日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年広審第141号
件名

旅客船シャトルえーす桟橋衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(中谷啓二,橋本 學,野村昌志)

理事官
古城達也

受審人
A 職名:シャトルえーす船長 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
シャトルえーす・・・船首防舷材破損,左舷船首部外板に小波口,旅客1名が通院加療を要する肋骨骨折等
桟橋・・・防舷材及び架橋基部の護岸破損

原因
機関の使用不適切

主文

 本件桟橋衝突は,着桟操船中,機関の使用が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月22日12時53分
 広島県大須港
 (北緯34度17.2分 東経132度26.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船シャトルえーす
総トン数 387トン
全長 49.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,500キロワット
(2)設備及び性能等
 シャトルえーすは,平成14年9月に進水した最大搭載人員303人のカーフェリーで,2機2軸,バウスラスターを備え,全通の上甲板を車輌積載区域としてその船首尾各端にランプウェイが取り付けられ,同甲板上に下部を吹き抜けにした船楼が設けられていた。船楼上部に車輌積載区域の天井に該当する遊歩甲板があり,大部分が旅客室に当てられ,同甲板の一段上が船橋甲板で,上甲板からの高さ約9メートル,船首端から約15メートルにあたるところに,主機遠隔操縦ハンドル,操舵輪,レーダー,GPS等を配置して操舵室が設置されていた。
 航海速力が約15ノット,極微速力前進が約10ノットで,海上試運転成績では15.8ノットで航走中,全速力後進をかけたとき,船体停止までの所要時間が1分50秒,航走距離が474メートルで,右舷機のみの運転で速力13.5ノットのとき,同様の各値は1分30秒及び345メートルであった。

3 大須港の施設等
 大須港は,広島港宇品地区の南約4海里,江田島北岸の北に開いた入り江に位置し,入り江西端部に約70メートルにわたり築かれた北東に面した護岸,護岸中央部から約15メートル架橋のうえ設けられた浮桟橋(以下「桟橋」という。),護岸両端の防波堤等からなり,桟橋は縦20メートル横10メートル深さ3.9メートルの鋼製箱形で横部が沖に向けてあり,シャトルえーすは同部に船首ランプウェイを架け着桟していた。

4 事実の経過
 シャトルえーすは,広島港,大須港及びその南西2海里ばかりの西能美島三高港を結び,同港発06時50分を始発とする定期便として就航していたところ,A受審人ほか2人が乗り組み,旅客32人を乗せ,自動車4台,オートバイ及び自転車各1台を積載し,船首2.1メートル船尾2.6メートルの喫水をもって,平成17年4月22日12時30分定刻に広島港宇品地区県営桟橋を発し,大須港に向かった。
 12時45分ごろA受審人は,大須港入航に備え自ら手動操舵に就き,機関長を見張りに当て,同港桟橋の北東500メートルばかりに突出している椎ノ木鼻に向け南下した。
 12時51分わずか過ぎA受審人は,椎ノ木鼻北端(以下「椎ノ木鼻」という)から315度(真方位,以下同じ。)110メートルの地点に達したとき,平素は同地点から桟橋南側の防波堤際に向首進行し,その後右転して着桟態勢をとっていたところ,折からの北西風がやや強く,風下に落とされることを懸念し,平素と異なり桟橋架橋の北側基部を船首目標として224度の針路とし,機関を極微速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し,12時52分少し前椎ノ木鼻から252度230メートルの,桟橋まで約300メートルの地点で,いつも目安にしている左舷側島岸の岩場に並び,機関を中立として前進惰力で続進し,着桟操船に当たった。
 12時52分少し過ぎA受審人は,椎ノ木鼻から242度340メートルの地点で,行きあしが約7ノットになり,桟橋に170メートルまで接近したとき,船首が風の影響を受けて目標より6度ばかり右偏したのを認め,機関を使用し立て直すこととしたが,船首を立て直すことに気をとられ,行きあしや桟橋との距離を考慮して適宜片舷機を操作するなど機関を適切に使用することなく,両舷機を極微速力前進にかけて左舵をとり,12時52分半再度目標に向首して機関中立としたところ,桟橋まで120メートルの距離で,行きあしが約9ノットと過大になり,危険を感じて急ぎ後進をかけたが効なく,シャトルえーすは12時53分椎ノ木鼻から235.5度510メートルの地点において,ほぼ224度に向首し,4.5ノットの速力で,船首が桟橋北側面に衝突した。
 当時,天候は曇で風力5の北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 衝突の結果,シャトルえーすは、船首防舷材を破損し,左舷船首部外板に小破口を生じ,また,桟橋の防舷材及び架橋基部の護岸が破損したが,のちいずれも修理され,旅客1人が約1箇月の通院加療を要する肋骨骨折,背部打撲等を負った。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が主として甲板員を務めながら月間3日ほど船長職に就いていたこと
2 A受審人が平素と異なる針路としたこと
3 A受審人が,船首が右偏し立て直す際,行きあしや桟橋との距離を考慮して片舷機を適宜操作するなど機関を適切に使用せず,再度目標に向首し機関中立としたとき,行きあしが過大になったこと

(原因の考察)
 A受審人が,船首が右偏し立て直す際,行きあしや桟橋との距離を考慮して片舷機を適宜操作するなど機関を適切に使用せず,再度目標に向首し機関を中立にしたとき,行きあしが過大になったことは本件発生の原因となる。
 A受審人が主として甲板員を務めながら月間3日ほど船長職に就いていたこと及び平素と異なる針路としたことは,いずれも本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件桟橋衝突は,広島県大須港において,着桟操船中,機関の使用が不適切で,行きあしが過大になったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,広島県大須港において着桟操船に当たり,船首が偏し機関を使用して立て直す場合,行きあしや桟橋との距離を考慮して片舷機を適宜操作するなど機関を適切に使用すべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首を立て直すことに気をとられ,機関を適切に使用しなかった職務上の過失により,行きあしが過大になり桟橋と衝突する事態を招き,シャトルえーすの船首防舷材,左舷船首部外板,並びに桟橋の防舷材及び架橋基部の護岸にそれぞれ損傷を与え,旅客1人を肋骨骨折,背部打撲等で負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:11KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION