日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成18年函審第10号
件名

貨物船ベルグラノ貨物船ラッキーステラ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月15日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(堀川康基,井上卓,西山烝一)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:ベルグラノ水先人 水先免許:釧路水先区
補佐人
a

損害
ベルグラノ・・・左舷前部外板に凹損及び擦過傷
ラッキーステラ・・・左舷船船尾ボートデッキ部に曲損

原因
ベルグラノ・・・操縦性能の把握不十分,船員の常務(他船に著しく接近)不遵守

主文

 本件衝突は,ベルグラノが,操縦性能の把握が不十分で,錨泊中のラッキーステラに著しく接近したことによって発生したものである。
 受審人Aの釧路水先区水先の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月31日06時15分
 北海道釧路港
 (北緯42度58.1分 東経144度19.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ベルグラノ 貨物船ラッキーステラ
総トン数 40,040トン 5,415トン
全長 225.00メートル 97.77メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 9,229キロワット 3,236キロワット
(2)設備及び性能等
ア ベルグラノ
 ベルグラノ(以下「ベ号」という。)は,2003年11月に進水した船尾船橋型ばら積み鋼製貨物船で,船首端より船橋前面までの距離が,193メートルであった。
 旋回性能は,15.6ノットで航走中に最大舵角35度をとったとき,左旋回が,最大縦距610メートル,最大横距680メートルで,右旋回は,最大縦距615メートル,最大横距745メートルであった。
 当時,喫水は,とうもろこし20,550トン及び海水バラスト11,364トンを積載した状態で,船首6.48メートル船尾8.76メートルで,眼高は,約9.8メートルであった。船橋では2台のレーダー及びGPSが作動中であった。
イ ラッキーステラ
 ラッキーステラ(以下「ラ号」という。)は,2002年8月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,船首端より船橋前面までの距離が,約85メートルであった。
 当時,喫水は,肥料3,000トンを積載した状態で,船首5.32メートル船尾5.65メートルで,眼高は,約12メートルであった。船橋では2台あるレーダーのうち1台とGPSが作動中であった。

3 事実の経過
 ベ号は,フィリピン共和国国籍の船長Bほか同国人船員20人が乗り組み,平成17年7月25日18時50分茨城県鹿島港を発し,翌々27日01時40分北海道釧路港に入港し,開発局釧路港南外防波堤灯台(以下「南外防波堤灯台」という。)から236度(真方位,以下同じ。)1,500メートルの地点に投錨した。
 同月31日05時50分B船長は,霧により視界が制限された状況の下,ベ号を釧路港西区第2ふ頭南側岸壁11号に着岸させる目的で来船した,A受審人と補助者としてのC水先人を一緒に乗船させ,二等航海士を見張りに,三等航海士を機関操縦に,当直操舵手を操舵にそれぞれ当たらせる態勢をとり,揚錨を開始した。
 06時00分A受審人は,操舵スタンド右隣の0.5マイルレンジとして使用中の1号レーダーの後ろに立ち,他の1台のレーダーにC水先人が付き,船首を152度に向け抜錨したところで,所定の灯火を掲げ,霧中信号を吹鳴しながらきょう導を開始した。
 そのとき,A受審人は,レーダーで右舷船首82度650メートルばかりのところに錨泊しているラ号の映像を認め,同船をかわすこととしたが,昇橋したときB船長からパイロットカードの提示がなく,旋回性能表も船橋内に見受けられないまま,ベ号の喫水を確かめただけで,いったん後進をかけて船首を右方に振ったのち前進右回頭するので,ラ号とは左舷を対して無難に航過できると思い,B船長に旋回径や機関性能等を確かめるなど,操縦性能を十分に把握することなく,大きく後退してから前路に余裕を持った操船水域を確保しないまま,機関を微速力後進,左舵一杯を令した。
 06時03分A受審人は,南外防波堤灯台から246度1,530メートルの地点で,船首方位が159度とわずかに回頭し,ラ号の映像が右舷船首65度で本船船首から600メートルとなり,右回頭を始めるとラ号に著しく接近し衝突のおそれのある状況であったものの,いまだ,無難にかわると思いこのことに気付かず,機関を微速力前進,右舵一杯を令した。
 06時07分A受審人は,南外防波堤灯台から244度1,480メートルの地点で,船首が205度を向き後進行きあしが無くなり,前進右回頭を始めたとき,ラ号の映像が,右舷船首25度本船船首から520メートルとなり,右回頭を続けると依然として同船に著しく接近して衝突のおそれのある状況であったが,機関を半速力前進とし右回頭を続け,機関の回転が危険回転数の領域にあることを三等航海士から告げられたことから,舵を右舵一杯から同20度に戻して進行した。
 06時12分少し過ぎA受審人は,南外防波堤灯台から235度1,780メートルの地点に達したとき,速力が4.5ノット(対地速力,以下同じ。)となり,ラ号の映像が船首方280メートルに接近し,衝突の危険を感じ再度右舵一杯を令して続航した。
 B船長は,06時14分少し前南外防波堤灯台から234度1,980メートルの地点に達したとき,船首配置の乗組員からラ号に著しく接近しているとの報告を受け,自ら機関を停止したが,そのまま右回頭を続け,06時15分わずか前A受審人が,キックを利用して避けようと左舵一杯,機関を微速力前進に令したが効なく,06時15分南外防波堤灯台から240度2,170メートルの地点において,べ号は,3.0ノットの速力で,320度を向いたとき,その左舷前部とラ号の左舷船尾部とがほぼ平行に衝突した。
 当時,天候は霧で風力3の南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,視程は約150メートルであった。
 また,ラ号は,船長Dほか大韓民国人船員1人及びミャンマー人船員12人が乗り組み,同月29日18時30分北海道十勝港を発し,23時30分釧路港の前示衝突地点付近に到着して右舷錨を投じ,錨鎖を6節延出し,荷役待ちのため錨泊した。
 翌々31日04時00分一等航海士は,昇橋して当直を引き継ぎ,霧で視界が制限される状況であったから,錨泊船の灯火及び甲板上及び居住区の灯火を点灯し,船橋左舷側ウイングにある号鐘及び汽笛による霧中信号を行い,レーダー見張りにあたりながら単独の停泊当直に就いた。
 06時12分D船長は,自室のベッドで就寝中,一等航海士から,レーダー画面で接近してくる船舶があるので昇橋してほしい旨の報告を受け,直ちに昇橋し,06時12分半3マイルレンジとしていたレーダーを見たところ,140度を向いた自船の左舷船首62度240メートルのところに,衝突のおそれのある態勢で接近するベ号の映像を認めたので,汽笛により長音を吹鳴し,昼間信号灯を照射して注意喚起を行ったが,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ベ号は,左舷前部外板に凹損及び擦過傷を生じ,ラ号は,左舷船尾ボートデッキ部に曲損を生じたが,のち修理された。

(航法の適用)
 本件は,釧路港外港において,視程が約150メートルと制限された状況の中,揚錨して荷役岸壁へ向かうベ号と成規の灯火を掲げ霧中信号を行って錨泊中のラ号が衝突したもので,同港は港則法の適用港であるが,同法には本件に適用すべき航法の規定がなく,一般法である海上衝突予防法が適用されることとなる。
 しかしながら,海上衝突予防法には航行船と錨泊船に関係する航法規定がないことから,本件は,同法第38条及び第39条の船員の常務で律することとなる。

(本件発生に至る事由)
1 ベ号
(1)操縦性能を把握していなかったこと
(2)前路に余裕を持った操船水域を確保しなかったこと
(3)B船長が機関を停止したこと

2 その他
 衝突地点付近は霧で視界が制限された状況であったこと

(原因の考察)
 ベ号が,錨泊中のラ号に著しく接近することのないよう,操縦性能を把握していれば,前路に余裕を持った操船水域を確保してから回頭に入ることができ,衝突を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,船長に旋回径や機関性能等を確かめるなど,操縦性能を把握しないまま,前路に余裕を持った操船水域を確保せずに回頭に入ったことは,本件発生の原因となる。
 B船長が機関を停止したことは,この時点ではすでに著しく接近することが避けられない状況であったことから本件発生の原因とならない。
 他方,ラ号については,霧の中で錨泊していたもので,停泊当直者を配置し,成規の音響信号を吹鳴していたと認められることから,自船を避けないで接近する航行船に対する責務は果たしていたことになる。
 衝突地点付近が霧のため視界が制限された状態であったことは,本件発生に関与があったものの,原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,霧により視界が制限された状況の北海道釧路港において,揚錨して荷役岸壁に向かうベ号が,操縦性能の把握が不十分で,前路に余裕を持った操船水域を確保しないまま右回頭し,錨泊中のラ号に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,霧により視界が制限された状況の北海道釧路港において,ベ号を荷役岸壁へきょう導を開始するに際し,自船の右舷前方近くに錨泊中のラ号レーダー映像を認め,前進右回頭してかわそうとした場合,ラ号と著しく接近することのないよう,ベ号の旋回径や機関性能等を確かめるなど,操縦性能を十分に把握すべき注意義務があった。しかるに,同人は,いったん後退したのち前進右回頭するので,ラ号とは左舷を対して無難に航過できると思い,操縦性能を十分に把握しなかった職務上の過失により,前路に余裕を持った操船水域を確保しないまま右回頭を始め,錨泊中のラ号に著しく接近する態勢となって同船との衝突を招き,ベ号の左舷前部外板に凹損及び擦過傷を,ラ号の左舷船尾ボートデッキ部に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の釧路水先区水先の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:25KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION