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平成17年門審第102号
件名

貨物船日福丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年3月1日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年,西林 眞,片山哲三)

理事官
勝又三郎

受審人
A 職名:日福丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:日福丸甲板長

損害
船底中央部に凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月2日02時50分
 関門海峡西口付近白州
 (北緯33度58.7分 東経130度47.6分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 貨物船日福丸
総トン数 471トン
全長 68.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 日福丸は,平成6年1月に愛媛県今治市で進水した限定近海区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製貨物船で,本邦諸港間においてばら積み貨物の不定期輸送に従事しており,操舵室の前壁中央にジャイロコンパスのレピーターとマグネットコンパスが並び,同前壁から50センチメートル後方のコンソールスタンドには,中央にジャイロ組込型操舵装置,右舷側に主機遠隔操縦装置,左舷側にレーダー2台が配置され,同室左舷後方の海図台にはGPSプロッタが設置されていた。また,当時の喫水で,眼高は約9メートルとなり,船首端から船橋前面までが約55メートルであった。
 海上試運転成績によれば,速力が機関を回転数毎分305として11.9ノットで,このときの舵角35度における旋回径は,右旋回が213メートル,左旋回が207メートルであった。

3 事実の経過
 日福丸は,A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,船首1.38メートル船尾3.80メートルの喫水をもって,積荷の目的で,平成17年4月1日20時20分大分港を発し,関門海峡経由で長崎県松浦港に向かった。
 ところで,A受審人は,船橋当直割及び同体制を,自らが07時30分から12時まで及び19時30分から24時まで,B指定海難関係人を00時から03時まで及び12時から15時まで,一等航海士を03時から07時30分まで及び15時から19時30分までとする単独3直制と定め,入出港時,狭水道通過時には自らが昇橋して操船の指揮をとることとしていた。
 A受審人は,出港後,引き続き単独の船橋当直に就き,翌2日00時B指定海難関係人と同当直を交代する際,関門海峡東口の下関南東水道第1号灯浮標の手前で連絡するよう同人に指示したのち降橋して自室で休息し,同01時ごろ同人からの連絡で再び昇橋した。
 A受審人は,B指定海難関係人を手動操舵に当たらせて関門航路を西行し,02時31分半若松洞海湾口防波堤灯台から357度(真方位,以下同じ。)0.9海里の地点に達したとき,針路を315度に定め,11.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 ところで,A受審人は,関門港若松区に基地を置く外洋タグボートに乗船していた経験から,関門海峡西口付近を通航した経験が豊富にあり,同区沖合には藍島及び白州周辺を含む多数の浅礁が点在し,関門港響新港区西側境界線付近には,北方に女島から南東方に拡延する浅礁,中央部に中瀬,南方に横瀬及びダーガ瀬等の浅礁があり,横瀬を除く各浅礁には灯浮標が設置されていないことから,これらの浅礁に近寄らないように,関門第2航路西口沖の六連島西水路第6号灯浮標(以下,灯浮標の名称については「六連島西水路」の冠称を省略する。)付近を転針予定地点とし,筑前丸山出シ灯浮標と横瀬北灯浮標との間に向かう270度の針路線を,使用中の海図第201号(倉良瀬戸至角島)に引いていた。
 02時34分ごろA受審人は,関門第2航路を出航し,同35分半藍島港本村南2防波堤灯台(以下,「本村防波堤灯台」という。)から142度1.75海里の地点に差し掛かり,B指定海難関係人に船橋当直を行わせようとしたとき,同人が航路標識や海図を十分に活用することができない無資格者であったものの,航海当直部員の認証を受けており日福丸に約4年間乗船し船橋当直の経験が豊富であったことや,同人から関門海峡西口付近は慣れた海域であると聞いていたことから,任せておいても大丈夫と思い,転針予定地点まで在橋して転針操船の指揮をとることなく,第6号灯浮標を替わしたのち針路を270度にすること及び漁船が多いので注意することを指示して降橋し,自室で休息した。
 B指定海難関係人は,単独の船橋当直に就き,操舵輪の後ろに立った姿勢で見張りにあたり,02時36分半本村防波堤灯台から142度1.55海里の予定の転針地点に達したとき,次の予定針路である270度の方向に漁船が存在したことや,西北西方面が危険な水域であることを知らなかったことから,同漁船を替わしてから転針すればよいと考え,漁船が存在して転針が困難なことをA受審人に報告せず,引き続き315度の針路で続航した。
 02時40分B指定海難関係人は,本村防波堤灯台から148度0.9海里の地点に達したとき,西方に漁船がいなくなったことから,針路を270度に転じたものの,予定針路線から北方に0.5海里外れており,危険水域付近を航行する状態となったが,無資格であって船位の確認が行えず,筑前丸山出シ灯浮標の南側に向けるなどの針路修正がなされず,白州南方に拡延する浅礁域に近寄る状況のまま進行した。
 こうして,A受審人は,B指定海難関係人から報告がなかったことから,転針予定地点で転針せずに危険水域付近を航行する状態となっていることに気付かないまま休息していた。
 ところで,白州南方には,前日の4月1日23時40分白州灯台から178度590メートルの地点に乗り揚げた貨物船くいーんえいと(以下,「第三船」という。)が,船首をほぼ南に向けた状態で停止していた。
 02時44分B指定海難関係人は,本村防波堤灯台から198度0.8海里の地点に達したとき,右舷船首15度1.1海里のところに舷灯の紅灯を見せた第三船を初めて認め,同船が航行中であって自船の前方を左方に横切るものと考え,これを避けるつもりで針路を280度に転じて続航した。
 02時49分わずか前B指定海難関係人は,白州灯台から152度0.5海里の地点に達したとき,第三船の方位が左方に変化しないことから不審に思い,第三船の後方を通過するつもりで右舵をとることにしたものの,同方向に浅礁域があることを知らず,同船を左舷側に見る310度の針路に転じたことから,白州南方に拡延する浅礁域に向かって進行する態勢となったが,このことを知る由もなく,02時50分白州灯台から167度580メートルの同浅礁に,日福丸は,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
 A受審人は,自室で休息中,乗揚の衝撃で乗り揚げたことを知り,直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船底中央部に凹損を生じたが,自力離礁し,のち第1種中間検査の入渠時に修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,転針予定地点まで在橋して転針操船の指揮をとらずに,無資格のB指定海難関係人に船橋当直を行わせたこと
2 B指定海難関係人が,転針予定地点に達したとき,漁船が存在して転針が困難なことを船長に報告しなかったこと
3 船位の確認が行えないまま危険水域を航行したこと
4 紅灯を点けた第三船が白州南方に乗り揚げていたこと
5 B指定海難関係人が,白州南方に拡延する浅礁域に向けて進行したこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,北九州市北岸寄りを西行する予定で関門第2航路西口を出航した際,船位の確認を十分に行っていれば,白州南方に拡延する浅礁域に近付くことはなく,発生しなかったと認められる。
 したがって,A受審人が,無資格のB指定海難関係人に船橋当直を行わせようとしたとき,同人にとって慣れた海域であったことから,任せておいても大丈夫と思い,転針予定地点まで在橋して転針操船の指揮をとらずに同人に船橋当直を行わせたことは,本件発生の原因となる。また,B指定海難関係人が,転針予定地点に達したとき漁船が存在して転針が困難なことを船長に報告せず,船位の確認が行えないまま危険水域を航行し,白州南方に拡延する浅礁域に向けて進行したことは,本件発生の原因となる。
 紅灯を点けた第三船が白州南方に乗り揚げていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実ではあるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,北九州市北岸寄りを西行する予定で関門第2航路を出航した際,船位の確認が不十分で,白州南方に拡延する浅礁域に向けて進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,転針予定地点まで在橋して転針操船の指揮をとらずに無資格者に船橋当直を行わせたことと,船橋当直者が,転針予定地点に達したとき,転針が困難であることを船長に報告せず,船位の確認が行えないまま危険水域を航行し,第三船を替わそうとして浅礁域に向けて進行したこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は,夜間,関門第2航路西口を出航中,北九州市北岸寄りを西行する予定で転針地点を決め,無資格者に船橋当直を行わせようとする場合,西北西方面に浅礁が点在する海域であったから,転針時に船位確認ができるよう,転針予定地点まで在橋して転針操船の指揮をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,B指定海難関係人にとって慣れた海域であったことから,任せておいても大丈夫と思い,転針予定地点まで在橋して転針操船の指揮をとらなかった職務上の過失により,同指定海難関係人が,同予定地点での転針が困難であったことから転針せず,船位の確認が行えないまま危険水域を航行することとなり,白州南方に拡延する浅礁域に向けて進行し,乗揚を招き,船底中央部に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,単独の船橋当直に就き,関門海峡西口付近を西行中,転針予定地点に達したとき,同地点での転針が困難なことを船長に報告せずに,危険水域を航行し,乗揚中の第三船を替わそうとして白州南方に拡延する浅礁域に向けて転舵進行したことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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