉鎖しておくなど,同タンクからの漏油防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,火災になることはないと思い,同タンクからの漏油防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,時化模様で船体が大きく動揺したとき,材質が劣化していた燃料油小出しタンクの油面計の根本に亀裂を生じ,漏れ出たA重油が過給機出口側の伸縮継手部にかかり,高熱部に接触して火災となる事態を招き,機関室内の電路,照明,配電盤,発電機,電動機,主機過給機及び計器類等が焼損を生じ,消火活動中に,同人ほか1人が手等に軽い火傷を負うに至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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