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平成17年仙審第79号
件名

モーターボート ミクル乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年5月25日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(弓田邦雄)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:ミクル船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底部に破口及び亀裂を伴う多数の擦過傷

原因
燃料タンクの空気取入れ弁の開弁不十分

裁決主文

 本件乗揚は,発航する際の燃料タンクの空気取入れ弁の開弁が不十分で,船外機が始動できなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年5月15日05時30分
 仙台塩釜港
 (北緯38度19.7分 東経141度07.3分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート ミクル
全長 7.40メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 66キロワット

3 事実の経過
 ミクルは,昭和60年11月に製造された,航行区域を限定沿海区域とするFRP製プレジャーモーターボートで,主機として回転数毎分5,100(以下,回転数は毎分のものとする。)の船外機を装備し,船体中央操舵室内の操縦席から遠隔操作されるようになっており,平成13年7月下旬A受審人(同月上旬四級小型船舶操縦士免許取得)が購入のうえ,釣り等の遊漁に使用されていた。
 燃料系統は,操舵室後方の船尾甲板後部の物入れに燃料タンクを置き,同タンクから着脱式の燃料ホースを経て,ガソリン(以下「燃料油」という。)が船外機に供給されていた。
 燃料タンクは,容量25リットルの鋼製持運び式(以下「主燃料タンク」という。)で,上部には燃料ホースの着脱用継手及び燃料補給キャップを備え,同キャップには空気取入れ弁が組み込まれ,同キャップ中央部のスピンドル上部ツマミ(以下「ツマミ」という。)を回すことにより,スピンドル付きの板弁が上下し,全閉から全開までツマミを6回転するようになっていた。
 なお,船外機の使用前には,燃料タンク内が負圧となって燃料油の供給が阻害されるのを防止するため,ツマミを緩めるよう,同タンクの運搬時には燃料油が漏洩するのを防止するため,ツマミを締め付けるよう,注意書きが燃料補給キャップの近くに明示されており,したがって,同機の使用前にはツマミを一杯回すなど,空気取入れ弁を十分に開弁する必要があった。
 また,予備として,同容量のFRP製持運び式燃料タンク(以下「補助燃料タンク」という。)を物入れに置いていた。
 ミクルは,A受審人が船長として乗り組み,友人1人を乗せ,釣りの目的で,船首0.40メートル船尾0.75メートルの喫水をもって,同17年5月15日04時00分仙台塩釜港塩釜区第1区の貞山通の係留地を発し,寒風沢島南方の同第3区の釣り場に向かった。
 発航前,A受審人は,主・補助燃料タンクとも燃料油を補給してそれぞれ20リットルとしたのち,平素ツマミを3回転ほど回していたものの,ツマミを回せば開弁して問題ないものと思い,ツマミを一杯回すなど,主燃料タンクの空気取入れ弁を十分に開弁することなく,ツマミを少し回したところ,ほとんど閉弁状態であったが,これに気付かなかった。
 A受審人は,船外機の回転数を3,000として10ノットの速力で港内を東行し,04時30分塩釜第2号灯浮標から082度(真方位,以下同じ。)1.0海里ばかりの釣り場に至り,船外機を停止し,船首から投錨して釣りを始めた。
 04時40分ごろA受審人は,折から増勢した南風等により北方に走錨していることを認め,揚錨して錨を入れ直したが,その後も走錨が止まらず,揚錨と投錨を再三繰り返し,約0.6ノットの速力で北方に圧流されながら,付近の島への接近に注意しつつ,釣りを続けた。
 05時29分ごろA受審人は,寒風沢島長浜海水浴場沖に敷設された消波ブロックが前方20メートルばかりに近付いているのを認め,初めて危険を感じ,船外機の始動操作を行ったところ,航行中の燃料消費で燃料タンク内が負圧になっていて,燃料油の供給が阻害されて始動できず,空気取入れ弁を十分に開弁することに思い至らないまま,ミクルは,操船不能となって圧流され,05時30分塩釜第2号灯浮標から064度1.1海里の地点において,消波ブロックに乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力4の南風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 この結果,ミクルは,消波ブロック上で波に揉まれ,船底部に破口及び亀裂をともなう多数の擦過傷を生じ,甲板下のキャビン及び倉庫に浸水し,のち廃船とされ,A受審人は,友人とともに同ブロックに乗り移ったうえ,携帯電話で海上保安部に連絡し,来援した巡視艇に救助された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,係留地を発航する際,燃料タンクの空気取入れ弁の開弁が不十分で,港内で釣りの遊漁中,折から増勢した風等により走錨し,海水浴場沖の消波ブロックに近付いて危険となったとき,燃料油の供給が阻害されて船外機が始動できず,操船不能となったまま,同ブロックに向け圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,係留地を発航する場合,燃料タンク内が航行中の燃料消費で負圧になれば燃料油の供給が阻害され,船外機が始動できなくなるおそれがあったから,同タンクの空気取入れ弁のツマミを一杯回すなど,同弁を十分に開弁すべき注意義務があった。しかるに,同人は,ツマミを回せば開弁して問題ないものと思い,燃料タンクの空気取入れ弁のツマミを一杯回すなど,同弁を十分に開弁しなかつた職務上の過失により,ツマミを少し回してほとんど閉弁状態であることに気付かず,港内で釣りの遊漁中,折から増勢した風等により走錨し,海水浴場沖の消波ブロックに近付いて危険となったとき,燃料油の供給が阻害されて船外機が始動できず,操船不能となったまま,同ブロックに向け圧流されて乗揚を招き,船底部に破口及び亀裂をともなう多数の擦過傷を生じさせ,のち廃船となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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