日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成18年門審第19号
件名

押船第二十八みつ丸被押台船350光海号モーターボート冨丸衝突事件
第二審請求者〔補佐人a,b〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年4月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,織戸孝治,片山哲三)

理事官
勝又三郎

受審人
A 職名:第二十八みつ丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a,b

損害
350光海号・・・右舷船首部から左舷船尾部に至る船底外板に擦過傷
冨丸・・・両舷中央部に損傷,マスト灯支柱に曲損,船長及び同乗者が溺水により死亡

原因
みつ丸押船列・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
冨丸・・・見張り不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第二十八みつ丸被押台船350光海号が,見張り不十分で,錨泊中の冨丸を避けなかったことによって発生したが,冨丸が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月19日07時05分
 大分県別府港
 (北緯33度17.8分 東経131度30.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第二十八みつ丸 台船350光海号
総トン数 19トン  
全長 13.45メートル 58.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,206キロワット  
船種船名 モーターボート冨丸  
登録長 4.14メートル  
機関の種類 電気点火機関  
出力 7キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第二十八みつ丸
 第二十八みつ丸(以下「みつ丸」という。)は,平成13年6月に進水し,沿海区域を航行区域とする最大搭載人員2人の全通一層甲板型鋼製押船兼引船で,船体中央部の甲板下に機関室,同室上部甲板上に構築された高さ約10メートルの櫓の上に操舵室が設けられ,同室内前方には,右舷側から主機遠隔操縦装置,ジャイロコンパス,操舵スタンド,レーダー及びGPSがそれぞれ設置されていた。
 また,船体両舷の前後部に油圧で駆動するパネルジョイント型式の連結装置があり,主に350光海号と結合して運航されていた。
イ 350光海号
 350光海号(以下「光海号」という。)は,非自航型鋼製台船で,甲板下にサイドスラスタ室,甲板上の船首に旋回式クレーン(以下「クレーン」という。),中央に積荷区画及び船尾に2層の居住区が設けられ,船尾中央の押船結合用凹部にみつ丸の船体を約11メートル嵌入して全長60メートルの押船列(以下「みつ丸押船列」という。)とし,別府湾周辺の諸港において港湾建設工事及び工事原材料等の運搬に使用されていた。
ウ 冨丸
 冨丸は,昭和50年5月に第1回定期検査が執行され,平水区域を航行区域とする総トン数5トン未満,最大搭載人員船員1人旅客2人の一層甲板型FRP製モーターボートで,甲板上に死角を生じるような構造物はなく,船尾中央に船外機1個が取り付けられていた。

3 事実の経過
 みつ丸は,A受審人が1人で乗り組み,消波ブロックの据付工事を行う目的で,船首1.1メートル船尾2.3メートルの喫水をもって,船首1.6メートル船尾2.0メートルの喫水となった光海号に作業員3人を乗り組ませ,消波ブロック56個224トンを甲板上に積載し,みつ丸押船列を構成して,平成17年9月19日06時45分別府港別府国際観光泊地(以下「観光泊地」という。)を発し,同泊地南南東方約2.5海里の大分市高崎山下海岸の護岸建設現場(以下「建設現場」という。)に向かった。
 発航にあたって,A受審人は,目的地までの距離が短く,平水区域のみを航行することから,クレーンのブームを正船尾方向に向けて仰角約60度としていたところ,同人の眼高が海面から10.2メートルで,操舵位置から船首方39.2メートル隔てた光海号船首部に,海面からの高さ10.7メートル及び幅9.4メートルのクレーンの操縦席を含む旋回体(以下「クレーンハウス」という。)が設置されていて,正船首方の両舷に各6度の範囲で死角を生じており,光海号船首部に作業員を配して死角を補う見張りを行わせ前方の状況について携帯無線機を使用して連絡を取ることにしていたので,いつものように作業員が見張りをするものと思い,作業員に見張りを十分に行うよう徹底していなかった。
 ところで,観光泊地は,別府港の港域内に位置し,同泊地の東側には陸岸から約300メートル沖合に全長約1,000メートルの沖防波堤が南北方向に設置されており,船舶は同防波堤の北端もしくは南端を替わして入出港していた。
 沖防波堤は,北端に設置された別府観光港沖防波堤北灯台(以下「別府観光港」を冠する灯台名については冠称を省略する。)から179度(真方位,以下同じ。)の方向に700メートルばかり伸びたところで158度の方向に屈曲し更に約300メートル伸びていた。また,沖防波堤の南端から約100メートルの同防波堤上には沖防波堤南灯台が設置されていた。
 観光泊地の南側には,陸岸から北東方へ約250メートルにわたって伸びる第1ふ頭に接続して東防波堤が北北東方へ約140メートルにわたって伸び,同防波堤の先端には東防波堤灯台が設置されており,同灯台と沖防波堤南灯台で挟まれる同泊地の南側開口部(以下「泊地南側開口部」という。)の最狭部の幅は約170メートルであった。
 観光泊地内には,北側から第3ふ頭,第2ふ頭及び第1ふ頭があり,第2ふ頭は第1ふ頭の北側約200メートルの陸岸から北北東方へ約150メートル伸びており,全長約100メートルのフェリーが1日10便離着岸し,泊地南側開口部から入出港していた。また,第3ふ頭には,全長約150メートルのフェリーが1日2便離着岸し,同泊地の北側から入港し南側へ出港していた。
 平成17年9月19日早朝,第1ふ頭には,東寄りに押船列C号が,その西側に押船列D号がそれぞれ出船右舷付けで係留し,C押船列の左舷にみつ丸押船列が入船左舷付けで,D押船列の左舷にみつ丸押船列とほぼ同規模の押船列E号が出船右舷付けでそれぞれ横付けされていた。そして,E押船列は,みつ丸押船列が発航する約5分前に同じ建設現場に向けて発航していた。
 A受審人は,発航後,機関を後進にかけ,船首をわずかに左方に振りながら泊地中央部に向けて後進し,東防波堤の先端に並ぶころに機関を停止したのち,沖防波堤の屈曲部を操船目標とし,サイドスラスタを使用して更に船首を左方に振りながら第2ふ頭の北東端と沖防波堤の屈曲部とを結ぶ線まで惰力で後進を続けたが,後進中は進行方向である船尾方に注意を向けて操船していたので,泊地南側開口部付近の状況を確認していなかった。
 06時55分A受審人は,東防波堤灯台から012度170メートルの地点に達したとき,船首を泊地南側開口部の中央に向け,針路を沖防波堤と平行になる158度に定め,機関を回転数毎分500の前進にかけ,速力を徐々に上げながら,手動操舵により進行した。
 07時03分A受審人は,東防波堤灯台から136度260メートルの地点に達し,対地速力が3.0ノットの定速力になったとき,正船首方210メートルのところの冨丸が錨泊中であることを示す形象物を表示していなかったものの,その後,その方位がほとんど変わらないことや船外に伸びたロープ及び船体の動揺の様子から,錨泊状態であることが分かり,衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,船首部の作業員が同船を見落とし,何らの連絡もなく,同船の存在に気付かず,同船を避けないまま続航中,07時05分東防波堤灯台から146度460メートルの地点で,みつ丸押船列は,原針路,原速力のまま光海号の右舷船首と冨丸の左舷中央部とがほぼ直角に衝突した。
 当時,天候は晴で,風力1の南南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
 また,冨丸は,平成3年9月に二級小型船舶操縦士及び特殊小型船舶操縦士の操縦免許を取得した船長Bが1人で乗り組み,同乗者1人を乗せ,釣りの目的で,9月19日05時00分ごろ観光泊地第3ふ頭北側に隣接する上人ヶ浜の船溜まりを発し,沖防波堤南灯台付近の釣り場に向かった。
 05時10分ごろB船長は,前示衝突地点付近の釣り場に着き,錨泊中であることを示す形象物を表示しないで,錨を入れて釣りを始め,07時03分前示衝突地点において,船首を068度に向けていたとき,みつ丸押船列が左舷正横210メートルのところに存在し,その後,衝突のおそれがある態勢で接近したが,釣りに熱中していて周囲の見張りを十分に行わず,同押船列に気付かず,注意喚起信号を行うことなく,衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続け,前示のとおり衝突した。
 衝突後,冨丸は光海号の右舷船首部から船底下に潜り込み船底外板を擦りながら左舷船尾方に移動し,同船の左舷船尾端で格納状態にあった左舷錨の爪が冨丸の右舷中央部の船縁に掛かったかして,みつ丸押船列に引きずられる状態となった。
 07時30分冨丸と衝突したことに気付かないまま続航したA受審人は,建設現場に到着し,船尾両舷の錨を投入して船固めの作業を行っていたところ,作業員からの報告で左舷後方20メートルばかりに冨丸が転覆した状態で浮いていることを知ったが,観光泊地を発してから同現場到着までの間に同船を見かけなかったことから衝突したことに依然気付かず,消波ブロックの据付作業を続けていたところ,目撃者からの通報により捜索中の巡視船が冨丸を発見して同船を撤収した。その後,光海号は入渠して海上保安官による船底調査が行われ,同船の船底に付着していた塗料が冨丸の塗料と一致するとの鑑定結果が示され,A受審人は衝突の事実を知った。
 衝突の結果,光海号は船底外板に擦過傷を,冨丸は両舷中央部の損傷と,マスト灯支柱に曲損をそれぞれ生じ,B船長及び同乗者Cが海中に転落し,溺水により死亡した。

(航法の適用)
 本件は,観光泊地南側海面において,泊地南側開口部から出航して南南東進中のみつ丸押船列と,錨泊していることを示す形象物を表示しないで錨泊中の冨丸とが衝突したものであり,別府港内で発生していることから特別法である港則法の定めが一般法である海上衝突予防法に優先するので,港則法の適用について検討する。
港則法第11条で,「港内における船舶の停泊及び停留を禁止する場所又は停泊の方法について必要な事項は,国土交通省令でこれを定める。」,同法施行規則第6条で,「船舶は,港内においては,次に掲げる場所にみだりに錨泊又は停留してはならない。(1)ふとう,さん橋,岸壁,けい船浮標及びドックの附近(2)河川,運河その他狭い水路及び船だまりの入口附近」と規定している。
 そこで,冨丸の錨泊地点が,船だまりの入口付近にあたるかどうかについて検討する。
 港則法施行規則第6条には,みだりに錨泊又は停留してはならない場所として,船だまりの入口付近が挙げられているが,みだりに錨泊してはならない場所とは,錨泊することによって同入口の船舶交通に支障が生じる場所と解される。冨丸は泊地南側開口部から外側へ約350メートル離れたところに錨泊していたものであり,みつ丸押船列が出航する約5分前に,同じ作業現場に向かうほぼ同規模のE押船列が冨丸を無難に替わして出航していること,及びみつ丸押船列が沖防波堤の南端に並航してから同船に衝突するまで約3分の時間があったことから,冨丸の錨泊地点が同押船列の交通に支障を生じさせる場所ではなかった。
 したがって,冨丸が,みつ丸押船列を妨げるような錨泊を行っていたとは認められず,本件に港則法第11条を適用する余地はない。
 港則法には錨泊中の船舶と航行中の船舶との間に関する航法規定はなく,海上衝突予防法の適用によるところとなるが,同法にも同様の航法規定はない。よって,同法38条及び39条の船員の常務で律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 みつ丸押船列
(1)死角を生じていたこと
(2)いつものように作業員が見張りをするものと思い,作業員に見張りを十分に行うよう徹底しなかったこと
(3)船首部の作業員が冨丸を見落とし,何らの連絡もなく,A受審人が冨丸の存在に気付かなかったこと
(4)冨丸を避けなかったこと

2 冨丸
(1)錨泊中であることを示す形象物を表示していなかったこと
(2)周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(3)注意喚起信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,みつ丸押船列が,見張りを十分に行っていたなら,冨丸が錨泊中であることが分かり,同船を避けることにより,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,いつものように作業員が見張りをするものと思い,作業員に見張りを十分に行うよう徹底せず,船首部の作業員が冨丸を見落とし,何らの連絡もなく,同船の存在に気付かず,冨丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 みつ丸押船列の船首方に死角が生じていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 冨丸が,周囲の見張りを十分に行っていれば,衝突のおそれがある態勢で接近するみつ丸押船列に気付き,注意喚起信号を行い,衝突を避けるための措置をとることにより,衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B船長が,見張りを十分に行わず,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 冨丸が,錨泊中であることを示す形象物を表示していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(主張に対する判断)
 みつ丸押船列側補佐人は,「本件衝突は,冨丸が,船舶交通の妨げとなる虞(おそれ)のある港内の場所である別府国際観光泊地の南側出口付近においてみだりに停泊したばかりか(港則法第9条違反),みだりに漁ろうをしていた(港則法第35条違反)のであるから,同出口を出航してくるみつ丸押船列の交通の妨げにならないように速やかに移動すべきところ見張り不十分で,この措置をとらなかったことによって発生した。」旨を主張するので,以下この点について検討する。
 港則法第3条第1項に規定される雑種船は,主として港内をその活動範囲とし,又は給油船等,港内の航洋船に対する諸用途に使用され,あるいは専ら港内の交通などに供される小型の船舶と解されている。
 みつ丸押船列は,沿海区域を航行区域とし,当時,別府湾周辺の諸港において使用され,雑種船の定義において示されている汽艇の範疇(はんちゅう)に入らないことから,雑種船とは認められない。一方,冨丸は,総トン数5トン未満,登録長4.14メートルで,その活動範囲が専ら別府港内に限られていたことから,雑種船と解するのが相当である。
 港則法は,港内における船舶交通の安全を確保し,港内の整頓をはかるために,同法第9条において特に「雑種船は,港内においては,他の船舶の交通の妨となる虞のある場所に停泊させ,若しくは停留させてはならない」との規定を設けている。
 しかしながら,港内において,他の船舶の交通の妨げとなる虞のある場所というのは,単に航路筋,泊地等といった場所的な要素だけでなく,当該場所の当該時刻における船舶の通航,停泊船の状況等時間的な要素も考慮に入れて具体的,かつ,個別的に判断して決まるものである。
 したがって,冨丸の錨泊地点が,船舶交通の妨げとなるおそれがあるかどうかということは,そのときの個々の状況に即して判断されるべきものである。
 冨丸の錨泊地点は,泊地南側開口部の中央部から沖防波堤と平行に出港する針路線の延長線上で同防波堤先端から350メートルの地点であるが,本件当時,みつ丸押船列が出航する約5分前に,同じ作業現場に向かうために出航したE押船列が冨丸を無難に替わしていることなどから,同船が船舶交通の妨げとなる状況にはなかったと認められ港則法第9条に違反していたとは言えない。
 港則法第35条において,「船舶交通の妨げとなる虞のある港内の場所においては,みだりに漁ろうをしてはならない」との規定を設けている。本件当時,冨丸が釣りをしていた事実はあるものの,前示のとおり同船が船舶交通の妨げとなる状況にはなかったと認められることから港則法第35条に違反していたとは言えない。
 したがって,補佐人の,冨丸が港則法第9条及び同第35条に違反していたとする主張は採用できない。

(海難の原因)
 本件衝突は,大分県別府港において,みつ丸押船列が,見張り不十分で,錨泊中の冨丸を避けなかったことによって発生したが,冨丸が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,大分県別府港において,観光泊地の南南東方の建設現場に向かう場合,船首方に生じていた死角を補う必要があったから,作業員に見張りを十分に行うよう徹底すべき注意義務があった。しかるに,同人は,いつものように作業員が見張りをするものと思い,作業員に見張りを十分に行うよう徹底しなかった職務上の過失により,船首部の作業員が冨丸を見落とし,何らの連絡もなく,同船の存在に気付かず,錨泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き,光海号の右舷船首部から左舷船尾方に至る船底外板に擦過傷を,冨丸の左舷中央部及び右舷中央部に損傷,マスト灯支柱に曲損をそれぞれ生じさせ,B船長及びC同乗者を溺水により死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:29KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION