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平成18年神審第17号
件名

水上オートバイ パピコ水上オートバイ ティー・ワイ衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年5月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

副理事官
天河 宏

受審人
A 職名:パピコ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
パピコ・・・船底に擦過傷
ティー・ワイ・・・右ハンドルグリップの破損と船首カバーに擦過傷,船長が頚椎捻挫,頭部と右手第三指に裂創

原因
パピコ・・・安全な船間距離を保たなかったこと

裁決主文

 本件衝突は,パピコが,ティー・ワイとの安全な船間距離を保たなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年10月30日14時40分
 京都府久美浜湾
 (北緯35度38.1分 東経134度55.6分)

2 船舶の要目
船種船名 水上オートバイ パピコ 水上オートバイ ティー・ワイ
総トン数 0.1トン  
登録長 1.97メートル 2.00メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 58キロワット 36キロワット

3 事実の経過
 パピコは,平成16年4月に第1回定期検査を受けた,操船者が立った姿勢で操船するタイプの1人乗りFRP製水上オートバイで,平成16年9月交付の小型船舶操縦免許証(二級・特殊・特定)を受有するA受審人が,単独で乗り組み,遊走の目的で,船首尾とも0.16メートルの喫水をもって,平成17年10月30日14時30分京都府久美浜湾東部に設定された,B遊び場(以下「遊び場」という。)と呼ばれる区画にある砂浜を発した。
 A受審人は,同日午前遊び場に遊走仲間と訪れ,午前中からティー・ワイなど仲間の水上オートバイ4隻と遊走と休憩を繰り返していたものであった。
 ところで,遊び場は,水上オートバイなどの販売,修理,保管を行う民間業者が久美浜湾東部の砂浜に,駐車場,更衣室,シャワーなどの施設を設置してその前面海域で水上オートバイを遊走させる区画であり,遊走区域は,北方の佐濃谷川河口の砂嘴先端より南側で,駐車場などの陸上施設より北側の海域で,概ね南北150メートル東西100メートルの長方形の周回コースを反時計回りに遊走することになっていたが,実際にはコースを示すブイなどが打たれていないので,このコースの遊走に慣れた操船者たちが,他船を追走する形で遊走を行っていた。
 A受審人は,砂浜を離れると,一緒に来ていた仲間の水上オートバイとともに,周回コースを反時計回りに遊走し始めた。
 そうして,コースを5,6周した後,息を整えるためコースを外れて減速していたA受審人は,14時39分52秒,神崎三角点から015度(真方位,以下同じ。)1,410メートルの地点で,ティー・ワイが自船の左舷側を高速で南下するのを認め,これを追走することとし,140度の針路として増速していった。
 14時39分55秒A受審人は,神崎三角点から015.5度1,400メートルの地点で,スロットルレバーを3分の1程度引いて,時速30キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)としたとき,正船首32メートルのところに左転を始めて減速し始めたティー・ワイを認め,自身は少し増速しながら左転し始めた。このとき,A受審人は,ハンドルを切るとバランスを崩して転倒しやすいというティー・ワイの特性を知っており,前方の同船が転倒したりすると,同船と衝突するおそれを予想できたが,接近していても急旋回すればかわせるものと思い,減速するなどして安全な船間距離を保たないまま追走した。
 14時39分58秒A受審人は,左転を終えて針路が090度となって,速力が時速37キロメートルとなったとき,自船の右舷船首20メートルのところで水しぶきが上がるのを見て,ティー・ワイが転倒したことを認め,衝突を回避するため急左転を試みたが,効なく14時40分神崎三角点から018.5度1,370メートルにおいて,020度に船首を向けて右舷側を上に転倒したティー・ワイの右舷船首部にパピコの右舷船首部が後方から50度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,海上は平穏であった。
 また,ティー・ワイは,平成7年6月に第1回定期検査を受けた,操船者と同乗者が座席に跨って操船するタイプの2人乗りFRP製水上オートバイで,平成4年8月に四級小型船舶操縦士免許を取得した船長Cが,単独で乗り組み,遊走の目的で,船首尾とも0.13メートルの喫水をもって,平成17年10月30日13時30分遊び場の砂浜を発し,久美浜湾から外海に出たが,波が高かったので久美浜湾に戻り,遊び場で周回することとした。
 14時39分52秒C船長は,神崎三角点から015.5度1,435メートルの地点に達したとき,コースを外れて減速していたパピコを右舷前方35メートルに見ながら自船の針路を180度,速力を時速75キロメートルとして南下し,14時39分55秒C船長は,同三角点から016度1,395メートルの地点に至って,左転と減速を始めた。
 14時39分58秒C船長は,左転中船首を波に突っ込んで波しぶきを上げながら,右舷側を上に横転したが,自身はハンドルから手を離さないまま船体から離れずにいたところ,14時40分前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,パピコは船底に擦過傷を,ティー・ワイは右ハンドルグリップの破損と船首カバーに擦過傷を生じ,C船長が4週間の加療を要する,頚椎捻挫,頭部と右手第三指に裂創を負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,京都府久美浜湾において,パピコがティー・ワイを追走して遊走する際,パピコが,左転中のティー・ワイとの安全な船間距離を保たなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,京都府久美浜湾において,仲間のティー・ワイを追走して遊走する場合,ハンドルを切るとバランスを崩して転倒しやすいというティー・ワイの特性を知っていたのであるから,ティー・ワイが転倒しても衝突することのないよう,減速するなど,ティー・ワイとの安全な船間距離を保つべき注意義務があった。しかしながら,同人は,追走中接近していても急旋回すればかわせるものと思い,安全な船間距離を保たなかった職務上の過失により,転倒したティー・ワイとの衝突を招き,パピコの船底に擦過傷,ティー・ワイの右ハンドルグリップなどに破損をそれぞれ生じさせ,C船長に頚椎捻挫などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


参考図
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