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平成17年神審第94号
件名

貨物船浩和丸貨物船ケイヨー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月14日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(加藤昌平,雲林院信行,清重隆彦)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:浩和丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:浩和丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
C社 業種名:海上輸送業
補佐人
a,b(いずれも受審人A及びB並びに指定海難関係人C社が選任)
指定海難関係人
D 職名:ケイヨー船長

損害
浩和丸・・・左舷船首部外板及びブルワーク凹損,左舷錨海没
ケイヨー・・・左舷中央部外板亀裂を伴う凹損,積荷濡損

原因
浩和丸・・・視界制限状態時の航法(レーダー・速力)不遵守
ケイヨー・・・視界制限状態時の航法(速力)不遵守
C社・・・浩和丸の安全運航管理不十分

主文

 本件衝突は,浩和丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,ケイヨーが,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 海上輸送業者が,浩和丸の安全運航管理を十分に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月15日21時59分
 樫野埼東方沖合
 (北緯33度28.8分 東経135度55.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船浩和丸 貨物船ケイヨー
総トン数 365トン 1,369トン
全長 54.32メートル 73.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 1,176キロワット
(2)設備及び性能等
ア 浩和丸
 浩和丸は,昭和63年1月に進水した,限定沿海区域を航行区域とする一層甲板の船尾船橋型鋼製危険物タンカーで,四日市港で化学薬品を積載し,主に京浜,阪神及び瀬戸内海地域で揚荷を行う輸送に従事していた。
 船体中央部に配置された貨物区画は,船首部から船尾方向に1番から3番までの貨物タンクが,それぞれ左右に分割されており,計6個の貨物タンクは,船側方をボイドスペースにより,船底部を海水バラストタンクにより保護されていた。
 上甲板上の船首楼にボースンストアを,船尾楼に荷役ポンプ室,火災制御室及び舵機室等を配し,その上層に2層の船員居住区と更に上層に操舵室を配置していた。そして,操舵室内には,中央部にジャイロコンパスを備えた操舵スタンドを,その左舷側に2台のレーダー,同右舷側に主機遠隔操縦装置を設置し,左舷前部にGPSプロッターと測深機,同後部に海図台を設置していた。
 レーダーには,ARPA機能は装備されておらず,エコートレイルと称する,画面上で対象船を選択することにより,同船の過去の航跡を表示する機能を有しており,操舵スタンド上方やや右舷側の天井には,探照灯操作用ハンドルを設けていた。
 主機運転にはA重油を使用しており,いつでも操舵室から増減速及び前後進の切替えが可能で,海上内試運転成績書写によれば,ベッカーラダーを装備した同船が右旋回したときの旋回径は150メートルで,15度及び30度回頭するまでに要する時間は,それぞれ11秒及び16秒で,全速力前進中,全速力後進発令から船体停止までに要する時間は1分02秒であった。
イ ケイヨー
 ケイヨーは,1982年6月に進水した二層甲板型の船尾船橋型鋼製貨物船で,船体中央部に倉口及びハッチカバーを装備した船倉を配し,上甲板船尾部に2層の船員室及びその上層に操舵室を配置していた。そして,操舵室内には,中央部に操舵スタンド,その左舷側に主機遠隔操縦装置,同右舷側にレーダー2台,同室前部にGPSプロッターを装備していたほか,2台の国際VHFを備え,同室右舷側後部に海図台を配置し,いずれのレーダーにもARPA機能を備えていなかった。

3 本件発生に至る経緯
 浩和丸は,A及びB両受審人ほか3人が乗り組み,いずれも引火性を有する酢酸ブチル60トン及びブタノール250トンを積載し,船首1.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成17年7月15日11時00分四日市港を発し,大阪港に向かった。
 ところで,同船の船橋当直は,固定した時間割によらず,出港後,船長及び航海士による単独で各4時間ずつの3直制をとっていた。
 A受審人は,16時から単独の船橋当直に就いて熊野灘を南下し,19時40分三重県三木埼沖で昇橋してきたB受審人と当直を交替したとき,付近では視程3海里ほどあるものの,所々視程が0.3海里未満となっている旨の海上濃霧警報が発表されていること,機関及び汽笛はいつでも使用できること並びに危険な状況になれば船長に報告することを引き継いだが,運航基準の内容を十分に把握していなかったので,視程が1.0海里以下となったときには適切な視界制限状態での運航方法をとることができるよう,直ちに船長に報告するよう具体的な数値を明示して指示することなく降橋した。
 C社は,運航管理規程及び運航基準を運航船舶に送付していたが,視界制限状態での運航方法などの安全運航に関する規定について各船に十分説明を行っていなかったので,その内容が乗組員に周知徹底されておらず,また,運航管理体制を確立しておらず,気象及び海象に急変があった際の情報の収集及び伝達方法についても,毎日08時30分ごろの定時連絡と入出港時の連絡以外には運航管理を担当する海運部と各船との連絡体制が十分にとられていなかった。
 20時35分B受審人は,樫野埼灯台から044度(真方位,以下同じ。)17.5海里の地点で,針路を216度に定め,機関を全速力前進として10.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定の灯火を掲げて自動操舵により進行した。
 21時35分B受審人は,樫野埼灯台から056度7.2海里の地点に至ったとき,視程が1.0海里以下となったが,運航基準の内容を十分に把握しておらず,それまでの経験から,視程が0.5海里ぐらいまでは,他船を視認してからでも避けることができるので,単独で当直を続けても大丈夫と思い,視界制限状態となったことを直ちに船長に報告せず,安全な速力とすることも,霧中信号を行うこともしないまま,目視で見張りを行うだけで,1.5海里レンジでオフセンターとしたレーダーを利用して周囲の見張りを行うことなく続航した。
 こうして,浩和丸は,A受審人が視界制限状態となったことを知らされず,自ら昇橋して操船指揮をとることも,運航管理者が,同船が視界制限状態下で航行している旨の連絡を受けることができず,船長に対して運航基準に定める視界制限状態での運航方法を遵守して安全運航の確保に努めるよう助言することもできないまま進行した。
 21時50分B受審人は,樫野埼灯台から067度4.7海里の地点に達し,視程が0.7海里となったとき,ケイヨーが右舷船首10度2.5海里のところを北上中で,その後,著しく接近することを避けることができない状況となったが,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止しないまま続航した。
 21時55分少し前B受審人は,樫野埼灯台から074度3.9海里の地点で,更に視程が悪化したのでレーダー画面をのぞいたところ,右舷船首13度1.0海里のところにケイヨーの映像を認めたものの,エコートレイルを入れて10秒ばかり動静を見ただけで,ほぼ反航する針路で進行しており右舷対右舷で航過できるものと思い,レーダー画面上で継続して同船の動静監視を行うことなく,同一針路,速力で進行した。
 21時56分B受審人は,樫野埼灯台から078度3.8海里の地点に至り,視程が0.5海里となって更に悪化するので,機関を半速力前進にかけて8.0ノットの速力とし,いずれケイヨーが見えてくるものと思い,操舵室前面ガラスを水洗いしたり,探照灯を操作して前路を照らすなどして続航中,21時59分少し前,右舷船首至近にケイヨーの紅灯を視認し,手動操舵に切り替えて右舵一杯をとり,全速力後進としたものの及ばず,21時59分樫野埼灯台から079度3.5海里の地点において,236度に向首した浩和丸の船首が7.0ノットの速力でケイヨーの左舷中央部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で風はなく,視程は0.1海里であった。
 A受審人は,自室で休息していたところ,後進にかかった機関の振動と引き続く衝撃で衝突したことを知り,直ちに昇橋して関係先への連絡,報告及び事後の措置にあたった。
 また,ケイヨーは,D指定海難関係人ほか中国人7人が乗り組み,大豆1,382トンを積載し,船首3.3メートル船尾5.8メートルの喫水をもって,7月11日12時15分(中国時間)中国大連港を発し,その後,大韓民国釜山港で補油を行い,同月14日01時20分(中国時間)同港を出港したのち,関門海峡及び四国沖を経て京浜港に向け東行した。
 7月15日21時00分(日本時間,以下同じ。)D指定海難関係人は,潮岬沖で一等航海士と当直を交替して単独の船橋当直に就き,21時38分樫野埼灯台から144度1.7海里の地点で,針路を047度に定め,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力で,法定の灯火を掲げて自動操舵により進行した。
 定針後すぐは,視程が悪化して0.5海里となったことから,機関部に燃料油の切替えを指示し,同切替えが終了後機関用意として減速することとし,安全な速力とせず,霧中信号を行うことなく続航した。
 21時50分D指定海難関係人は,樫野埼灯台から085度2.5海里の地点に達したとき,3海里レンジでオフセンターとしたレーダー画面上,正船首2.5海里のところに浩和丸の映像を探知し,浩和丸と著しく接近することを避けることができない状況であったが,レーダープロッティングを行うなどして動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止することなく,自船が右転すれば,いずれ相手船も右転して無難に航過できるものと思い,手動操舵に切り替えて針路を056度に転じて進行した。
 21時52分D指定海難関係人は,機関部から燃料油の切替えが終了した旨の報告を受けて機関用意とし,微速力前進にかけて6.0ノットの速力で続航した。
 21時55分少し前D指定海難関係人は,樫野埼灯台から080度3.1海里の地点に至ったとき,レーダー画面上で,依然として浩和丸の方位に明確な変化がないまま,左舷船首7度1.0海里に接近したことから,同船と左舷を対して航過するつもりで,小角度の右転を2度行って進行していたところ,21時58分半左舷船首至近に浩和丸のマスト灯と右舷灯を視認し,右舵一杯をとったものの及ばず,ケイヨーが101度に向首したとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,浩和丸は,左舷船首部外板及び同部ブルワークを凹損し,左舷錨を喪失させ,ケイヨーは,左舷中央部外板に亀裂をともなう凹損を生じたが,のち,いずれも修理された。
 また,ケイヨーは,外板損傷に伴い積荷を濡損させた。

4 C社がとった事後の措置
 本件発生後C社は,視界制限状態における事故の再発を防止するために,本件発生を各船に周知して注意喚起する一方,運航管理規程及び運航基準の具体的内容が周知徹底されていなかったことを反省し,運航管理者,運航管理補助者及び運航担当者が全ての定期傭船を訪船し,運航管理規程及び運航基準の内容の周知並びにその遵守徹底を図った。
 また,同社は,乗組員に対する教育を含む運航管理体制強化のため,要員の変更及び強化を実施し,気象,海象情報等の収集を充実させるとともに,各地の支店,営業所と連携して訪船回数を増やすなどして運航管理を担当する海運部と各船間の連絡体制の緊密化等を図った。

(航法の適用)
 本件は,霧のため視程が0.1海里の視界制限状態となった樫野埼東方沖合において,南下中の浩和丸と北上中のケイヨーとが衝突したもので,海上衝突予防法第19条視界制限状態における船舶の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 浩和丸側
(1)A受審人が,視界制限状態となった際に報告する視程を明示しなかったこと
(2)B受審人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと
(3)安全な速力としなかったこと
(4)霧中信号を行わなかったこと
(5)B受審人が,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(6)ケイヨーと著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速度に減じず,また,必要に応じて停止しなかったこと
(7)B受審人が,レーダー画面上でケイヨーの映像を探知した後,動静監視を十分に行わなかったこと
(8)乗組員が運航基準で定める,視界制限状態の運航方法について十分に理解していなかったこと
(9)C社が,傭船に対して運航管理規程及び運航基準の内容を十分に説明していなかったこと
(10)C社が,運航管理体制を十分に確立しておらず,傭船との連絡が行われず,視界制限状態となった際に運航を中止するよう助言しなかったこと

2 ケイヨー側
(1)安全な速力としなかったこと
(2)霧中信号を行わなかったこと
(3)レーダーによる動静監視を十分に行わなかったこと
(4)浩和丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止しなかったこと
(5)小角度の右転を続けたこと

3 気象等
 衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたこと

(原因の考察)
 浩和丸が,霧のため視界制限状態となった樫野埼東方沖合を南下中,レーダーによる見張りを十分に行っていれば,ケイヨーと著しく接近することを避けることができない状況となったことを認識でき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて停止することにより,本件は発生していなかったものと認められる。
 また,船長が,視界制限状態となった際,具体的な数値を明示して報告すべき視程を指示していれば,当直者から報告を受けて自ら操船指揮を執ることができ,本件発生を防止することができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,当直者に対して,視界制限状態となった際に報告すべき視程の基準を明示しなかったこと,B受審人が視界制限状態となったことを報告しなかったこと,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと及びケイヨーと著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止する措置をとることなく進行し,ケイヨーの映像を探知した後も動静監視を十分に行わず,その後も停止しなかったことは,本件発生の原因となる。
 安全な速力としなかったこと及び霧中信号を行わなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,ケイヨーとの距離が1.0海里となったときレーダーで同船を探知してその存在を知っており,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて停止することによって衝突を回避できたと認められるから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,ケイヨーが,視界制限状態となった樫野埼東方沖合を北上中,浩和丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて停止していれば,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,D指定海難関係人が,レーダー画面上で浩和丸を探知したのち,レーダーによる動静監視不十分で,同船と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて停止することなく,小角度の右転を続けながら進行したことは,本件発生の原因となる。
 安全な速力としなかったこと及び霧中信号を行わなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,浩和丸が方位に明確な変化のないまま接近するのを認識しており,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて停止することによって衝突を回避できたと認められるから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,いずれも海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 C社が,傭船に対し,運航管理規程及び運航基準の内容を十分に説明して周知徹底し,運航管理体制を確立して安全運航管理を十分に行っていたなら,視界制限状態での運航方法について乗組員の十分な理解が得られ,浩和丸において適切な運航方法がとられる一方,運航管理者に対する連絡が行われて運航を中止するよう助言できたものと認められる。
 したがって,C社が,安全運航管理が不十分で,傭船に対し,運航管理規程及び運航基準の内容を十分に説明して周知徹底していなかったこと並びに運航管理体制を確立していなかったことは,本件発生の原因となる。
 衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたことは,航行船にとって特別な状況とはいえず,その環境のもとで海上衝突予防法第19条に定める視界制限状態での航法をとることを求められるのであり,本件発生の原因とならない。

(主張に対する判断)
 浩和丸側は,衝突前にケイヨーが,左舷船首45度に,浩和丸の右舷側を南西進する第三船のマスト灯を視認し,激右転して浩和丸の前路に進出したことが主たる原因である旨主張するので,検討する。
 まず,浩和丸の右舷側を航行していた第三船の灯火視認の可否についてみると,B受審人に対する質問調書中,第三船は,「右舷船尾30度の方向に0.5海里の航過距離で浩和丸を追い越す態勢で航行していた。」旨の供述記載があり,また,当廷において同人は,「衝突時の第三船との距離は0.7海里ぐらいあった。」旨供述している。本件発生時の視程は,先に認定したように0.1海里であり,このことは,補佐人も弁論において述べているところである。
 したがって,衝突直前の両船の針路を考慮すれば,ケイヨーの左舷船首方に浩和丸が位置し,同視程のもとでケイヨーから視認できる灯火は,最も近距離にある浩和丸の灯火とするのが相当で,第三船のマスト灯を視認して激右転したとの浩和丸側の主張は認められない。
 次に,ケイヨーの右転をどう評価するかであるが,先に認定したように,ケイヨーは,視程が0.5海里の下で047度の針路で進行中,レーダー画面上正船首2.5海里のところに浩和丸を探知して針路を056度に転じ,更に接近する途中で2度小角度の右転を行ったのち,左舷船首至近に浩和丸の灯火を認め,右舵一杯をとって回頭中に衝突したものである。
 ケイヨーが転針することなく047度の針路のまま進行したとしても,浩和丸との航過距離は0.2海里であり,視程が0.5海里となった視界制限状況下,他船の航行も多い樫野埼沖合で,両船の針路が小角度で交差し,距離が2.5海里となっていたときに,両船が著しく接近する状況にあるかどうかの判断を行うべき衝突危険海域にあったとみるのが相当で,その時点ですでに著しく接近することを避けることができない状況となっていたと認められ,その後のケイヨーの転針にかかわらず,両船の著しく接近する状況が続いていることに変わりはなく,針路を保つことのできる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて停止することが求められるものである。
 したがって,ケイヨーの右転が主因であるとする浩和丸側の主張は認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,霧のため視界制限状態となった樫野埼東方沖合において,南下する浩和丸が,レーダーによる見張り不十分で,ケイヨーと著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止しなかったことと,北上するケイヨーが,浩和丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて停止しなかったこととによるものである。
 浩和丸の運航が適切でなかったのは,船長が,視界制限状態となった際に報告すべき視程について明示しなかったことと,当直者が,視界制限状態となったことを報告しなかったこととによるものである。
 海上輸送業者が,安全運航管理を十分に行わず,乗組員に対し,運航管理規程及び運航基準の内容を周知徹底していなかったこと並びに安全運航管理体制を確立していなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 B受審人は,夜間,霧により視界制限状態となった熊野灘を南下する場合,前路を北上するケイヨーと著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,視認してからでも避けることができるものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて停止しないまま進行してケイヨーとの衝突を招き,同船の左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせて積荷を濡損させ,浩和丸の左舷船首部外板及び同部ブルワークを凹損し,左舷錨を喪失させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,海上濃霧警報が発表されて視界の悪化が予測される状況下,船橋当直を交替する場合,視界制限状態となったときに自ら操船指揮を執ることができるよう,当直者に対して船長に報告すべき視程を明示すべき注意義務があった。しかしながら,同受審人は,視界が制限されて危険な状況になったら報告するよう指示しただけで,報告すべき視程を明示しなかった職務上の過失により,視界制限状態となったことの報告を受けることができず,自ら操船指揮を執ることができないまま進行してケイヨーとの衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C社が,浩和丸を運航するにあたり,安全運航管理を十分に行わず,運航管理規程及び運航基準を送付しただけで,同船乗組員に対し,視界制限状態での運航基準を含む運航基準の内容について周知徹底しておらず,同船との連絡が十分にとられず,船長に対して運航中止の判断を助けるための適切な助言を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 C社に対しては,本件後,運航管理体制の強化,徹底を図り,訪船指導等の強化により,安全教育に努めるとともに,各船との情報の連絡の緊密化及び安全運航を確保するための諸対策を講じたことに徴し,勧告しない。
 D指定海難関係人が,夜間,霧で視界制限状態となった樫野埼東方沖合において,正船首方に浩和丸のレーダー映像を探知した際,同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるように動静監視を十分に行わず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて停止することなく,小角度の変針を続けながら進行したことは,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては勧告しないが,視界制限状態で航行する場合は,国際海上衝突予防規則を遵守して,レーダーによる十分な見張り及び動静監視を行い,事故の再発防止に努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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