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平成18年函審第4号
件名

漁船高隆丸貨物船ティンバー スター衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月30日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(西山烝一,井上 卓,堀川康基)

理事官
勝又三郎

受審人
A 職名:高隆丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ティンバー スター一等航海士

損害
高隆丸・・・右舷船首ブルワーク及びいか釣り機など損傷
ティンバー スター・・・損傷なし

原因
高隆丸・・・居眠り運航防止措置不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
ティンバー スター・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,高隆丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切るティンバー スターの進路を避けなかったことによって発生したが,ティンバー スターが,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月1日03時20分
 北海道江差港西方沖合
 (北緯41度53.8分 東経139度47.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船高隆丸 貨物船ティンバー スター
総トン数 17トン 1,798トン
登録長 17.03メートル 75.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 573キロワット 1,471キロワット
(2)設備及び性能等
ア 高隆丸
 高隆丸は,平成4年3月に進水した,いか一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で,ほぼ船体中央部に操舵室を有し,同室右舷側前部にレーダー2台,GPSプロッタ,魚群探知機及び操舵装置が設置されていた。
イ ティンバー スター
 ティンバー スター(以下「テ号」という。)は,1970年8月に竣工した船尾船橋型の鋼製貨物船で,操舵室中央に操舵スタンド,左舷側にレーダー2台,右舷側に主機遠隔操縦装置,デイライト型レーダー1台及びGPSプロッタが設置されていた。

3 事実の経過
 高隆丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,いか釣り漁の目的で,船首0.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,平成17年7月31日13時20分北海道江差港を発し,奥尻島南方沖合10海里ばかりの漁場に向かった。
 A受審人は,16時30分ごろ前示漁場に着いて操業を開始し,周囲に同業の漁船が多数操業していたので,緊張しながら操船に従事し,翌月1日02時20分ごろいか約1,500キログラムを漁獲して操業を終え,甲板上の後片づけをしたあと,02時30分鴎島灯台から276度(真方位,以下同じ。)22.3海里の地点で,針路を江差港に向く096度に定めて自動操舵とし,機関を回転数毎分1,400にかけ,9.3ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 ところで,A受審人は,通常,昼過ぎに出漁して翌日の早朝まで操業し,05時ごろ帰港して水揚げしたあと帰宅して休息をとる,日帰り操業を行っており,毎日の睡眠時間が5時間半ほどで,本件時は,前日が休漁日であったことから,特に睡眠不足や疲労が蓄積した状態ではなかった。
 発進後,A受審人は,左舷側のいすに腰掛けて操舵と見張りに当たり,03時ごろ食事をとるため操舵室の床の座椅子に移り,03時05分レーダーを監視しながら食事を終えたあと,操業中の緊張感から解放され,出航してから初めて休息がとれたこともあって気が緩み,眠気を催すようになったが,まさか居眠りすることはないと思い,立ち上がるなどして,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,床に座ったままでいるうち,いつしか居眠りに陥った。
 03時12分A受審人は,鴎島灯台から276度15.7海里の地点に至ったとき,右舷船首36度2.0海里にテ号の白,白,紅3灯を視認でき,その後その方位が変わらず,同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが,居眠りしていてこのことに気付かず,右転するなど同船の進路を避けずに続航した。
 高隆丸は,同じ針路,速力で進行中,03時20分鴎島灯台から276度14.5海里の地点において,その右舷船首がテ号の左舷船首部に後方から35度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,テ号は,B指定海難関係人ほかロシア人15人が乗り組み,セメントなど約1,515トンを載せ,船首4.9メートル船尾5.1メートルの喫水をもって,同年7月31日11時50分北海道室蘭港を発し,ロシア連邦サハリン州コルサコフ港に向かった。
 ところで,テ号の航海当直は,船長,B指定海難関係人及び三等航海士がそれぞれ担当し,各直に操舵手1人を付けた4時間交替の3直制としていた。
 B指定海難関係人は,翌月1日02時00分(船内時04時00分)日方泊岬灯台から292度7.2海里の地点で,三等航海士と交代して当直の操舵手と共に船橋当直に就き,針路を348度に定め,機関を回転数毎分180にかけて9.3ノットの速力とし,レーダー2台を作動させて手動操舵により進行した。
 03時12分B指定海難関係人は,鴎島灯台から271度14.1海里の地点に至ったとき,左舷船首36度2.0海里に高隆丸の白,緑2灯を視認でき,その後その方位が変わらず,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが,そのころ,右舷前方の作業灯を点灯した漂泊中の漁船を注視し,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,間近に接近しても機関を操作するなどして,衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 B指定海難関係人は,03時19分少し過ぎ高隆丸の灯火を初めて視認し,衝突の危険を感じ,操舵手に右舵一杯を命じ,機関を停止したが及ばず,テ号は,右転中,船首が061度を向いたとき,約7ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,高隆丸は,右舷側船首ブルワーク及びいか釣り機などを損傷したが,テ号は擦過痕のみで損傷がなかった。

(航法の適用)
 本件は,北海道江差港西方沖合において,江差港に向け東行中の高隆丸とコルサコフ港に向け北上中のテ号とが衝突したものであり,当該海域では,一般法の海上衝突予防法を適用することになる。
 高隆丸は,096度の針路及び9.3ノットの速力で進行し,テ号は,348度の針路及び9.3ノットの速力で進行し,互いに針路を横切る態勢で接近して衝突した。両船とも所定の灯火を掲げ,互いに灯火を視認できる状況で,両船とも周囲の状況などに特に問題がなかったことから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 高隆丸
(1)まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(2)テ号の進路を避けなかったこと

2 テ号
(1)進路の左右前方に明るい作業灯を点灯した漂泊中の漁船が存在したこと
(2)見張りを十分に行わなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,高隆丸が,居眠り運航の防止措置を十分にとって,居眠り運航に陥らなければ,テ号が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付き,同船の進路を避け,衝突を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,眠気を催した際,まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらず,テ号の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,テ号が,見張りを十分に行っていれば,高隆丸が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付き,警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとり,衝突を回避できたと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,見張りを十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 テ号の進路の左右前方に,明るい作業灯を点灯した漂泊中の漁船が存在したことで,それらの漁船に気をとられ,高隆丸を視認することが衝突間近になったことは事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,北海道江差港西方沖合において,両船が互いに針路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,高隆丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路を左方に横切るテ号の進路を避けなかったことによって発生したが,テ号が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,夜間,単独で船橋当直に当たり北海道江差港に向け東行中,操舵室の床に座って食事をとったあと,眠気を催した場合,操業中の緊張感から解放された状態で床で休息していると,居眠りに陥いるおそれがあったから,立ち上がるなどして,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし,同受審人は,まさか居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,操舵室の床に座ったままでいるうち居眠りに陥り,テ号の進路を避けることができずに進行して同船との衝突を招き,高隆丸の右舷側船首ブルワーク及びいか釣り機などに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,北海道江差港西方沖合を北上中,見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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