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平成17年那審第41号
件名

漁船第五司丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年3月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平,杉崎忠志,平野研一)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第五司丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第五司丸甲板員 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板に大破口,推進器翼及び舵損傷,のち廃船処理

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月13日16時00分
 鹿児島県加計呂麻島東岸
 (北緯28度05.9分 東経129度20.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第五司丸
総トン数 8.9トン
登録長 11.94メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
(2)設備及び性能等
 第五司丸(以下「司丸」という。)は,昭和55年12月に進水し,日帰りのかつお一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で,船体中央やや船尾寄りに幅2.5メートル長さ3.5メートルで高さ1.5メートルの船員室を配し,その上層に同じ幅で長さ2.5メートル高さ1.2メートルの操舵室を設け,同室内には,前部に設けた棚の正面やや左舷側に自動操舵用ハンドル,同棚の上にGPSプロッター及びレーダーなどの航海計器を装備し,後部に当直用の長いすを設け,後壁に引き戸式の出入口を設けていた。
 そして,操舵室船尾方の長さ1.0メートルの甲板(以下「操舵室甲板」という。)は,上部に窓を設けた高さ2.0メートルの側壁と天井でおおわれ,同甲板上に立って見張りができるようになっていた。

3 事実の経過
 司丸は,A及びB両受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年4月13日01時00分鹿児島県芝漁港を発し,加計呂麻島南東方15海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで,司丸の船橋当直体制は,操業中はA受審人が自ら操船に当たる一方,芝漁港と漁場との往復の間は,主に同受審人が当直に当たり,乗組員から当直に当たる旨の申し出があれば交代して休息をとることとしており,交代するに当たっては,眠気を催した場合には報告するよう指示し,同報告があった際には,当直者と交代してA受審人が自ら当直に当たっていた。
 発航後,A受審人は,途中でB受審人と当直を交代して05時ごろ漁場に至ったのち,自ら操船に当たり,1時間ばかり漁を行っては30分ほど北東方へ漁場を移動することを繰り返しながら操業を続け,14時ごろ約1.2トンの漁獲を得たところで操業を終えて帰航することとし,14時24分皆津埼灯台から090度(真方位,以下同じ。)14.5海里の地点を発進し,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力とし,針路を267度に定めて自動操舵で進行した。
 14時50分A受審人は,皆津埼灯台から091度10.2海里の地点で,B受審人から当直に当たる旨の申し出を受け,いつものように,眠気を催したら報告するよう指示したのち当直を交代して降橋し,船員室で休息した。
 B受審人は,自ら当直交代を申し出てA受審人と交代後,操舵室内の長いすに腰を下ろした姿勢で当直に当たっていたところ,15時20分皆津埼灯台から096度5.2海里の地点に至ったとき,未明からの連続した操業でやや疲れており眠気を催すようになったものの,船長にその旨を報告せず,他の乗組員を呼んで話をしながら眠気を覚ますこととし,船員室に降りて声をかけたのち操舵室に戻った。
 その後,B受審人は,身体を動かしたことで眠気が薄れたものの,まだ少し眠気を感じており,再び長いすに腰を下ろして当直を続けると居眠りに陥るおそれがあったが,身体を動かして眠気が薄れたので居眠りすることはないものと思い,操舵室甲板に出て立った姿勢で見張りを行うなり,再び身体を動かすなりして居眠り運航の防止措置をとることなく,長いすに腰を下ろした姿勢のままでいるうちに,まもなく居眠りに陥った。
 こうして,B受審人は,15時51分皆津埼灯台に0.7海里の距離で並航し,大島海峡南口への転針予定地点となったが,居眠りしていて転針することなく加計呂麻島に向首したまま進行し,16時00分皆津埼灯台から242度1.7海里の地点において,司丸は,原針路,原速力のまま,同島東岸の浅礁に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力3の北北西風が吹き,潮候はほぼ低潮時であった。
 A受審人は,乗揚のショックで目覚め,直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船底外板に大破口を生じ,推進器翼及び舵を損傷し,来援したクレーン台船により引き下ろされたが,のち廃船とされた。

(本件発生に至る事由)
1 B受審人にやや疲れがあったこと
2 自動操舵としていたこと
3 B受審人が単独で船橋当直に就いていたこと
4 B受審人が,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
5 B受審人が,長いすに腰を下ろした姿勢のまま当直を続けたこと
6 B受審人が,眠気を催した際,船長に報告しなかったこと
7 B受審人が居眠りに陥ったこと
8 皆津埼灯台に並航しても大島海峡南口に向けて転針が行われなかったこと

(原因の考察)
 本件は,加計呂麻島東方沖合を西行中,単独の船橋当直者が居眠りに陥り,転針予定地点で転針が行われず,加計呂麻島に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 B受審人が,眠気を催した際,操舵室の長いすに腰を下ろした姿勢のまま船橋当直を続けたことは,居眠り運航の防止措置をとらなかったことの態様であり,居眠りに陥ったこと及び皆津埼灯台に並航しても大島海峡南口に向けて転針が行われなかったことは,その結果である。
 したがって,B受審人が,眠気を催した際,操舵室甲板に出て立った姿勢で見張りを行うなり,身体を動かすなりして居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人にやや疲れがあったこと及び同人が,眠気を催した際,他の乗組員を呼んで話をしながら眠気を覚まそうとして船長に報告しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件時の操業が日ごろの操業状態と大きく変わるところがなく,同人が自ら当直を申し出たものであることから,長いすに腰を下ろさなければ当直を維持できないほどの状況ではなかったと認められ,操舵室内で長いすに腰を下ろすことなく,前示の居眠り運航の防止措置をとることはできたのであり,そうしていれば本件発生には至らなかったから,いずれも本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 B受審人が単独で船橋当直に当たっていたこと及び自動操舵としていたことは,通常の運航状況であり,いずれも本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,加計呂麻島東方沖合を西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,単独の船橋当直者が居眠りに陥り,同島東岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,単独の船橋当直に就いて加計呂麻島東方沖合を西行中,眠気を催した場合,操舵室内の長いすに腰を下ろした姿勢のままで当直を続けると,居眠りに陥るおそれがあったから,操舵室甲板に出て立った姿勢で見張りを行うなり,再び身体を動かすなりして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,他の乗組員に声をかけるのに身体を動かして眠気が薄れたので,居眠りすることはないものと思い,長いすに腰を下ろした姿勢のままで当直を続けるうちに居眠りに陥り,加計呂麻島東岸に向首したまま進行して乗揚を招き,船底外板に大破口を生じ,推進器翼及び舵を損傷させ,のち廃船とさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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