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平成17年函審第50号
件名

漁船第三十八白運丸貨物船チゴリ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年5月18日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(西山烝一,堀川康基,野村昌志)

理事官
喜多 保

指定海難関係人
A 職名:チゴリ一等航海士

損害
第三十八白運丸・・・両舷後部外板に破口を生じて転覆し,のち解体,船長が行方不明(のち,死亡と認定)
チゴリ・・・球状船首にペイント剥離

原因
チゴリ・・・居眠り運航防止措置,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第三十八白運丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,チゴリが,居眠り運航の防止措置が不十分で,漂泊中の第三十八白運丸を避けなかったことによって発生したが,第三十八白運丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 指定海難関係人Aに対して勧告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月7日05時36分
 北海道礼文島北東方沖合
 (北緯45度31.2分 東経141度09.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十八白運丸 貨物船チゴリ
総トン数 5.9トン 203トン
登録長 12.69メートル 30.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   595キロワット
漁船法馬力数 90  
(2)設備及び性能等
ア 第三十八白運丸
 第三十八白運丸(以下「白運丸」という。)は,平成2年に進水したFRP製漁船で,ほぼ船体中央部に操舵室を有し,同室に磁気コンパス,レーダー,GPSプロッター及び魚群探知機を各1台備え,船首部右舷側に揚網機が設置されていた。
イ チゴリ
 チゴリ(以下「チ号」という。)は,1981年に進水した,主としてロシア連邦サハリン州コルサコフ港と稚内港間の漁獲物運搬に従事する鋼製貨物船で,ほぼ船体中央部に船橋を有し,その操舵室前部中央に操舵装置,右舷側にレーダー2台,GPSプロッター1台,機関遠隔操縦装置が備えられていた。

3 関係人の経歴等
 A指定海難関係人
 A指定海難関係人は,2002年5月貨物船の甲板員として乗船し,2003年8月ロシア連邦の航海士免状を取得したのち,同年9月から貨物船及び漁船の航海士の職務に従事し,2005年5月にチ号の一等航海士として乗船していた。

4 事実の経過
 白運丸は,B船長が1人で乗り組み,ほっけ刺網漁の目的で,船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成17年7月7日03時20分北海道東上泊漁港を発し,同漁港北東方沖合6海里ばかりの漁場に向かった。
 B船長は,03時45分ごろ前示漁場に着き,魚群探索を行ったあと投網を開始して04時45分ごろ投網を終え,その後,機関を中立運転として漂泊しながら操舵室内で休息した。
 05時32分B船長は,金田ノ岬灯台から055度(真方位,以下同じ。)6.1海里の地点で,船首が180度を向いて漂泊していたとき,左舷船首83度1,030メートルのところにチ号が存在し,その後衝突のおそれのある態勢で接近したが,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらなかった。
 白運丸は,漂泊中,05時36分金田ノ岬灯台から055度6.1海里の地点において,船首が180度を向いていたとき,その左舷後部にチ号の船首が前方から83度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,チ号は,A指定海難関係人ほかロシア人15人が乗り組み,空倉のまま,船首0.5メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,同日02時05分北海道稚内港を発し,大韓民国釜山港に向かった。
 A指定海難関係人は,稚内港北副防波堤東端を左舷正横方に航過して間もなく,02時25分ごろ船長と交替して単独の船橋当直に就き,02時45分稚内灯台から064度2.9海里の地点に達したとき,針路を277度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,8.3ノットの対地速力で進行した。
 ところで,A指定海難関係人は,前日6日07時稚内港に着岸してかにの荷揚げ開始後,17時ごろまで荷役に立ち会ったあと,引き続き22時まで停泊当直に就き,その後乗組員と一緒に稚内市内のバーに行き,翌7日02時ごろ帰船し,間もなく出港して船橋当直に就いたもので,睡眠不足の状態であった。
 A指定海難関係人は,右舷側のいすに腰掛けて当直に当たっていたところ,04時25分ごろ睡眠不足から眠気を催すようになったが,船長に報告して船橋当直を要請するなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,コーヒーを飲むなどして当直を続けているうち,いつしか居眠りに陥った。
 05時32分A指定海難関係人は,金田ノ岬灯台から059度6.6海里の地点に至ったとき,正船首1,030メートルのところに白運丸を視認でき,その後,衝突のおそれのある態勢で接近したが,居眠りしていてこのことに気付かず,同船を避けないまま続航し,チ号は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 A指定海難関係人は,衝突の衝撃で目を覚まし,自船の近くに白運丸が転覆しているのを認め,同船の付近を周回して様子を見たが,船長に報告しないまま,しばらくして航行を再開した。
 衝突の結果,白運丸は,両舷後部外板に破口を生じて転覆し,のち解体処分され,チ号は,球状船首にペイント剥離を生じた。また,B船長は行方不明となり,のち死亡と認定された。

(航法の適用)
 本件衝突は,北海道礼文島北東方沖合において,漂泊中の白運丸と西行中のチ号とが衝突したものであり,発生海域により一般法の海上衝突予防法が適用されることになる。しかしながら,同法には航行船と漂泊船との関係について規定した条文がないので,同法第38条及び第39条により律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 白運丸
 衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 チ号
(1)A指定海難関係人が睡眠不足であったこと
(2)居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(3)漂泊中の白運丸を避けなかったこと

(原因の考察)
 白運丸は,刺網が海中に全部残されていたことから,揚網前の漂泊中であり,当時,事実認定の根拠で示したとおり,操舵室内で休息していたと推認できるので,衝突前に何らかの措置がとられなかったと認められる。
 したがって,白運丸が,機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,A指定海難関係人が,睡眠不足の状態であったことが認められるが,居眠り運航の防止措置をとっていれば,居眠りに陥ることがなく,漂泊中の白運丸を認識して衝突を避けることができたと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,眠気を催した際,船長に報告して船橋当直を要請するなど,居眠り運航の防止措置をとらず,漂泊中の白運丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,北海道礼文島北東方沖合において,西行中のチ号が,居眠り運航の防止措置が不十分で,前路で漂泊中の白運丸を避けなかったことによって発生したが,白運丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,北海道礼文島北東方沖合を西行中,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置を分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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