日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成17年横審第86号
件名

LPG船たかさご2乗揚事件
第二審請求者〔理事官河野 守〕

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年6月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(古川隆一,清水正男,村松雅史)

理事官
河野 守

受審人
A 職名:たかさご2船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:たかさご2次席一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
C 職名:D社管理責任者
補佐人
a,b

損害
船底外板に亀裂を伴う凹損及び破口,シューピース,舵頭及び舵板を曲損,バラストタンク及び機関室等に浸水

原因
たかさご2・・・居眠り運航防止措置不十分
管理責任者・・・居眠り運航防止措置についての指導不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 管理責任者が,安全管理システムの監視業務に当たる際,居眠り運航の防止措置についての指導が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月29日02時03分
 静岡県伊豆半島東岸
 (北緯34度50.9分 東経139度05.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 LPG船たかさご2
総トン数 999トン
全長 71.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
(2)設備及び性能等
 たかさご2は,平成6年9月に進水した船尾船橋型全通一層甲板の可変ピッチプロペラを有する鋼製液化ガスばら積船で,専ら新潟港で積荷,富山港及び秋田港で揚荷を行い,時折太平洋側の京浜港川崎区,同港横浜区根岸,清水港間を液化プロパンガスの輸送にも従事しており,船首端から船橋前面までの距離は約54メートルで,操舵室には操舵スタンド,主機遠隔操縦装置,レーダー2台,GPSなどが装備され,左舷側にいすが備えられていた。

3 事実の経過
 たかさご2は,A及びB両受審人ほか7人が乗り組み,平成17年3月26日京浜港川崎区での揚荷を終え錨地で1日待機したのち,28日11時40分同港横浜区根岸の岸壁に着岸し,13時10分積荷役を開始し,液化プロパンガス698.159トンを積載して,21時10分終了した。
 B受審人は,前日午後は作業がなく休養をとり,28日午前中積荷役準備と入港作業に従事したのち,一等航海士と1時間交代で積荷役当直に入直し,甲板員とともに上甲板上で積荷圧力の確認や貨油管からの漏洩等の監視を行っていたが,午前中からの作業に続き,連続した休息がとれない長時間の荷役当直を行って疲れていた。
 A受審人は,船橋当直を3直2人4時間交替の輪番制とし,00時から04時までをB受審人が,04時から08時までを一等航海士が,08時から12時までを自分が,それぞれ甲板員1人とともに入直することを定めていた。
 C指定海難関係人は,たかさご2を毎月訪船し,運航について指導しており,システムの船舶安全運航管理規程による船橋当直指示書で航海当直を2人で行うことを定め,また,機器の運転に問題ないときは機関当直者が船橋でも当直するように指導していたが,内部監査で船橋当直指示書を船橋に掲示しているか確認していただけで,居眠り運航の防止措置を記載せず,乗組員に対し,居眠り運航の防止措置について十分に指導していなかった。
 たかさご2は,揚荷の目的で,船首2.8メートル船尾4.5メートルの喫水をもって,28日21時50分京浜港横浜区根岸を発し,清水港に向かった。
 A受審人は,22時19分浦賀水道航路に入り,22時52分同航路の通航を終えたのち南下し,23時45分剱埼灯台南西4.8海里沖合に達し,次直のB受審人に船橋当直を任せるに当たり,同人が午前の入港準備作業に続き,連続した休息がとれない長時間の荷役当直を行った疲れから,居眠りに陥るおそれがあったが,B受審人は前日に休養をとっているので大丈夫と思い,船長指示書に天候の変化に注意することと厳重に見張りを行うことなどを記入したのみで,B受審人に対し,眠気を催した際,2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示することなく,神子元島の手前で起こすように指示して降橋し自室で休息をとった。
 B受審人は,出港作業を終えてから1時間ばかり自室で横になっただけで昇橋しており,翌29日00時00分剱埼灯台から225度(真方位,以下同じ。)8.0海里の地点で,船位を確認して予定針路線の南側にいることを知り,針路を241度に定め,機関を回転数毎分235にかけ翼角を全速力前進の17.5度とし,13.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,折からの潮流により右方に2度圧流されながら自動操舵により進行した。
 B受審人は,賄い担当の乗組員が休暇中のため食事当番になっている相直の甲板員が,荷役当直から続いて船橋当直に入直しており,04時に当直を終了した後,さらに引き続き05時半ごろまで食事の準備を行わなければならないことから,休息をとらせ,1人で当直することにし,A受審人にこのことを報告せず,01時00分甲板員を降橋させた。
 B受審人は,01時の船位を海図に記載してから左舷側のいすに腰をかけたところ,前日午前中の入港準備作業に続き,連続した休息がとれない長時間の荷役当直を行って疲れていたことから,眠気を催したが,まさか居眠りすることはないものと思い,降橋させた甲板員を呼んで2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,立って船橋前面の窓枠に両肘をついて身体をもたせかけた姿勢をとって見張りを続けたところ,01時05分ごろ転針予定地点まで3.0海里となった門脇埼灯台から069.5度9.0海里の地点付近で居眠りに陥った。
 こうして,たかさご2は,同一針路,速力で続航し,01時19分初島を右舷正横に見る転針予定地点に達したものの,B受審人が居眠りを続けていて左転がなされず,門脇埼南西方の海岸に向かって進行し,02時03分原針路,原速力のまま,門脇埼灯台から228度3.7海里の地点の海岸に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力2の西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は,衝撃で目覚め,急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,たかさご2は,船底外板に亀裂を伴う凹損及び破口を,シューピース,舵頭及び舵板に曲損をそれぞれ生じ,バラストタンク及び機関室等に浸水したが,サルベージ船の来援により離礁し,のち修理され,乗組員は,巡視艇に救助された。

(本件発生に至る事由)
1 B受審人が,連続した休息がとれない長時間の荷役当直を行って疲れていたこと
2 C指定海難関係人が,船橋当直指示書に居眠り運航の防止措置を記載していなかったこと
3 C指定海難関係人が,乗組員に対し,居眠り運航の防止措置について十分に指導していなかったこと
4 A受審人が,B受審人は前日に休養をとっているので大丈夫と思い,同人に対し,眠気を催した際,2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示しなかったこと
5 B受審人が,相直の甲板員に休息をとらせるため降橋させ,1人で当直することをA受審人に報告しなかったこと
6 B受審人が,まさか居眠りすることはないものと思い,休息をとらせるため降橋させた甲板員を呼んで2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
7 B受審人が,船橋前面の窓枠に両肘をついて身体をもたせかけた姿勢をとったこと
8 B受審人が居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,長時間の荷役当直を行い疲れていた状態で船橋当直に就いた次席一等航海士が居眠りに陥り,伊豆半島東側の海岸に向かって進行したことによって発生したものであるが,船長が船橋当直を任せるに当たり,次席一等航海士に対して,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示していれば,また,次席一等航海士が,居眠り運航の防止措置をとっていたなら,居眠りに陥ることもなく,乗揚を防止できたものと認められる。
 管理責任者が,安全管理システムの監視業務に当たる際,乗組員に対し,居眠り運航の防止措置について十分に指導していれば,本件の発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,船橋当直をB受審人に任せるに当たり,同人は前日に休養をとっているので大丈夫と思い,同人に対して,眠気を催した際,2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示しなかったこと,及びB受審人が,長時間の荷役当直を行い疲れていた状態で船橋当直中,眠気を催した際,まさか居眠りすることはないものと思い,休息をとらせるため降橋させた甲板員を呼んで2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置をとらずに,船橋前面の窓枠に両肘をついて身体をもたせかけた姿勢をとって居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が,安全管理システムの監視業務に当たる際,乗組員に対し,居眠り運航の防止措置について十分に指導していなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が,居眠り運航の防止措置を船橋当直指示書に記載していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点からは是正されるべき事項である。
 B受審人が,相直の甲板員に休息をとらせるため降橋させ,1人で当直することをA受審人に報告しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点からは是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,京浜港横浜区から清水港に向け相模灘を南西進中,居眠り運航の防止措置が不十分で,門脇埼南西方の海岸に向かって進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直を任せるに当たり,次席一等航海士に対し,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示しなかったことと,次席一等航海士が,居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。
 管理責任者が,安全管理システムの監視業務に当たる際,居眠り運航の防止措置についての指導が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 B受審人は,夜間,京浜港横浜区から清水港に向け相模灘を南西進中,船橋当直に当たり,午前の入港準備作業に続き,連続した休息がとれない長時間の荷役当直の疲れから眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,休息をとらせるため降橋させた相直の甲板員を呼んで2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが,B受審人は,まさか居眠りすることはないものと思い,休息をとらせるため降橋させた甲板員を呼んで2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,門脇埼南西方の海岸に向かって進行して乗揚を招き,船底外板に亀裂と凹損及び破口を,シューピース,舵頭及び舵板に曲損をそれぞれ生じさせ,バラストタンク及び機関室等の浸水に至らせた。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 A受審人は,夜間,京浜港横浜区から清水港に向け相模灘を南西進中,船橋当直をB受審人に任せる場合,連続した休息がとれない長時間の荷役当直を行った疲れから居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,B受審人に対し,眠気を催した際,2人当直を維持するなど,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示すべき注意義務があった。ところが,A受審人は,B受審人は前日に休養をとっているので大丈夫と思い,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示しなかった職務上の過失により,同人が居眠りに陥り,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が,管理責任者としてD社の安全管理システムの監視業務に当たる際,乗組員に対し,居眠り運航の防止措置についての指導が十分でなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,本件後,船橋当直指示書に居眠り運航の防止措置を加え,研修会等により乗組員に対する指導を強化した点に徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION