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平成17年仙審第49号
件名

漁船II金吾丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成18年1月26日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(半間俊士,原 清澄,大山繁樹)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:II金吾丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船外機濡損
同乗者溺死

原因
海象に対する判断が不適切

主文

 本件遭難は,海象に対する判断が不適切で,うねりによる高波が存在する海域に出漁することを中止しなかったことによって発生したものである。
 なお,同乗者が死亡したのは,救命胴衣を着用しなかったことによるものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月24日08時30分
 新潟県村上市柏尾海岸西方沖合
 (北緯38度17.3分 東経139度27.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船II金吾丸
総トン数 0.2トン
登録長 4.32メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 30
(2)設備及び性能等
 II金吾丸(以下「金吾丸」という。)は,昭和58年8月に進水し,船尾に船外機を装備した和船型の木製漁船で,船外機用燃料タンク,錨索及びストックアンカーを搭載し,平素刺網漁に使用していたことから同漁を行うときには,刺網やブイなど同網付属の用具を積み,4から6ノットの速力で,海岸から1キロメートルばかり沖合の漁場を往復していた。
(3)係留地
 金吾丸の係留地は,新潟県村上市大字吉浦字フシヤタカの172.7メートル頂所在の吉浦三角点(以下「基点」という。)から212度(真方位,以下同じ。)1,670メートルの地点である,同市柏尾海岸の周囲を消波ブロックで囲まれた船だまりであった。

3 発生海域の海象
 平成16年10月23日は,千島近海の低気圧や寒気の影響で北陸の一部や北海道の一部で雨や雪が降り,北海道の一部で暴風となった状況下,同日16時17分新潟地方気象台から,新潟県下越岩船地域に対し,23日の夕方が最盛時で,その波高が2.5メートルである旨の波浪注意報が発表され,同注意報は翌24日04時52分に解除されたものの,本件発生時,付近海域には波高約2メートルの波浪が残っていた。

4 事実の経過
 金吾丸は,A受審人が1人で乗り組み,同乗者Bを乗せ,船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって,さけの刺網漁の目的で,両人とも救命胴衣を着用しないまま,平成16年10月24日07時30分新潟県村上市の係留地を発し,沖合の漁場に向かった。
 これより先,A受審人は,発航前の06時ごろ,さけの刺網漁を行う予定で,浜に出て沖を見ると波が高かったので,出漁することを中止したところ,その後,C市議会の議長を務め,また,D組合に所属してA受審人と同様,さけなどの刺網漁を行っている友人のB同乗者に出漁を誘われたことから,2人とも金吾丸に乗船して出漁することにし,再び浜に向かった。
 こうして,A受審人は,金吾丸の係留地に着いて沖を見たところ,依然波が高く,このような海域に出ると不測の事態が起こるおそれがあったが,せっかくの日曜日でこの機会を逃せばしばらく出漁できないと思い,出漁することを中止することなく,金吾丸に同乗者及び自身の刺網を載せて係留地を発することとした。
 発進後,A受審人は,海岸とほぼ直角に50メートルばかり沖出ししたのち,波の様子を見ながら刺網を入れる場所を探し,係留地の南南西方900メートルばかり沖合の漁場に至り,07時40分基点から212度2,400メートルの地点で南東方にB同乗者の刺網を入れ,08時00分基点から213度2,490メートルの地点で同同乗者の刺網に平行に自身の刺網を入れた。
 08時20分A受審人は,刺網を入れ終えて帰途につき,これらの網を右舷に見て替わしたあと,08時25分基点から214度2,580メートルの地点で針路を034度に定め,3.9ノットの対地速力で進行し,同時28分基点から214度2,150メートル地点に達し,えびす岩と通称される基点から217度2,090メートルのところに存在する干出岩(以下「えびす岩」という。)を左舷船首30度130メートルに見たとき,同岩周辺で盛り上がる波を見計らって係留地に向くよう針路を045度に転じて続航した。
 A受審人は,同じ針路,速力で進行中,08時30分基点から213度1,970メートルの地点において,左舷後方からのひときわ高い波に船体もろとも覆われて船体は傾斜し,横転しなかったものの一瞬のうちに同乗者とともに右舷側の海中に投げ出された。
 当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,顕著な潮候はなく,西寄りの高さ約2メートルのうねりがあった。
 その後,金吾丸は,波に覆われたときに左舵一杯となったものか,その場で回頭していたので,A受審人が泳ぎ着いてB同乗者に向けて接近を試みたが,流出したロープにプロペラが絡んで機関が停止し,操縦不能となった。
 この結果,金吾丸はほぼ水船となった状態で係留地の南方250メートルばかりの海岸に漂着し,打ち寄せる波で横転したことにより,船外機が海水を被って修理不能となった。また,A受審人は泳いで同乗者に接近しようとしたものの,高いうねりで同人を見失い,その後,自力で海岸に向けて泳ぎ,09時ごろ金吾丸の漂着地点付近に泳ぎ着き,B同乗者は11時ごろ溺水遺体となってほぼ同じ場所に漂着した。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が波が2メートルばかりであることを知り,一旦出漁を止めようとしたが,誘われて休日しか出漁できないことから,出漁を中止しなかったこと
2 出漁した2人とも救命胴衣を着用していなかったこと

(原因の考察)
 本件は,A受審人が沖合の波の状況を見て一旦出漁することを止めたものの,その後友人に誘われたことから,休日にしか出漁できないこともあって,無理してうねりによる高波が存在する海域に出漁したことによって発生したものである。
 したがって,A受審人が出漁を中止しなかったことは,本件発生の原因となる。
 金吾丸及び同乗者の遺体が本件発生後それぞれ1時間半後及び2時間半後にほぼ同じ場所に漂着しており,救命胴衣を着用して呼吸を維持できる状態を保っていれば助かったものと認められることから,同乗者が救命胴衣を着用していなかったことは同人死亡の原因となる。

(海難の原因)
 本件遭難は,新潟県村上市柏尾海岸において,海象に対する判断が不適切で,同海岸西方沖合のうねりによる高波が存在する海域に出漁することを中止しなかったことによって発生したものである。
 なお,同乗者が死亡したのは,救命胴衣を着用しなかったことによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,新潟県村上市柏尾海岸において,うねりによる高波が存在する海域に出漁する場合,小型の船体で高波が存在する海域を航行すれば不測の事態を招くおそれがあったから,同事態を回避することができるよう,出漁を中止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,せっかくの日曜日でこの機会を逃せばしばらく出漁できないと思い,出漁を中止しなかった職務上の過失により,大波に遭遇して自らと同乗者が海中に投げ出される事態を招き,同乗者を溺死させ,船外機に濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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