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平成17年広審第129号
件名

貨物船第十東光丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年3月24日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一,川本 豊,吉川 進)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第十東光丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船首船底外板に破口,推進器翼に曲損等

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月26日13時40分
 安芸灘
 (北緯34度08.7分 東経132度45.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十東光丸
総トン数 199トン
全長 49.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 第十東光丸(以下「東光丸」という。)は,平成8年11月に進水し,限定沿海区域を航行区域とする船首楼及び船尾楼付きの船尾船橋型の貨物船で,専ら国内諸港間においてパルプをしぼった水溶液であるリグニン溶液の輸送に従事していた。
 操舵室は,中央部に操舵スタンドが,その右舷側にエンジンコンソールが,左舷側にレーダー2台がそれぞれ備えられていたが,居眠り防止装置は設備されていなかった。
 操縦性能は,航海速力が機関を回転数毎分352として10.5ノットで,船体部海上公試運転成績書写によると,機関を全速力前進にかけて11.4ノットのとき,左旋回及び右旋回ともに最大縦距が約120メートル,最大横距が約110メートルで,360度回頭するのに1分47秒を要し,全速力後進を発令して船体が停止するまでに247メートル航走し,時間は1分15秒を要した。

3 就労状況について
 船橋当直は,船長とA受審人とによる単独6時間交替制で,06時から12時まで及び18時から24時までを船長が,00時から06時まで及び12時から18時までをA受審人がそれぞれ入直するもので,次直の者が交替時刻の30分前に昇橋して引継ぎなどを行っていた。
 荷役作業は,陸上の工場が休日となる土曜日,日曜日及び祝日に行われることはなく,本件前の4月23日が土曜日,翌24日が日曜日であったことから,大阪港で着岸していたものの同作業はなく,越えて26日山口県岩国港に入港したあと08時30分から10時40分まで積荷役作業が行われた。
 A受審人は,大阪港から岩国港までの航海中はいつものように船橋当直に,岩国港では入港作業及び積荷役作業の監視にそれぞれあたり,船橋当直や荷役作業などがないときには適宜休息をとっていたことから,疲労が蓄積した状態でも,睡眠不足の状態でもなかった。

4 事実の経過
 東光丸は,船長B及びA受審人ほか2人が乗り組み,リグニン溶液400トンを積載し,船首2.52メートル船尾3.42メートルの喫水をもって,平成17年4月26日10時50分岩国港を発し,名古屋港に向かった。
 A受審人は,11時30分岩国港の港界付近で昇橋して船長と引継ぎを行ったのち,単独の船橋当直に就いて広島湾を南下し,鹿老渡小瀬戸を経由して安芸灘に入り,12時53分少し前安居島灯台から281度(真方位,以下同じ。)5.2海里の地点で,針路を065度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で,広島県上蒲刈島南方沖合の転針予定地点に向けて進行した。
 定針したあとA受審人は,操舵スタンド後方に置いた背もたれ及び肘掛け付きのいすに腰を掛けて見張りにあたり,13時15分少し過ぎ安居島灯台から330度3.0海里の地点に差し掛かったころ,海上が平穏で,周囲に航行の妨げとなる他船が見えなかったことから気が緩み,眠気を催したが,まさか居眠りすることはあるまいと思い,いすから立ち上がって操舵室内を移動するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,同じ姿勢で見張りを続けるうち,いつしか居眠りに陥った。
 A受審人は,13時26分鴨瀬灯台から244度2.4海里の転針予定地点に差し掛かったが,居眠りに陥っていたので,このことに気付かず,転針することができないまま,鴨瀬灯台東方約200メートル付近に広がる干出の高さ2.1メートルの浅所に向けて続航し,13時40分鴨瀬灯台から090度200メートルの地点において,東光丸は,原針路,原速力のまま,同浅所に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 乗揚の結果,船首船底外板に破口及び推進器翼に曲損等を生じたが,来援した引船2隻によって引き下ろされ,上蒲刈島南側の入り江に一時錨泊して応急措置をとったあと,広島県呉港に引き付けられ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 居眠り防止装置を設備していなかったこと
2 自動操舵のまま,いすに腰を掛けて見張りにあたっていたこと
3 海上が平穏で,周囲に航行の妨げとなる他船が見えなかったので,気が緩んで眠気を催したこと
4 居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,居眠り運航の防止措置を十分にとっていれば居眠りに陥ることはなく,予定の転針を行うことができ,乗り揚げなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,海上が平穏で,周囲に航行の妨げとなる他船が見えなかったので,気が緩んで眠気を催した際,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 居眠り防止装置を設備していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。
  しかしながら,海難防止の観点から,同装置の設置が求められる。
 自動操舵のまま,舵輪後方のいすに腰を掛けて見張りにあたっていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,安芸灘において,広島県上蒲刈島南方沖合を東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,転針予定地点で転針が行われないまま,鴨瀬灯台東方の浅所に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,安芸灘において,単独の船橋当直にあたり,広島県上蒲刈島南方沖合を東行中,海上が平穏で,周囲に航行の妨げとなる他船が見えなかったことから気が緩んで眠気を催した場合,居眠りに陥ることがないよう,立ち上がって操舵室内を移動するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同受審人は,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,転針予定地点で転針できないまま,鴨瀬灯台東方の浅所に向け進行して同浅所への乗揚を招き,船首船底外板に破口及び推進器翼に曲損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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