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平成17年広審第153号
件名

漁船太陽丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成18年5月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(内山欽郎,橋本 學,野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:太陽丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
操舵室内の天井,及び操舵装置,レーダー,魚群探知機等の電気機器,無線室内左舷側の天井及び無線機器類などが焼損

原因
操舵室内で異臭がした際の調査不十分

主文

 本件火災は,操舵室内で異臭がした際の調査が不十分で,カセットテーププレーヤーの電源コード又はプラグの漏電部分から出火したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月17日09時30分
 鳥取県境港
 (北緯35度32.9分 東経133度14.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船太陽丸
総トン数 19トン
全長 24.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット
(2)設備等
 太陽丸は,平成元年6月に進水したいか一本釣り漁業に従事する一層甲板型のFRP製漁船で,甲板上の中央部に設けられた船橋には,前方に操舵室が,その後方に無線室が,それらの下のデッキに船員室がそれぞれ配置されていた。また,操舵室には前部中央に操舵装置が設置され,その両側がコンソール台代りの木製の棚になっていて,右舷側の棚には,主機の操縦装置,同計器盤及び集魚灯用配電盤が組み込まれていたほか中段にテレビが置かれており,左舷側の棚には,上段に魚群探知機が,中段に2台のレーダーがそれぞれ設置されていた。
 さらに,太陽丸は,発電機として,350キロボルトアンペア(KVA)及び6キロワット(kw)の主機駆動発電機各1台のほか,12kwのディーゼル機関駆動発電機(以下「補機駆動発電機」という。)を1台備え,航海中は6kwの発電機を,操業中は350KVAの発電機を,停泊中などの主機停止中は補機駆動発電機を使用していた。

3 事実の経過
 太陽丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成16年11月12日20時00分石川県金沢港を発し,日本海の漁場で3日間ほど操業を行ったのち,同月16日06時30分操業を終えて水揚げ予定の鳥取県境港に向かった。
 ところで,太陽丸は,操舵室の左舷側の棚に設置された右側のレーダー上部にカセットテーププレーヤーが取り付けられ,同プレーヤーの電源コードのプラグが,同レーダー裏面近くの100ボルト船内電源用コンセントに差し込まれたままになっており,操舵室内に侵入する海水のしぶきによる湿気の多さと長年にわたって溜ったほこりなどの影響で,いつしか絶縁が低下するなどして漏電しやすい状態となっていた。
 A受審人は,単独で航海当直に当たっていたところ,18時00分ごろ操舵室内で焦げくさい臭いを感知したが,室内を見渡しただけで自分が吸った煙草の臭いか機関室からの臭いだろうと思い,臭いが発生している箇所及び理由を突き止めるなどの十分な調査を行わなかったので,カセットテーププレーヤーの電源コード又はプラグが漏電していることに気付かず,そのうえ暫くするとその臭いにも慣れてしまったので,境港の昭和町岸壁に着岸してからも依然として調査を行わなかった。
 着岸後,A受審人は,船員室で就寝したのち,翌17日05時から07時ごろまで水揚げに立ち会い,予定していた魚倉内修理のために同岸壁から境港市岬町にある造船所前の岸壁に回航して,08時00分境港指向灯から真方位088度370メートルの岸壁に係留されていた台船の沖側に接舷し,発電機を主機駆動発電機から補機駆動発電機に切り替えて主機を停止した。
 その後,A受審人は,08時30分ごろから造船所による工事が開始されたので,09時15分ごろ入浴と朝食のため他の乗組員2人と共にタクシーで5分ほどの風呂屋に向かった。
 こうして,太陽丸は,乗組員全員が上陸して造船所の作業員だけが魚倉内で工事中,カセットテーププレーヤーの電源コード又はプラグの漏電部分から出火した火が同コードを伝ってレーダー等に延焼していたところ,09時30分操舵室前面の窓から煙が出ているのを構内巡視中の造船所の工場長によって発見された。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,海上は穏やかであった。
 太陽丸は,造船所の社長がA受審人を探し出して連絡を取る一方,造船所の作業員が消火器や接舷中の台船で使用していた水中ポンプで消火活動を行い,10時過ぎに鎮火したものの,火災の結果,操舵室内の天井及び操舵装置,レーダー,魚群探知機等の電気機器,並びに無線室左舷側の天井及び無線機器等を焼損した。

(本件発生に至る事由)
1 カセットテーププレーヤーの電源コードとプラグが漏電しやすい環境にあったこと
2 操舵室内で焦げくさい臭いを感知した際に十分な調査を行わなかったこと
3 カセットテーププレーヤーの電源コード又はプラグが,漏電して出火したこと

(原因の考察)
 本件は,湿気とほこりが多い操舵室内に長年置かれていたカセットテーププレーヤーの電源コード又はプラグの漏電部分から出火したことによって発生したものであるが,A受審人が焦げくさい臭いを感知した際に十分な調査を行っていれば,比較的簡単に漏電箇所を発見できたと推認されるので,防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,焦げくさい臭いを感知した際に調査を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 なお,操舵室が漏電しやすい環境であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件火災は,帰港中に操舵室内で異臭がした際の調査が不十分で,境港で係留中,操舵室内に設置されていたカセットテーププレーヤーの電源コード又はプラグの漏電部分から出火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,境港への帰港中に操舵室内で焦げくさい臭いを感知した場合,電気系統が漏電しているおそれがあったから,臭いがする箇所及び理由を十分に調査すべき注意義務があった。ところが,同人は,室内を見渡しただけで自分が吸った煙草か機関室からの臭いだろうと思い,十分な調査を行わなかった職務上の過失により,カセットテーププレーヤーの電源コード又はプラグの漏電部分から出火して各部に延焼する事態を招き,操舵室及び無線室の天井や電気機器等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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