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平成17年横審第56号
件名

押船第三十六上星丸被押台船飛竜灯浮標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月14日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(村松雅史,清水正男,米原健一)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第三十六上星丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
上星丸押船列・・・損傷ない
名古屋港北航路第3号灯浮標・・・約200メートル移動,同灯浮標本体に凹損及び擦過傷,レーダーリフレクターの脱落並びにハンドレールに曲損

原因
見張り不十分(船首死角を補う見張り)

主文

 本件灯浮標衝突は,見張りが十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月18日08時40分
 名古屋港北航路
 (北緯35度02.1分 東経136度51.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第三十六上星丸 台船飛竜
総トン数 19トン 1,895トン
全長 13.00メートル 61.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 588キロワット  
船種船名 作業船B丸  
総トン数 13トン  
登録長 11.98メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 294キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第三十六上星丸
 第三十六上星丸(以下「上星丸」という。)は,平成7年3月に進水し,沿海区域を航行区域とする最大とう載人員が8人の鋼製押船で,船体中央部の上甲板下に機関室,上甲板上に同室囲壁及び同囲壁の上方に建てた甲板上高さ6.0メートルの櫓上に幅約2メートルの操舵室を設けていた。
 操舵室内には,前部中央に操舵輪が,右舷側に機関操縦装置,レーダー及びGPSプロッターが,左舷側に磁気コンパスが設置されていた。
 また,船首部に油圧式のピンによる嵌合(かんごう)装置が装備され,専ら台船飛竜の船尾凹部に船首を嵌合し,全長約62メートルの押船列(以下「上星丸押船列」という。)を形成していた。
イ 飛竜
 飛竜は,専ら港湾土木工事に従事する鋼製非自航式起重機船兼浚渫船で,船首部に吊上げ荷重350トンの全旋回式ジブクレーンを装備し,上甲板上高さ2.0メートルのところに,長さ13.6メートル幅9.7メートル高さ約3.5メートルのクレーン機械室が設置されていた。
ウ B丸
 B丸は,鋼製作業船で,直径45ミリメートルの合成繊維製係留索を船首尾から各1本とり,飛竜の右舷後部に左舷付けで横抱きされていた。

3 上星丸押船列の船首方の死角
 上星丸押船列の航行中における見通しについては,上星丸の操舵室操舵輪後方で見張りにあたると,飛竜の架台に置かれたジブクレーンによる死角はなかったが,クレーン機械室によって船首左右各6度の範囲に死角を生じ,操舵室の幅は約2メートルで,同室内で左右に移動しても死角を補う見張りはできなかった。

4 事実の経過
 上星丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,鋼製杭52本約150トンを積載して船首1.6メートル船尾2.0メートルの喫水となった飛竜と押船列を形成し,船首0.6メートル船尾2.9メートルの喫水をもって,平成16年3月18日08時00分愛知県名古屋港潮見ふ頭を発し,三重県四日市港に向かった。
 ところで,上星丸には,プレジャーボート・小型船用港湾案内本州南岸1(東京湾−大王埼)が備え付けられ,A受審人は,入航及び出航する前に名古屋港の港湾事情及び航路標識などを調べていた。
 A受審人は,操舵と見張りにあたり,名古屋港北航路に入航して名港中央大橋を通過し,08時26分金城船舶通航信号所(以下「信号所」という。)から032度(真方位,以下同じ。)1.3海里の地点において,針路を199度に定め,機関を全速力前進にかけ,4.9ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,手動操舵により進行した。
 08時37分A受審人は,信号所から058度850メートルの地点に達したとき,ほぼ正船首450メートルのところに,名古屋港北航路第3号灯浮標(以下「第3号灯浮標」という。)を認めることができる状況であったが,視界が良く他船も見かけなかったことから,前路に航行の支障になるものはないと思い,船首に見張り員を配置するなど,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同灯浮標に気付かず,第3号灯浮標に向首したまま続航した。
 08時40分少し前A受審人は,飛竜のクレーン機械室前方の船首死角から現れた第3号灯浮標を右舷船首至近に初めて認め,左舵一杯をとったが及ばず,08時40分信号所から087度570メートルの地点において,上星丸押船列は,船首が189度に向いたとき,原速力のまま,飛竜の右舷後部が第3号灯浮標に衝突した。
 当時,天候は曇で風力3の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 衝突の結果,上星丸押船列に損傷はなかったが,第3号灯浮標は,飛竜とB丸との間に挟まれて約200メートル移動し,標体に凹損及び擦過傷のほか,レーダーリフレクターの脱落並びにハンドレールに曲損を生じたが,のち復旧された。

(本件発生に至る事由)
1 船首方に死角が生じていたこと
2 前路に航行の支障になるものはないと思ったこと
3 船首に見張り員を配置するなど,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,船首死角を補う見張りを十分に行っていれば,第3号灯浮標との衝突を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前路に航行の支障になるものはないと思い,船首に見張り員を配置するなど,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 船首方に死角があったことは,船首死角を補う見張りを十分に行っていれば,第3号灯浮標との衝突を避けることができたものと認められるから,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件灯浮標衝突は,名古屋港北航路において,南下する際,船首死角を補う見張り不十分で,第3号灯浮標に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,名古屋港北航路において,南下する場合,船首方にクレーン機械室による死角が生じていたのだから,第3号灯浮標を見落とさないよう,船首に見張り員を配置するなど,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,視界が良く他船もいなかったので,前路に航行の支障になるものはないと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,第3号灯浮標に向首進行して衝突を招き,同灯浮標を約200メートル移動させ,標体に凹損及び擦過傷を,レーダーリフレクターの脱落並びにハンドレールに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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