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 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成18年門審第6号
件名

漁船新漁丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年3月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:新漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
推進器及び舵柱に曲損等を生じて舵機室に浸水

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月17日06時55分
 長崎県勝本港
 (北緯33度51.9分 東経129度41.4分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船新漁丸
総トン数 18トン
全長 22.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 新漁丸は,いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,平成16年4月交付の一級,特殊及び特定の各資格を担保する小型船舶操縦免許証を受有するA受審人と無資格の甲板員1人とが乗り組み,操業の目的で,船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成17年9月16日15時00分勝本港を発し,17時ごろ同港の北方17海里ばかりの漁場に到着し,以後操業にかかり,やりいか約50キログラムを漁獲したのち,翌17日05時00分若宮灯台から045度(真方位,以下同じ。)18.8海里の地点を発し,帰途に就いた。
 ところで,A受審人は,操業に際しては,船橋当直を自ら行うほか甲板員と一緒に漁労にも従事し,昼過ぎに出港して翌朝に帰港する操業形態で,当日まで連続10日間出漁していて,自宅では1日の睡眠時間が3ないし4時間しかとれず,また,操業中も30分間程度操舵室内の壁に寄りかかって睡眠をとる程度で,慢性的な睡眠不足となっていて,疲労も蓄積した状態にあった。
 漁場発進時,A受審人は,甲板員を後部の船員室で休息させ,単独の船橋当直に就き,針路を225度に定め,魚市場到着時間調整のため機関を半速力前進にかけ,10.0ノットの対地速力で,自動操舵によって航行し,操舵室のドアを閉め,舵輪の船尾側に設けられた操縦台に腰を掛けた姿勢で見張りにあたった。
 06時47分少し過ぎA受審人は,若宮灯台から045度1.2海里の地点で,陸岸に近づき右舷船首方に他船を認めたので,操舵を手動に切り替え,同時50分半わずか過ぎ同灯台から045度1,180メートルの地点で,針路を198度に転じて進行した。
 06時52分わずか過ぎA受審人は,若宮灯台から061度790メートルの地点に達したとき,連続した操業による疲労や睡眠不足から眠気を催したが,港が間近に迫っており,入航操船中に居眠りすることはないと思い,休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとることなく,同時53分わずか前,同灯台から076度640メートルの地点に達し操縦台に腰を掛けた姿勢でいたところ,間もなく居眠りに陥った。
 こうして,新漁丸は,港奥に向けて転針がなされず,いつしか舵輪を握っていた手が右舵側に動き,徐々に右転しながら続航中,06時55分若宮灯台から144度480メートルの地点において,南西方を向いたところで原速力のまま,若宮島東岸至近の岩礁に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の南西風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 A受審人は,乗揚の衝撃により目覚めて,事後の措置にあたった。
 乗揚の結果,推進器及び舵柱に曲損等を生じて舵機室に浸水し,来援した僚船により引き下ろされ,勝本町湯本に引き付けられ,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,勝本港北方において,漁場から同港に向け帰航する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,若宮島東岸に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,勝本港北方において,単独の船橋当直に就き,漁場から同港に向け帰航中,連続した操業による疲労や睡眠不足から眠気を催した場合,居眠り運航にならないよう,休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,港が間近に迫っており,入航操船中に居眠りすることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,若宮島東岸に向けて進行して乗揚を招き,推進器及び舵柱に曲損等を生じさせ,舵機室に浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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