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平成17年横審第118号
件名

水上オートバイ セイショウ岸壁衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年5月12日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(米原健一)

理事官
岡田信雄

受審人
A 職名:セイショウ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部に亀裂,
同乗者が右大腿骨骨折及び打撲傷等

原因
キルスイッチコードの取扱い不適切

裁決主文

 本件岸壁衝突は,キルスイッチコードの取扱いが適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月7日11時47分
 千葉県名洗港
 (北緯35度42.1分 東経140度50.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイ セイショウ
登録長 2.70メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 77キロワット
(2)設備及び性能等
 セイショウは,平成8年5月に第1回定期検査を受けた,ウォータージェット推進装置を有する最大とう載人員3人のFRP製水上オートバイで,船体前部にステアリングハンドルを備え,同ハンドルの右側グリップ付け根の前方側にスロットルレバーが,左側グリップ付け根の前方側から後方側に順に,機関のストップボタン,キルスイッチ及びスターターボタンがそれぞれ取り付けられ,機関を始動するときには左手で左側グリップを握ったまま,その親指でスターターボタンを,機関を停止するときには同人差し指でストップボタンをそれぞれ押して操作し,右手で右側グリップ及びスロットルレバーを握り,同レバーをグリップ側に引き付けると増速することができるようになっていた。
 また,一端が差し込みプレートに,他端がリストバンドになっている長さ約50センチメートルのキルスイッチコードがあり,差し込みプレートをキルスイッチに差し込まなければ機関を始動することができず,同プレートを差し込み,リストバンドを操縦者の左手首などに取り付けて操縦すると,操縦者が落水をしたときなどの緊急時には差し込みプレートがキルスイッチから脱落して機関を強制的に停止することができ,水上オートバイを操縦する際にはキルスイッチコードの取扱いを適切に行うよう,B会発行の特殊小型船舶操縦士教本などに記載されていた。
 速力は,機関を全速力前進にかけると,毎時約50キロメートルであった。

3 事実の経過
 セイショウは,平成17年8月7日11時30分所有者によって千葉県銚子マリーナ南東方の砂浜に運ばれ,A受審人(平成6年7月小型船舶操縦士免許取得,のち二級小型船舶操縦士(5トン限定)及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)が単独で乗り組み,女児1人を同乗させ,同マリーナと同砂浜との間の海域で遊走を行う目的で,11時42分名洗港銚子マリーナ南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から131度(真方位,以下同じ。)1,060メートルの砂浜を発した。
 ところで,A受審人は,小型船舶操縦士免許を取得して以来,水上オートバイを操縦して遊走を楽しんでおり,セイショウの所有者が友人であったことから,同船をそれまで数回操縦した経験があったので,その操縦方法やキルスイッチコードの取扱方法などを十分に承知しており,当日は単独で5分ばかり遊走に興じたのち,同所有者の姪を同乗させて遊走することとした。
 砂浜を発するとき,A受審人は,キルスイッチコードの差し込みプレートをキルスイッチに差し込んだものの,リストバンドを左手首などに取り付けなかったので,落水すると同乗者を乗せたまま,セイショウが進行するおそれがあったが,低速力で遊走するので,まさか落水することはあるまいと思い,リストバンドを左手首に取り付けるなど,キルスイッチコードの取扱いを適切に行うことなく,機関を始動した。
 A受審人は,同乗者を前側の座席に座らせて両手でステアリングハンドルの中央部を持たせ,自らはその後方の座席に腰を掛けて両手で同ハンドルを握り,同乗者の体を両腕などで支えた姿勢で,毎時10キロメートルばかりの対地速力でしばらく遊走したあと,発進地点付近の波打ち際近くに戻り,11時46分少し過ぎ南防波堤灯台から126度990メートルの地点で,220度に向首し,船体を砂浜と平行にして機関を停止したところ,折から生じた波により船体が大きく横揺れしてバランスを崩し,キルスイッチコードの差し込みプレートがキルスイッチに差し込まれて機関が再始動できる状態のまま,右舷側から落水した。
 セイショウは,A受審人が落水したはずみで右旋回するとともに,同乗者が船体の横揺れと同受審人の落水に驚いて思わずステアリングハンドルにしがみ付いたところ,スタートボタンが押されて機関が再始動されたうえ,スロットルレバーをグリップ側に引き付ける状況となり,322度に向首し,増速しながら銚子マリーナ南側の岸壁に向けて進行し,11時47分南防波堤灯台から120度680メートルの地点で,原針路のまま,その船首が,同岸壁に,ほぼ直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の南南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 衝突の結果,船首部に亀裂を生じた。また,同乗者が,右大腿骨骨折及び打撲傷等を負った。

(海難の原因)
 本件岸壁衝突は,千葉県銚子マリーナ南側の海域において,遊走を行う際,キルスイッチコードの取扱いが不適切で,操縦者が落水したまま,同マリーナ南側の岸壁に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,千葉県銚子マリーナ南側の海域において,遊走を行う場合,リストバンドを左手首に取り付けるなど,キルスイッチコードの取扱いを適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,低速力で遊走するので,まさか落水することはあるまいと思い,キルスイッチコードの取扱いを適切に行わなかった職務上の過失により,船体の横揺れで落水し,セイショウが同乗者を乗せたまま,同マリーナ南側の岸壁に向け進行して衝突を招き,船首部に亀裂を生じさせ,同乗者に右大腿骨骨折及び打撲傷等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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