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平成17年仙審第29号
件名

漁船第十八惣寶丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月27日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(弓田邦雄,供田仁男,小寺俊秋)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:第十八惣寶丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第十八惣寶丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)
C 職名:第十八惣寶丸一等機関士 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
第十八惣寶丸・・・船首部の凹損及び亀裂
防波堤・・・側壁に大破口

原因
停止する補機の指示不十分,非常照明の取扱い不適切,船首に出港要員を配置して投錨準備しなかったこと

主文

 本件防波堤衝突は,出港操船中,停止する交流発電機駆動用補機の指示が不十分で,常用電源を喪失したこと及び非常照明の取扱いが不適切で,速やかに同電源が復旧されなかったことと,船首に出港要員を配置して投錨準備しなかったこととにより,前路の防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 受審人Bの五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月11日04時02分
 青森県八戸港
 (北緯40度32.2分 東経141度32.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第十八惣寶丸
総トン数 219トン
全長 50.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第十八惣寶丸
 第十八惣寶丸(以下「惣寶丸」という。)は,昭和62年3月に進水した,大中型まき網漁業に運搬船として従事する鋼製漁船で,例年5月から翌年3月までの間,船団の3隻の僚船とともに操業を行っていた。
イ 主機
 主機は,連続最大出力860キロワット同回転数毎分600(以下,回転数は毎分のものとする。)のディーゼル機関で,可変ピッチプロペラを備え,操舵室の操縦盤から電気式により遠隔操作されるようになっており,前部の動力取出軸から甲板機械用の油圧ポンプが駆動されるようになっていた。
 なお,機関室の制御盤には,直流24ボルト及び交流100ボルトの遠隔操作用の各電源スイッチと機側・制御盤・操舵室の各操作位置の切替えスイッチが取り付けられていた。
ウ 交流発電機駆動用補機
 交流発電機駆動用補機は,機関室下段の右舷側及び左舷側に定格出力147キロワット同回転数1,200のディーゼル機関各1機(以下「1号補機」「2号補機」という。)を備え,それぞれ容量160キロボルトアンペア225ボルト交流発電機(以下「1号発電機」「2号発電機」という。)を駆動するようになっていた。
エ 主配電盤
 主配電盤は,機関室上段の右舷側に左舷方を向いて取り付けられ,船尾側から順に発電機盤,交流220ボルト給電盤,集合始動器盤及び交流110ボルト給電盤・直流24ボルト充放電盤となっており,1号及び2号発電機を並列運転でき,同220ボルト給電盤には操舵機及び可変ピッチプロペラ用変節油ポンプのブレーカースイッチが,同24ボルト充放電盤には同室の非常照明用の同スイッチがそれぞれ取り付けられていた。
オ 船内の常用電源喪失時の状況
 常用電源を喪失した際には,機関室の非常照明用に蓄電池から非常電源が供給され,また,主機回転数(以下「回転数」という。),操舵機舵角(以下「舵角」という。)及び可変ピッチプロペラ翼角(以下「翼角」という。)は常用電源喪失前の状態のままとなって,同電源が復旧するまでは回転数,翼角,舵角の操作は不能となるものであった。
カ 操舵装置
 操舵装置は,電動油圧式の操舵機が舵機室に配置され,操舵室から自動,遠隔,舵輪等により,機側の電磁切替え弁を操作して操舵するようになっていた。
キ 船内の消費電力と発電機の運転状況
 船内の消費電力は,通常は30ないし35キロワットで発電機を単独運転しているが,75キロワット電動機駆動の冷凍機,11キロワット電動機駆動の魚倉冷海水循環ポンプ(以下「魚倉冷海水ポンプ」という。)等を運転するときなどは同電力が120ないし130キロワットとなり,発電機を並列運転としていた。
 なお,出入港時は,ウインドラス,バウスラスタ等は主機駆動油圧ポンプから動力をとっており,そのほか特に電力を消費する機器がないので,発電機を並列運転する必要がなかった。

3 事実の経過
 惣寶丸は,平成16年4月定期検査を受検したのち,翌5月から出漁して太平洋近海でかつお・まぐろ漁を行い,10月から青森県八戸港を水揚地として,同港沖合でいか・さば漁等に従事していた。
 ところで,B受審人は,冷凍機等の運転・停止に伴い,出港時にも発電機を並列運転や単独運転に切り替えるとともに,補機の運転時間をできるだけ同じくするよう,適宜補機の切替えを行っていた。
 また,B受審人は,今まで常用電源を喪失したことがないので大丈夫と思い,非常照明の取扱いを適切に行うことなく,機関室の非常照明用のブレーカースイッチを常時切っていた。
 惣寶丸は,同月11日03時35分A受審人,B受審人及びC受審人ほか6人が乗り組み,氷倉に氷50トンを積み込んだうえ,6番魚倉に冷海水を張り込み,船首1.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,操業の目的で,台風接近のため避難していた八戸港第2区沼館の造船所岸壁を船団の僚船とともに発し,同港沖合の漁場に向かった。
 離岸後,A受審人は,操舵及び操船に当たり,間もなく乗組員が船首・船尾の出港配置を解いたのを認めたが,視界もよく慣れた港なので大丈夫と思い,船首に出港要員を配置して投錨準備することなく,昇橋した一等航海士,甲板長等が在橋するなか,回転数680翼角12.5度とし,白銀西防波堤と河原木南防波堤間の西航路に向け,6.0ノットの微速力で東行した。
 03時58分A受審人は,090度(真方位,以下同じ。)の針路で進行中,八戸港河原木南防波堤東灯台(以下「河原木南防波堤灯台」という。)をほぼ左舷正横に見る,同灯台から189度380メートルの地点に達したとき,西航路中央に向けることとし,左舵10度をとって左転を始め,5.5ノットに速力を減じて続航した。
 これに先立ち,B受審人は,02時ごろ温度が上昇した6番魚倉の冷海水を冷却するため,1号補機を始動して発電機を並列運転としたうえ,冷凍機及び魚倉冷海水ポンプを運転し,03時30分主機を始動して操作位置を操舵室に切り替え,C受審人とともに船尾の出港配置に就き,離岸後同配置を解いて東行中,同魚倉の冷海水が摂氏1.5度まで冷却したので,冷凍機等を停止して発電機を単独運転とし,1機の補機を停止することとした。
 ところで,B受審人は,1号補機を停止する旨を機関室の外でC受審人に口頭で伝えていたが,機関日誌を見て2号補機の運転時間が若干多いことから,急遽同補機を停止することとした。
 B受審人は,冷凍機等を停止したのち発電機盤の前に立ち,ちょうど居住区から背後の機関室上段に降りてきたC受審人の方を振り向き,今まで手の合図で意思の疎通ができていたので大丈夫と思い,2号補機を停止する旨を口頭で同人に伝えるなど,停止する補機の指示を十分に行うことなく,2号発電機の気中遮断器側の左手を斜め下にかざして同補機を停止するよう合図し,次いで負荷を1号発電機に移行したうえ,押しボタンで2号発電機の同遮断器を開路とし,すぐに発電機盤を離れた。
 一方,C受審人は,B受審人の手の合図を見て,直ちに停止しないで低回転で暫く回してから停止するようにとの指示と受け取って下段に赴き,上段床の開口を通して同人が気中遮断器を操作したことを知ったが,手元が背後となっていずれの同遮断器を開路としたのか分からず,停止する旨口頭で伝えられていた1号補機の回転数を600に下げたところ,1号発電機の同遮断器が開路し,03時59分半河原木南防波堤灯台から156度280メートルの地点で,常用電源を喪失して機関室が真っ暗になったのを認め,直ちに同補機の回転を定格回転数まで上げた。
 B受審人は,機関室の非常照明用のブレーカースイッチを切っていたので,同照明が点灯せず,懐中電灯も携帯していなかったことから,真っ暗となった同室内で発電機盤前に赴くことができず,速やかに気中遮断器を投入して常用電源を復旧できず,惣寶丸は,操船不能となって同じ回転数,舵角及び翼角で進行した。
 A受審人は,操縦盤内の交流電源無電圧警報等が作動し,舵角及び翼角の制御が不能となったことを認めたが,船首に出港要員を配置して投錨準備していなかったので,投錨して前進行きあしを止めることができなかった。
 こうして,惣寶丸は,回頭するにつれ,折からの強風により速力を次第に減じて続航し,04時02分河原木南防波堤灯台から226度25メートルの地点において,ほぼ西方に向首して3.5ノットの速力となったとき,同防波堤東端から直角に延伸した部分に,船首が70度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 衝突直後,B受審人は,なんとか手探りで発電機盤前にたどり着き,1号発電機の気中遮断器を投入して常用電源を復旧した。
 この結果,惣寶丸は,右舷船首部に凹損及び亀裂を生じ,防波堤は,側壁に大破口を生じたが,のちそれらは修理された。

(本件発生に至る事由)
1 出港時にも発電機を並列運転や単独運転に切り替えていたこと
2 今まで常用電源を喪失したことがなかったので大丈夫と思い,機関室の非常照明用のブレーカースイッチを常時切り,同照明の取扱いを適切に行っていなかったこと
3 視界もよく慣れた港なので大丈夫と思い,船首に出港要員を配置して投錨準備しなかったこと
4 今まで手の合図で意志の疎通ができていたので大丈夫と思い,停止する補機を口頭で伝えるなど,同補機の指示を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,並列運転中の発電機を単独運転に切り替える際,停止する補機の指示を十分に行っていれば,単独運転した発電機側の補機の回転が落とされず,常用電源を喪失することがなく,操船不能を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,停止する旨口頭で伝えていた補機を変更するにあたり,今まで手の合図で意志の疎通ができていたので大丈夫と思い,停止する補機を口頭で伝えるなど,同補機の指示を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,常用電源を喪失した際,非常照明が点灯すれば,速やかに気中遮断器が投入されて同電源を復旧し,操船不能を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,今まで常用電源を喪失したことがなかったので大丈夫と思い,機関室の非常照明用のブレーカースイッチを常時切り,同照明の取扱いを適切に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
 そして,船首に出港要員を配置して投錨準備していれば,操船不能となった際,投錨して前進行きあしを止め,岸壁への衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,視界もよく慣れた港なので大丈夫と思い,船首に出港要員を配置して投錨準備しなかったことは,本件発生の原因となる。
 出港時にも発電機を並列運転や単独運転に切り替えていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件防波堤衝突は,青森県八戸港内において,夜間,出港操船中,並列運転中の交流発電機を単独運転に切り替える際,停止する補機の指示が不十分で,単独運転した発電機側の補機の回転が落とされて常用電源を喪失したこと及び非常照明の取扱いが不適切で,同照明が点灯せず,速やかに同電源が復旧されなかったことにより,操船不能となったことと,船首に出港要員を配置して投錨準備せず,投錨により前進行きあしが止められなかったこととにより,前路の防波堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,出港操船中,冷凍機の停止に伴い,並列運転中の交流発電機を単独運転に切り替える場合,停止する旨口頭で伝えていた補機を変更するのであるから,常用電源を喪失する事態とならないよう,C受審人に停止する補機を口頭で伝えるなど,同補機の指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,今まで手の合図で意思の疎通ができていたので大丈夫と思い,C受審人に停止する補機を口頭で伝えるなど,同補機の指示を十分に行わなかった職務上の過失により,同補機の指示を手の合図で行ってその指示が伝わらず,単独運転した発電機側の補機の回転が落とされて常用電源を喪失し,速やかに同電源が復旧されないまま,操船不能となって前路の防波堤に向首進行して衝突を招き,右舷船首部に凹損及び亀裂を,防波堤側壁に大破口をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,出港操船する場合,操船不能などの非常事態に直ちに対処できるよう,船首に出港要員を配置して投錨準備すべき注意義務があった。しかるに,同人は,視界もよく慣れた港なので大丈夫と思い,船首に出港要員を配置して投錨準備しなかった職務上の過失により,常用電源を喪失して操船不能となったとき,投錨により前進行きあしを止めることができず,前路の防波堤に向首進行して衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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