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 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年横審第112号
件名

貨物船第一有明丸貨物船栄光丸衝突事件
第二審請求者〔補佐人a〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(古川隆一,黒岩 貢,古城達也)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:第一有明丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
a
指定海難関係人
B 職名:栄光丸機関長
補佐人
b,c,d

損害
第一有明丸・・・船首及び左舷船首船底外板に亀裂を伴う破口,右舷球状船首に亀裂
栄光丸・・・左舷船首部に大破口,転覆し全損,船長が死亡

原因
第一有明丸・・・動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
栄光丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,入航する第一有明丸が,水路入口外側の広い水域で出航する栄光丸を待たなかったばかりか,安全な速力とせず,かつ,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,栄光丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月18日05時25分
 千葉港千葉区
 (北緯35度28.4分 東経139度59.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第一有明丸 貨物船栄光丸
総トン数 3,692トン 498トン
全長 114.54メートル 49.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 7,060キロワット 544キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第一有明丸
 第一有明丸(以下「有明丸」という。)は,平成4年1月に進水した沿海区域を航行区域とする全通二層甲板船首船橋型の,固定ピッチプロペラ及びバウスラスターを有する,鋼製ロールオン・ロールオフ貨物船で,専ら千葉港,大阪港堺泉北区及び愛媛県三島川之江港間を車両及びシャーシーの輸送に従事しており,船首端から船橋前面までの距離は17.5メートルで,本件発生当時の喫水による船橋の眼高は16.8メートルであった。
 操舵室には操舵スタンド,主機遠隔操縦装置,レーダー2台,GPSなどが配置され,同室からの視界を妨げるものは何もなかった。
 海上試運転成績書によれば,20パーセント積載状態の平均喫水3.7メートルで,機関回転数毎分158にかけたときの対水速力20.8ノットの全速力前進中に,舵角35度で左旋回したときの縦距は411メートル,横距は402メートル,同舵角で右旋回したときの縦距は430メートル,横距は389メートルで,全速力後進を発令したときの停止距離は930メートル,所要時間が2分25秒であった。
 また,対水速力10ノットで前進中,全速力後進にかけたときの停止距離は250ないし300メートルで,所要時間は1分強であった。
イ 栄光丸
 栄光丸は,平成2年11月に進水した平水区域を航行区域とする二層甲板船尾船橋型の,固定ピッチプロペラ及びバウスラスターを有する鋼製貨物船で,船首部に旋回式ジブクレーン1基を備え,船首端から船橋前面までの距離は37.0メートルで,主として千葉港千葉区,京浜港東京区及び同港横浜区間において砕石や砂の輸送に従事していた。
 操舵室には,操舵スタンド,主機遠隔操縦装置,レーダー1台などが配置され,船首部のジブクレーンについては,操舵位置についた当直者が体を左右に動かせば特に見張りの障害にはならなかった。

3 本件発生水域
 本件発生水域は,千葉港千葉区の中袖北東岸と,対岸の北袖南西岸及び同北端から北西方に拡延する10メートル等深線により囲まれる浅瀬との間の長さ2,400メートルの水路(以下「水路」という。)の北部で,水路入口付近には千葉港中袖地先灯浮標(以下「中袖地先灯浮標」という。)と千葉港北袖ヶ浦第2号灯浮標がそれぞれ設置されていた。また,水路の幅員は,水路入口の中袖地先灯浮標付近から中袖北東端のC社岸壁付近までが300メートルであったが,前示10メートル等深線水路側に沿って水深5.1,同6.3及び同6.4メートルの浅所が存在しており,さらにC社岸壁に係留中の大型船が存在した場合には,通航する船舶はこれらから余裕水域をとる必要があり,同岸壁付近の可航幅が著しく狭くなった。
 また,C社岸壁付近の水路は,岸壁に離着岸する船舶にとっては回頭などを行う操船水域にも当たるところであった。

4 事実の経過
 有明丸は,A受審人ほか10人が乗り組み,シャーシー67ユニット及び小型車2台を積載し,揚荷の目的で,船首4.55メートル船尾5.85メートルの喫水をもって,平成17年1月17日08時00分大阪港堺泉北区を発し,千葉港千葉区袖ヶ浦ふ頭F岸壁に向かった。
 A受審人は,翌18日02時45分浦賀水道航路入口南方6海里の地点に達したとき,同航路通過のため昇橋して操船指揮をとり,04時18分中ノ瀬航路を出て北東進したのち,04時54分機関用意を令して水路入口に接近し,05時14分袖ヶ浦東京ガスシーバース灯(以下「シーバース灯」という。)から358度(真方位,以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき,針路を154度に定め,機関を微速力前進にかけ,9.9ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,三等航海士を手動操舵に当たらせて進行した。
 ところで,有明丸は,追い風を受けて直進する際には,船体の形状が影響し,微速力前進にかけたときには5度ばかり,極微速力前進としたときでは10度ばかりの当て舵をそれぞれとらなければならなかった。
 また,当時,C社岸壁には,全長170.0メートル幅27.0メートルのD号(以下「大型船」という。)が停泊しており,同岸壁付近の可航幅が170メートルばかりに狭められ,水路の最狭部となっていたため,この付近で大型入航船が出航船と出会うと,著しく接近する状況になった。したがって,有明丸が,同岸壁付近で出航船と出会うおそれのある場合には,水路入口外側の広い水域で出航船が水路を出るまで待つことが必要であった。
 定針したころA受審人は,正船首わずか左方の水路の東寄りに,栄光丸の少し前を先行する出航第1船を,ほぼ正船首2.9海里に出航第2船である栄光丸のマスト灯2灯及び両舷灯を初めて双眼鏡で認め,さらに,港奥にも出航第3船を認め,3隻の出航船が続いて水路を北上していることを知ったが,安全な速力としないまま9.9ノットの速力で追い風を受けて続航した。
 05時20分半A受審人は,シーバース灯から038度1,280メートルの地点に達したとき,水路入口の中袖地先灯浮標まで780メートルとなり,出航第1船を水路東寄りの正船首わずか左方0.7海里ばかりに,栄光丸を水路中央やや西寄りの右舷船首1度1.0海里に,さらに出航第3船が水路の東寄りに栄光丸の後方を続いている状況下,水路に入ると,C社岸壁付近の最狭部で栄光丸と出会うおそれがあったが,同船を左舷に見て水路の西寄りを航行するのは同岸壁に近づくため困難で,水路の中央を通れば右舷対右舷で無難に替わるものと思い,水路入口外側の広い水域で栄光丸を待つことなく,水路ほぼ中央を進行した。
 A受審人は,追い風を受け船首が振れる状況下,当て舵をとりながら同一速力で続航し,05時22分シーバース灯から059度1,160メートルの地点で,栄光丸がほぼ正船首1,250メートルとなり,衝突のおそれのある状況となったが,依然,右舷対右舷で無難に替わるものと思い,栄光丸に対する動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,行きあしを止めるなど,衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 A受審人は,05時23分半水路入口付近で出航第1船と左舷を対して替わり,05時24分C社岸壁北端にほぼ並航するころ着岸態勢に入るため機関を極微速力前進にかけて進行し,05時24分わずか過ぎ右舷船首方に栄光丸から照射された強い光を認め,05時24分少し過ぎ正船首少し右方270メートルに接近していた栄光丸が右転を始めたように見え,危険を感じて機関を停止し,全速力後進を令したと同時に,05時25分シーバース灯から099度1,410メートルの地点において,有明丸は,原針路,9.0ノットの速力で,その船首部が栄光丸の左舷船首部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力5の北北西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 また,栄光丸は,B指定海難関係人及び船長Eほか1人が乗り組み,載貨重量を大きく超える砕石約1,500トンを積載し,ジブクレーンを立てた状態のまま,揚荷の目的で,船首4.0メートル船尾5.1メートルの喫水をもって,18日05時00分千葉港千葉区袖ヶ浦ふ頭1号物揚場を発し,京浜港東京区品川に向かった。
 E船長は,B指定海難関係人を操舵室左舷側で見張りに就け,05時09分わずか過ぎシーバース灯から132.5度1.6海里の地点に達したとき,針路を中袖東側の岸壁に平行となる335度に定め,機関を微速力前進にかけ,4.0ノットの速力で,遠隔操作による手動操舵に当たって進行した。
 栄光丸は,前示北袖の浅瀬を離すため水路の右側に寄らずに中央をやや西側に寄って航行し,05時20分半シーバース灯から114.5度1,740メートルの地点で,B指定海難関係人が,ほぼ正船首1.0海里に入航する有明丸のマスト灯2灯及び右舷灯を初めて認めた。
 05時21分半E船長は,有明丸の両舷灯を認めるようになり,05時22分シーバース灯から111.5度1,640メートルの地点で,有明丸がほぼ正船首1,250メートルとなり,衝突のおそれのある状況となったことを認めたが,同人は,まだ同船まで距離があると思い,直ちに機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく,B指定海難関係人もまた,同様の理由で,E船長に対し,直ちに衝突を避けるための措置をとるよう進言せずに続航した。
 B指定海難関係人は,05時24分有明丸が両舷灯を見せたまま船首方390メートルに接近するので危険を感じ,05時24分わずか過ぎ探照灯を有明丸の船橋に向け照射し,E船長が機関を全速力後進にかけたところ,05時24分少し過ぎ栄光丸は,後進力が効き始めて船首が右に振れ始めたが,05時25分船首が004度を向き,行きあしがなくなったころ,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,有明丸は,船首及び左舷船首船底外板に亀裂を伴う破口を,右舷球状船首に亀裂を生じたが,のち修理され,栄光丸は,左舷船首部に大破口を生じ,浸水して転覆し,引き揚げられたが全損となった。
 B指定海難関係人及び栄光丸甲板員は,海上に投げ出されたものの後続の出航船に救助されたが,E船長が溺死した。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,千葉港千葉区の大型船が係留し可航幅が狭められた水路において,入航する有明丸と出航する栄光丸とが衝突したものであるが,以下適用される航法について検討する。
 本件が発生した水路は港則法第12条による航路に指定されておらず,航法が港則法により定められていないので海上衝突予防法(以下「予防法」という。)が適用される。
 次に,予防法第9条の適用についてであるが,本件が発生した水域は,幅員が300メートルで,港奥の岸壁に離着桟する船舶にとって通航路であったものの,一方,中袖東側の岸壁に係留,離岸する船舶にとっては操船水域に当たるところでもあった。また,当時,衝突地点付近の水路西側のC社岸壁には大型船が係留され,同船及び水路東側の浅瀬からの余裕水域を考慮すると,本件発生地点付近の可航幅は170メートルばかりに狭められており,3隻の出航船が引き続き北上している状況下,そのうちの1隻である栄光丸と入航する有明丸がこの付近で出会うと,互いにできる限りその右側端に寄ったとしても著しく接近することになった。
 したがって,予防法第9条を適用することは相当ではなく,同法第38条及び第39条の船員の常務により律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 有明丸
(1)栄光丸を左舷に見て水路の西寄りを航行するのはC社岸壁に近づくため困難で,水路の中央を通れば右舷対右舷で無難に替わるものと思い,水路入口外側の広い水域で栄光丸を待たなかったこと
(2)安全な速力としなかったこと
(3)栄光丸の動静監視を十分に行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 栄光丸
(1)載貨重量を超えて積荷していたこと
(2)水路を右側に寄って航行しなかったこと
(3)E船長が,まだ有明丸まで距離があると思い,直ちに衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(4)B指定海難関係人が,まだ有明丸まで距離があると思い,E船長に対し,直ちに衝突を避けるための措置をとるよう進言しなかったこと

(原因の考察)
 本件は,係留中の大型船及び浅瀬により可航域が狭められた水路を3隻が引き続いて出航する状況下,入航する有明丸が,出航する栄光丸を水路入口外側で待っていたなら,大型船付近の水路最狭部で栄光丸と出会うおそれがなくなり,また,安全な速力とし,栄光丸に対し動静監視を行っていたなら,早期に衝突のおそれに気付いて衝突を避けるための措置をとることができ,発生を防止できたものと認められる。
 また,有明丸は,水路入口外側の広い水域にあっては,反転するなり機関を停止するなりして待つことができた。
 したがって,A受審人が,栄光丸を左舷に見て水路の西寄りを航行するのはC社岸壁に近づくため困難で,水路の中央を通れば右舷対右舷で無難に替わるものと思い,出航する同船を水路入口外側の広い水域で待たなかったこと,安全な速力としなかったこと,栄光丸の動静監視を十分に行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 一方,栄光丸が,有明丸の両舷灯を認め,同船との衝突のおそれを認識した際,直ちに衝突を避けるための措置をとっていれば,本件の発生を防止できたものと認められる。
 したがって,E船長が,まだ有明丸まで距離があると思い,直ちに衝突を避けるための措置をとらなかったこと及びB指定海難関係人が,まだ有明丸まで距離があると思い,直ちに衝突を避けるための措置をとるようE船長に進言しなかったことは本件発生の原因となる。
 栄光丸が,載貨重量を超えて積荷していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,乾舷を著しく減少させることになるので,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 栄光丸が,水路を右側に寄って航行しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,千葉港千葉区において,入航する有明丸が,他の出航船とともに水路を北上する栄光丸と,大型船の係留により可航幅が狭められた水路最狭部において出会うおそれがあった際,水路入口外側の広い水域で出航する栄光丸を待たなかったばかりか,安全な速力とせず,かつ,同船に対する動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,栄光丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 栄光丸の運航が適切でなかったのは,船長が,有明丸との衝突のおそれを認めた際,直ちに衝突を避けるための措置をとらなかったことと,船橋で見張りをしていた栄光丸の船長経験を有する機関長が,有明丸との衝突のおそれを認めた際,船長に対し,直ちに衝突を避けるための措置をとるよう進言しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,夜間,千葉港千葉区において,袖ヶ浦ふ頭F岸壁に向け入航中,他の出航船とともに水路を北上する栄光丸を認め,大型船の係留により可航幅が狭められた水路最狭部で栄光丸と出会うおそれがあった場合,同船と著しく接近することのないよう,水路入口外側の広い水域で出航する同船を待つべき注意義務があった。ところが,同人は,栄光丸を左舷に見て水路の西寄りを航行するのはC社岸壁に近づくため困難で,水路の中央を通れば右舷対右舷で無難に替わるものと思い,水路入口外側の広い水域で同船を待たなかった職務上の過失により,水路最狭部で同船と出会ったばかりか,同船に対する動静監視を十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらずに進行して栄光丸との衝突を招き,有明丸の船首及び左舷船首船底外板に亀裂を伴う破口を,右舷球状船首に亀裂を,栄光丸の左舷船首部に大破口をそれぞれ生じさせ,同船を転覆させる事態を招き,船長を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を2箇月停止する。
 船橋で見張りをしていた栄光丸の船長経験を有するB指定海難関係人が,有明丸との衝突のおそれを認めた際,船長に対し,直ちに機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとるよう進言しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,内航海運業及び船員を廃業したことに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
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参考図2
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