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平成17年広審第102号
件名

貨物船第十八芳栄丸漁船八幡丸衝突事件
第二審請求者〔理事官古城達也〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月14日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(島 友二郎,原 清澄,野村昌志)

理事官
古城達也

受審人
A 職名:第十八芳栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第十八芳栄丸甲板員
受審人
C 職名:八幡丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十八芳栄丸・・・左舷前部に凹損及び擦過傷
八幡丸・・・船尾部外板に亀裂,ネットローラーの脱落,揚網用マストの曲損,曳網索の切断

原因
第十八芳栄丸・・・各種船舶間の航法(避航動作)不遵守,船舶職員及び小型船舶操縦者法(有資格者を乗り組ませず)不遵守(主因)
八幡丸・・・見張り不十分,音響信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第十八芳栄丸が,甲板部船舶職員の有資格者が乗り組まずに発航し,漁ろうに従事している八幡丸の進路を避けなかったことによって発生したが,八幡丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月6日16時05分
 瀬戸内海備讃瀬戸
 (北緯34度24.0分 東経133度52.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十八芳栄丸 漁船八幡丸
総トン数 498トン 4.9トン
全長 67.67メートル  
登録長   11.73メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア 第十八芳栄丸
 第十八芳栄丸(以下「芳栄丸」という。)は,平成9年6月に大分県臼杵市で進水した限定沿海区域を航行区域とする二層甲板船尾船橋型の砂利運搬船で,船首楼後方に運転台付き機械室を有するジブクレーンが,その後方にカーゴホールドがそれぞれ設置されていた。
 操舵室には,前方中央にジャイロコンパスのレピーターが,右舷端に左舷側に向いたレーダー及びGPSプロッターが,同室前面から約1.5メートル後方の中央部に,左舷側からレーダー,操舵装置,各種スイッチ類,主機操縦ハンドル及びスラスター操縦盤が組み込まれたコンソールスタンドが,左舷後方にチャートテーブルが,右舷後方に畳台がそれぞれ設置され,レピーターの両側には椅子が置かれていた。
 レピーターの左舷側の椅子に座って前方を見ると,船首のジブクレーンの機械室により,正船首方に各舷約4度の範囲で,死角が生じていた。
 航海速力は,プロペラ回転数毎分255のときに11.0ノットであり,旋回径は左右とも約135メートルで,最短停止距離及び同時間がそれぞれ約340メートル及び約40秒であった。
イ 八幡丸
 八幡丸は,昭和47年12月に香川県高松市で進水し,船体中央部に操舵室を設けた小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,操舵室内にGPSプロッター及び魚群探知機が,後部甲板上にネットローラー及び揚網用マストが備えられており,全長が12メートルを超えていたが,汽笛を装備していなかった。
 同船が,当時行っていた底びき網漁は,長さ約4メートルのチェーン,直径70ミリメートル長さ30メートルの合成繊維索及び直径3.5ミリメートル長さ200メートルの鋼索の周囲に細い合成繊維索を巻いた曳網索を順次繋いだ2本の曳索を船尾から75メートル延出し,網口を拡げるための張り棒と称する長さ20メートルのFRP製パイプを取付けた長さ約30メートルの袋網を曳いて,1回の曳網時間に2時間半ほどを要し,曳網中,速力は1.2ノットで,漁具により操縦性能が制限された状況であった。

3 芳栄丸の運航形態及び乗組員構成
 芳栄丸は,専ら,山口県徳山下松港と兵庫県尼崎西宮芦屋港間で,1週間に3航海の砂利輸送に従事しており,その運航形態は,火曜日の02時半から04時にかけて徳山下松港で積荷を行ったのち出港し,翌水曜日07時に尼崎西宮芦屋港に到着して揚荷を行い,11時に出港して徳山下松港に向かい,木曜日及び金曜日にかけて同様の航海に従事し,土曜日は徳山下松港を出港したのち20時ごろに兵庫県家島港に到着して停泊し,乗組員は下船して休息し,月曜日の02時ごろ家島港を出港して同日の07時に尼崎西宮芦屋港に到着して揚荷を行い,徳山下松港に向かう航海を繰り返していた。
 また,芳栄丸には,船長としてA受審人が,一等航海士として同人の長男が,機関員として二男が乗り組んでいるほか,機関長,一等機関士及び甲板員としてB指定海難関係人が乗り組んでおり,乗組員の中で,A受審人とその2人の息子だけが,甲板部船舶職員の資格を有していた。

4 事実の経過
 A受審人は,平成16年11月6日の土曜日に行われる親戚の結婚式に,2人の息子と共に出席する予定があったことから,事前に運航予定を変更して,前日の5日に家島港に戻れるようにしていたが,同月2日に荷主から運航予定の再変更を依頼され,予定が1日ずれ込んで6日に徳山下松港を出港することとなった。
 そのためA受審人は,11月6日に徳山下松港で積荷を終えたのち,結婚式に出席するため2人の息子とともに下船することとし,他に甲板部船舶職員の資格を有する乗組員がいなかったのであるから,同港港外で錨泊するなどして運航を中止すべきであったが,B指定海難関係人及び残りの2人の乗組員が徳山下松港から家島港までの航海に慣れていたので,同人たちに芳栄丸の運航を任せても大丈夫と思い,同指定海難関係人に船長代行を依頼して,運航を中止することなく発航を指示した。
 一方,B指定海難関係人は,A受審人から船長代行を依頼され,芳栄丸に甲板部船舶職員の有資格者が乗り組んでいないことを認識していたが,自分及び残りの2名の乗組員が徳山下松港から家島港までの航海に慣れていたので,無難に航海できるものと思い,A受審人からの依頼を断ることなく,船長代行を引き受けて発航した。
 こうして,芳栄丸は,B指定海難関係人,機関長及び一等機関士が乗り組み,砂利1,600トンを積載し,船首4.00メートル船尾5.10メートルの喫水をもって,平成16年11月6日05時30分徳山下松港を発し,家島港に向かった。
 芳栄丸は,船橋当直体制を,3人の乗組員がそれぞれ単独で2時間交替で入直することとし,B指定海難関係人は,出港操船及び10時から12時までの船橋当直を行ったのち,16時00分小瀬居島灯台から011度(真方位,以下同じ。)0.87海里の地点で,前直の機関長と交替して船橋当直に就き,針路を040度に定め,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,レピーターの左舷側に置いた椅子に腰を掛け,自動操舵により進行した。
 定針したときB指定海難関係人は,左舷船首3度1,520メートルのところに,漁ろう中の八幡丸を視認することができたが,椅子から立ち上がって移動するなどして,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,前路に同船が存在することに気付かず,芳栄丸は,衝突のおそれのある態勢で接近する八幡丸の進路を避けないまま続航した。
 B指定海難関係人は,16時05分わずか前左舷船首至近に迫った八幡丸を認め,右舵一杯をとったが,効なく,16時05分小瀬居島灯台から026度1.73海里の地点において,芳栄丸は,原針路,原速力のまま,その船首部が八幡丸の船尾部に右舷後方から28度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で,風はほとんどなく,視界は良好であった。
 また,八幡丸は,C受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.25メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,同日13時30分香川県高松漁港を発し,備讃瀬戸東部の漁場に向かった。
 C受審人は,前示漁場の小与島東方沖合に到着して操業を開始し,15時00分小瀬居島灯台から337度1.15海里の地点で,針路を068度に定めて自動操舵とし,機関を回転数毎分1,950にかけて1.2ノットの速力とし,黒色鼓形の形象物を掲げ,舵輪後方に置いた椅子に腰を掛け,備讃瀬戸東航路の北側を,ほぼこれに沿って進行した。
 16時00分C受審人は,小瀬居島灯台から037度1.65海里の地点に達したとき,右舷船尾31度1,520メートルのところに,芳栄丸を視認することができたが,操舵室内に置いたテレビのゴルフ番組を見ることに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,同船に気付かなかった。
 その後,C受審人は,芳栄丸と衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然見張りが不十分で,このことに気付かず,避航を促す音響信号を行わず,更に間近に接近しても,機関を停止して行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとることなく,原針路,原速力で続航中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,芳栄丸は,左舷船首部外板に凹損及び擦過傷を生じ,また,八幡丸は,船尾部外板に亀裂,ネットローラーの脱落,揚網用マストの曲損及び曳網索の切断などを生じたが,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,備讃瀬戸東部において,北東進する動力船である芳栄丸と,東行しながら漁ろうに従事する八幡丸とが衝突したものであり,適用される航法について検討する。
 備讃瀬戸は,海上交通安全法が適用される海域であるが,同法には,本件に対し適用する航法がないので,海上衝突予防法を適用し,両船の運航模様から,海上衝突予防法第18条第1項によって律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 芳栄丸
(1)A受審人が運航を中止しなかったこと
(2)A受審人が,甲板部船舶職員の資格を有する乗組員を乗り組ませないまま,発航させたこと
(3)B指定海難関係人が船長代行の依頼を断らず,発航したこと
(4)八幡丸の進路を避けなかったこと

2 八幡丸
(1)汽笛を装備していなかったこと
(2)見張りを十分に行っていなかったこと
(3)避航を促す音響信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,芳栄丸が,甲板部船舶職員の資格を有する乗組員が乗り組んで発航していれば,有資格者が八幡丸と衝突のおそれのある態勢で接近することを判断でき,同船の進路を避けることにより,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,甲板部船舶職員の資格を有する乗組員を乗り組ませないまま発航を指示したこと,B指定海難関係人が船長代行の依頼を断らずに発航したこと及び芳栄丸が八幡丸の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 一方,八幡丸が,見張りを十分に行っていれば,衝突のおそれのある態勢で接近する芳栄丸に気付き,避航を促す音響信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとることにより,衝突を回避できたものと認められる。
 従って,C受審人が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 全長12メートル以上の八幡丸が,汽笛を装備していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,汽笛を装備することは海上衝突予防法によって義務付けられており,早急に改善されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,芳栄丸が,甲板部船舶職員の有資格者が乗り組まずに発航し,備讃瀬戸東部において,漁ろうに従事している八幡丸の進路を避けなかったことによって発生したが,八幡丸が,見張り不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 芳栄丸の運航が適切でなかったのは,船長が甲板部船舶職員の有資格者を乗り組ませないまま,無資格者に船長代行を依頼して下船し,発航を指示したことと,無資格の甲板員が同依頼を断らずに発航したこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,徳山下松港において所用のため一等航海士及び機関員と共に下船する場合,交代要員の手配がつかず,船長の職務をとることのできる甲板部船舶職員の資格を有する乗組員が乗り組んでいなかったのであるから,港外で錨泊するなどして発航を中止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,残った無資格の乗組員が航海に慣れているので任せても大丈夫と思い,発航を中止しなかった職務上の過失により,芳栄丸が,備讃瀬戸東部において,北東進中,漁ろうに従事している八幡丸の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,芳栄丸の左舷船首部外板に凹損及び擦過傷を,八幡丸の船尾部外板に亀裂を,ネットローラーの脱落,揚網用マストの曲損及び曳網索の切断などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 C受審人は,備讃瀬戸東部において,東行しながら漁ろうに従事する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,操舵室に置いたテレビを見ることに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する芳栄丸に気付かず,機関を停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとらないで同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人に対しては勧告しないが,甲板部船舶職員の資格がないのであるから,船長代行の依頼があっても,これを断り,有資格者不在のまま発航することは,厳に慎まなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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