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平成18年那審第9号
件名

漁船第一尚丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年6月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平野研一)

副理事官
入船のぞみ

受審人
A 職名:第一尚丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
キール底部等に擦過傷,推進器翼及び同軸に曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成18年2月22日01時10分
 沖縄県神山島南岸沖合
 (北緯26度15.4分 東経127度35.3分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一尚丸
総トン数 13トン
登録長 14.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 360キロワット

3 事実の経過
 第一尚丸(以下「尚丸」という。)は,昭和51年3月に進水し,船体中央部船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で,平成6年1月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み,まぐろはえ縄漁の目的で,喫水不詳のまま,平成18年2月15日08時30分沖縄県泊漁港を発し,同県喜屋武埼南方沖合60海里の漁場に向かい,18時30分同漁場に至って翌16日早朝から5日間操業したのち,まぐろ1.5トンを獲て,同月21日06時00分同漁場を発し,帰途に就いた。
 ところで,A受審人は,平素6日間の予定で出漁し,漁場では05時ごろから投縄を開始し,揚縄及び投縄地点への移動を含めた約19時間の操業を翌日00時ごろ終え,その後約5時間の休息をとることとしていたが,同月20日23時ごろ揚縄中にはえ縄を切断したため,後始末に時間を取られて翌21日早朝最後の操業を終えたもので,連日の長時間の操業による疲れが蓄積した状態となっていた。
 また,A受審人は,漁場まで往復する際,航海当直を朝及び夕方それぞれ約2時間乗組員に任せるほかは,自ら当たることとしていた。
 A受審人は,発進したのち,08時ごろ自ら当直に就いて北上し,その後不調だった操舵装置を修理するため,16時ごろ当直を乗組員に任せ,同装置の応急修理を行って夕食をとり,19時ごろ再び昇橋して単独当直に就き,北上を続けた。
 21時00分A受審人は,琉球大瀬灯標(以下「大瀬灯標」という。)から183度(真方位,以下同じ。)10.6海里の地点において,操舵室左舷側のいすに腰掛けてGPSプロッターで船位を確認し,針路を同灯標の西方沖合0.9海里の転針予定地点に向けて358度に定め,操舵装置に不安があったことから,機関を微速力前進の3.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 A受審人は,風潮流の影響で左方に2度圧流されながら,356度の進路で続航し,23時10分大瀬灯標から200度3.3海里の地点に至り,ムーキ灯標の灯火を右舷方1.5海里に見て航過し,その後操舵室左舷側のいすに腰掛けたまま当直に当たるうち,連日の長時間の操業による疲れと,微速力で航行していたので気が緩み,眠気を催すようになったが,那覇港外に近づいて街の灯火が次第に見え,転針予定地点までもう少しとなったので,それまで我慢できるものと思い,立ち上がって外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく当直を続けるうち,居眠りに陥った。
 こうして,A受審人は,左方に圧流されながら進行し,翌22日00時01分大瀬灯標から265度1.3海里の地点に達し,転針予定地点の0.4海里西方の地点を通過したことも,01時05分神山島南岸に拡延する干出さんご礁に向首していることにも気付かずに居眠りを続け,転針する措置をとらずに続航中,01時10分尚丸は,神山島灯台から161度370メートルの干出さんご礁に,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果,キール底部等に擦過傷を,推進器翼及び同軸に曲損をそれぞれ生じたが,来援した引船によって引き降ろされて泊漁港に引き付けられ,のち修理された。また,A受審人及び乗組員は,海上保安庁の巡視艇により救助された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,沖縄島南方沖合の漁場から泊漁港に向けて同島西岸を北上中,居眠り運航の防止措置が不十分で,神山島南岸に拡延する干出さんご礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,沖縄島南方沖合の漁場から泊漁港に向けて同島西岸を北上中,連日の長時間の操業による疲れと,微速力で航行していた気の緩みから眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,立ち上がって外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,那覇港外に近づいて街の灯火が次第に見え,転針予定地点までもう少しとなったので,それまで我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,操舵室左舷側のいすに腰掛けたまま,居眠りに陥って乗揚を招き,キール底部等に擦過傷を,推進器翼及び同軸に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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