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平成18年門審第16号
件名

漁船第五良栄丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年5月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(片山哲三)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第五良栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
左舷中央部船底外板に凹損及び擦過傷,左舷側ビルジキール及びプロペラ翼に欠損及び曲損等

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月18日22時50分
 山口県萩漁港
 (北緯34度25.9分 東経131度24.6分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五良栄丸
総トン数 56トン
全長 28.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 566キロワット

3 事実の経過
 第五良栄丸(以下「良栄丸」という。)は,昭和63年7月に進水した,一層甲板型のFRP製漁船で,A受審人ほか7人が乗り組み,雑魚かご漁の目的で,船首0.8メートル(m)船尾2.8mの喫水をもって,平成17年10月15日18時00分山口県萩漁港中小畑地区(以下「萩漁港」という。)を発し,同県見島北方沖合の漁場に至って操業し,越えて18日13時00分ばい貝約3トンを漁獲して帰途に就いた。
 良栄丸は,船体ほぼ中央部に操舵室を設け,同室前部に左舷側からレーダー2台,ジャイロコンパス,舵輪,機関遠隔操縦装置及びGPSプロッター2台を設置していた。
 ところで,萩漁港は,中小畑浦の全長500m最狭部幅250mの水路東奥に位置し,同水路の北側に標高40mの中ノ台が,南側に標高50mの鶴江台があり,西側入口部分には全長200mの萩港中小畑浦沖防波堤(以下「萩港中小畑浦」を冠する名称については冠称を省略する。)が同水路を横切る方向に設けられ,北東端には沖防波堤灯台(赤光で毎6秒に2閃光),南西端には簡易標識灯(黄光で毎3秒に1閃光),同防波堤法線の延長線上で中ノ台陸岸から30mのところにB社製10-PS型灯浮標(黄光で毎4秒に1閃光,以下「中ノ台灯浮標」という。)がそれぞれ設置されていたが,平成17年2月風浪によって同防波堤北東側60mが倒壊して沖防波堤灯台が海没し,その後倒壊を免れた部分の北東端に小型標識灯(黄光で毎4秒に1閃光,以下「北東端標識灯」という。)が,また同標識灯から003度(真方位,以下同じ。)40m及び034度32mのところに中ノ台灯浮標と同型式の灯浮標(両灯浮標を順に以下「北灯浮標」及び「南灯浮標」という。)がそれぞれ設置された。
 萩漁港入口は,中ノ台南端の陸岸から212度の方向に160m伸びる東防波堤と,鶴江台東端の陸岸から006度の方向に90m伸びる西防波堤との間で,幅100mであった。東防波堤の先端には東防波堤灯台(緑光で毎6秒に2閃光)が,西防波堤の先端には灯柱(赤光で毎3秒に1閃光)がそれぞれ設置されていた。また港内東奥には庄屋川の河口があり,同河口から西南西方へ300m延びる岸壁に沿って山口はぎ水産物地方卸売市場(以下「卸売市場」という。)が設けられ,同市場の北側壁面には全長150mにわたって岸壁を照らす白灯が約7m間隔で取り付けられ,同市場内の天井にも多数の照明灯が設置されていた。
 A受審人は,萩漁港出入港の際の通航経験が豊富で,夜間の入港方法は観音喰合瀬西灯浮標に並航するころ沖防波堤と中ノ台陸岸の中間に船首を向け,更に接近して目標とする北灯浮標を視認したのち,同灯浮標の東側を近距離で航過し東防波堤灯台南側の同港入口に向かうこととしていた。
 17時30分A受審人は,前直者と交替して単独の船橋当直に就き,22時38分観音喰合瀬西灯浮標をほぼ左舷正横に見る東防波堤灯台から302度1.5海里の地点で,1.5海里レンジとしたレーダー画面上で沖防波堤及び中ノ台西岸を確認し,針路を117度に定め,速力を7.0ノット(対地速力,以下同じ。)とし,操舵室右舷前方に立った姿勢で,自動操舵によって進行した。
 22時42分A受審人は,東防波堤灯台から303度1.0海里の地点に達し,速力を6.5ノットに減じて手動操舵に切り替え,前方に黄色閃光を視認したとき,沖防波堤北側の北及び南両灯浮標が卸売市場の照明に紛れて見えにくい状況であったものの,何度も通航している水路なので確かめるまでもないと思い,一瞥(いちべつ)しただけで,目標とする灯浮標を見分けられるよう,作動中のレーダーやGPSプロッターを利用するなり,東防波堤灯台の方位を測るなどして船位の確認を十分に行っていなかったので,正船首方に見えていた中ノ台灯浮標を目標とする北灯浮標と,右舷船首方に見えていた北灯浮標を北東端標識灯とそれぞれ誤認し,同一針路で中ノ台灯浮標に向かっていることに気付かないまま進行した。
 22時49分半A受審人は,中ノ台灯浮標まで20mばかりに接近したとき,前方真近に迫った中ノ台の陸岸に気付き,あわてて右舵一杯をとり,同灯浮標を左舷側至近に替わしたものの,22時50分東防波堤灯台から332度340mの地点において,良栄丸は,原速力のまま153度に向首して暗岩に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,視界は良好であった。
 乗揚の結果,潮流計及び魚群探知器の振動子破損,シューピースを脱落,左舷中央部船底外板に凹損及び擦過傷,左舷側ビルジキール及びプロペラ翼に欠損及び曲損をそれぞれ生じ,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,山口県萩漁港に入港中,船位の確認が不十分で,中ノ台西岸に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,萩漁港に入港中,前方に黄色閃光を視認した場合,沖防波堤北側の灯浮標が卸売市場の照明で見えにくい状況であったから,目標とする灯浮標を見分けられるよう,作動中のレーダーやGPSプロッターを利用するなり,東防波堤灯台の方位を測るなどして,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,何度も通航している水路なので確かめるまでもないと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,目標とする北灯浮標ではなく中ノ台灯浮標に向かっていることに気付かないまま進行して乗揚を招き,潮流計及び魚群探知器の振動子破損,シューピースを脱落,左舷中央部船底外板に凹損及び擦過傷,左舷側ビルジキール及びプロペラ翼に欠損及び曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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