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平成17年長審第62号
件名

モーターボート松生丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年3月28日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦,山本哲也,藤江哲三)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:松生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底に破口,機関に濡損等,のち廃船処理

原因
水路調査不十分

  本件について,当海難審判庁は,海難審判庁理事官清水正男出席のうえ審理し,次のとおり裁決する。
主文

 本件乗揚は,水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月19日11時00分
 熊本県牧島西岸
 (北緯32度21.4分 東経130度17.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボート松生丸
登録長 8.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 33キロワット
(2)設備及び性能等
 松生丸は,平成14年7月にA受審人が中古で購入した,最大搭載人員10人のFRP製モーターボートで,船体中央やや後部寄りに船室が,その船尾側に後方が開放された操舵室がそれぞれ設けられ,同室左舷側に舵輪があってその後方に立って操舵するようになっており,操舵位置からの見通しは良好であった。
 操舵室には,マグネットコンパス,魚群探知機などが装備されていたが,レーダーは装備されていなかった。

3 事実の経過
 松生丸は,A受審人が1人で乗り組み,友人2人を乗せ,釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,平成16年9月19日05時00分熊本県大矢野島登立の係留地を発し,同県萩島北方の釣り場に向かった。
 発航後,A受審人は,熊本県三角港港内から大戸ノ瀬戸を経由して同県天草上島東岸に沿って南下し,07時ごろ釣り場に到着し,萩島北部西岸に沿って設置された養殖いけす棚の北側の空きいけすに係留してしばらく釣りを楽しんだのち,10時50分ごろタイを7匹釣ったところで釣りを中断し,次に予定していた同県眉ケ島付近の釣り場に向け,同県牧島西岸に沿って南下することとした。
 ところで,牧島西岸招ケ埼の南方約100メートルの海域には,陸岸から西方に幅約150メートル長さ約200メートルの範囲にわたって洗岩及び浅所が張り出し,平成7年同浅所域内に御所浦港本郷北防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から296度(真方位,以下同じ。)3,800メートルの地点に当たる洗岩付近から沖側に長さ85メートルの消波堤が,一方陸岸に向かって同消波堤から約50メートル隔てて長さ56メートルの消波堤とその延長線上に防波堤がそれぞれ築造されており,備え付けの海図は古く,両消波堤及び防波堤の記載はなかったものの同海域が危険界線で示されていた。
 A受審人は,これまで牧島西方海域の航行経験はあまり無く,過去に2度ほど同海域を航行したときには,招ケ埼南方の浅所の北側に設置された養殖いけすを避けてその沖側を何事もなく航行していたことから,備え付けの海図に当たって付近の水路調査を十分に行っていなかったので,同浅所域の存在を知らなかった。
 また,当時,沖側の消波堤は,捨石式で築造されていたこともあって10日ほど前に折から接近した台風の影響を受け,高潮時には海面下に没する状況となっていた。
 釣り場を移動することとしたA受審人は,過去の航行経験から牧島西岸に沿って航行すれば大丈夫と思い,備え付けの海図を参照して危険界線で示された浅所域の存在や位置を確かめるなど,水路調査を十分に行うことなく,10時52分防波堤灯台から326度4,600メートルの地点に当たる係留地点を発進して眉ケ島付近の釣り場に向かった。
 発進後,A受審人は,舵輪後方に立って手動操舵に当たり,養殖いけす棚の北端を替わしたのち,10時52分半防波堤灯台から324.5度4,550メートルの地点に達したとき,海岸から約250メートル離して萩島及び牧島西岸に沿うよう,針路を207度に定め,機関を回転数毎分2,000の全速力前進にかけ,10.0ノットの速力で進行した。
 10時59分A受審人は,防波堤灯台から299度4,100メートルの地点に達し,針路を熊本県竹島と牧島グミノキ埼の中間に向く160度に転じたところ,牧島西岸から延出した浅所域に向首するようになったが,このことに気付かないまま続航し,11時00分松生丸は,防波堤灯台から296度3,850メートルの地点において,海面下に没した同浅所域内の消波堤に原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の南南東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果,松生丸は,船底に破口,機関に濡損等を生じ,地元漁船によって長浦漁港(田ノ尻地区)に引き付けられたが,のち修理費の都合により廃船処理された。

(本件発生に至る事由)
1 過去の経験から牧島西岸に沿って航行すれば大丈夫と思い,事前に同岸付近の海図を参照して水路調査を十分に行わなかったこと
2 消波堤付近に設置されていた養殖いけすが撤去されていたこと
3 消波堤が海面下に没していたこと

(原因の考察)
 本件は,水路調査を十分に行っていたなら,浅所域の存在を知って発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,過去の経験から牧島西岸に沿って航行すれば大丈夫と思い,事前に同岸付近の海図を参照して水路調査を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 以前消波堤付近に設置されていた養殖いけすが撤去されていたこと,消波堤が海面下に没していたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,熊本県牧島西岸沖において,水路調査が不十分で,同岸から延出した浅所域内の海面下に没した消波堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,熊本県牧島西岸沖において,釣り場を移動するため同岸に沿って南下する場合,同岸から延出した浅所域に向首進行することのないよう,海図を参照して危険界線で示された同浅所域の存在や位置を確かめるなど,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,過去の航行経験から牧島西岸に沿って航行すれば大丈夫と思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,同岸から延出した浅所域の存在に気付かず,同浅所域内の海面下に没した消波堤に向首進行して乗揚を招き,船底に破口,機関に濡損等を生じさせて廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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