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平成17年神審第109号
件名

漁船昌栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年3月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄,橋本 學,村松雅史)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:昌栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:昌栄丸漁労長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関室付近の船底部に破口,プロペラ軸及び同翼に曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月27日23時00分
 高知県甲浦港南方
 (北緯33度31.0分 東経134度17.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船昌栄丸
総トン数 13トン
登録長 14.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 496キロワット
(2)設備及び性能等
 昌栄丸は,昭和54年5月に進水した,かつお一本釣り及びまぐろ延縄各漁業に従事する小型第1種のFRP製漁船で,平成4年2月に中古で購入されて以降,毎年4月下旬から8月上旬まではかつお一本釣り漁に,11月ごろから翌年4月中旬まではまぐろ延縄漁に使用されていた。
 操舵室には,前部中央に磁気コンパス,左に操舵装置,右にレーダー及び機関操縦装置が配置されているほか,GPSプロッタと無線電話等が装備され,コンパス後方に床からの高さ約70センチメートルの背もたれ付きのいすが置かれていた。
 通常の航海速力は,主機回転数毎分1,450ないし1,500の8ないし9ノットであった。

3 事実の経過
 昌栄丸は,A及びB両受審人ほか1人が乗り組み,船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水をもって,かつお一本釣り漁の目的で,平成17年4月27日04時00分高知県甲浦港を発航し,途中,徳島県浅川港に寄港して餌の活きいわしを積み込み,07時00分同港を発し,同港東方沖合15海里付近の漁場に向かった。
 ところで,昌栄丸では,漁労長のB受審人が漁場の決定など操業全般についての指揮をとっており,操業中は,同人が単独で船橋当直に当たり,漁場への往復時には,A受審人又はB受審人が2ないし3時間交替で単独の船橋当直に就いていた。
 B受審人は,08時30分ごろ目的の漁場に到着し,魚群を探索しながら操業を行い,19時ごろ操業を終えて手仕舞したのち,19時20分阿波竹ケ島灯台(以下「竹ケ島灯台」という。)から103度(真方位,以下同じ。)33.4海里の地点を発進し,甲浦港に向けて帰航の途につき,針路を290度に定め,機関を全速力前進にかけ,折からの海潮流により左方に7度ばかり圧流されながら,9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵によって進行した。
 B受審人は,連日,不漁が続いていたことを気にして前日よく眠れないまま出漁し,甲浦港発航後,朝,昼及び夕食のときに各10分ほどの休息をとったのみで,早朝からの操船に引き続き漁場での魚群探索や操業指揮に当たっていたところ,夕刻になってようやく大きな魚群にあたり,平素より3時間ほど長く操業を続けていたことから,漁場を発進するころには疲労を覚える状態となっていた。
 定針後,間もなく,A受審人は,B受審人と交替して船橋当直に就き,19時50分ごろ竹ケ島灯台から103度28.7海里の地点で,食事を終えたB受審人が再度昇橋したとき,引き続き自らが当直に就く旨を伝えたところ,翌日の段取りなどについて僚船と連絡する必要があるということで,同人に当直を任せることにした。その際,A受審人は,B受審人が連日の操業に加え,早朝からの操船に引き続いて長時間の操業に従事していたことから,当直中に居眠りに陥るおそれがあったが,本船所有者である実兄の漁労長に対して,あえて言うまでもないと思い,眠気を催したときには,速やかに報告するよう指示することなく,B受審人と当直を交替して降橋した。
 単独で当直に就いたB受審人は,磁気コンパス後方でいすに腰を掛けて見張りに当たって,同一針路,速力で続航するうち,21時30分竹ケ島灯台から103度13.0海里の,甲浦港入口まで約13海里の地点に達したとき,疲れから眠気を催すようになったが,あと1時間半ほどで入港となるので,何とか我慢できるものと思い,直ちにこのことをA受審人に報告しなかった。
 その後,B受審人は,眠気を我慢しながら当直を続け,22時00分竹ケ島灯台から103度8.2海里の地点に至ったとき,針路を甲浦港の入口付近に向ける278度に転じ,再びいすに腰を掛けて前路を見張っているうち,いつしか居眠りに陥った。
 こうして,昌栄丸は,左方に5度ばかり圧流されながら,9.5ノットの速力で,甲浦港南方の浅礁に向かって進行し,23時00分竹ケ島灯台から224度2.1海里の地点において,原針路,原速力のまま浅礁に乗り揚げた。
 A受審人は,衝撃を感じ,急いで操舵室に行き,事後の措置にあたった。
 当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,付近には約1.1ノットの南西流があった。
 乗揚の結果,機関室付近の船底部に破口,プロペラ軸及び同翼に曲損を生じたが,僚船の援助を得て離礁し,甲浦港に引きつけられ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,長時間の就労で疲れていたB受審人に船橋当直を任せる際,あえて言うまでもないと思い,眠気を催したときには速やかに報告するよう指示しなかったこと
2 B受審人が,いすに腰を掛けて見張りに当たっていたこと
3 B受審人が,眠気を催したとき,あと1時間半ほどで入港となるので,何とか我慢できるものと思い,直ちに船長に報告しなかったこと
4 B受審人が,居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,漁場から甲浦港に向けて帰港中,単独の船橋当直者が疲れから居眠りに陥り,同港南方の浅礁に向かって進行したことによって発生したものであり,船橋当直者が,眠気を催したとき,適切な居眠り運航の防止措置をとっていたなら,居眠りに陥らずに乗揚を回避できたものと認められる。
 また,船長であるA受審人が,漁労長であるB受審人に当直を任せる際,同人に対し,眠気を催すようになったときには,速やかに報告するよう指示しておれば,一方,B受審人が,単独で船橋当直中,眠気を感じたとき,直ちにA受審人に報告していれば,同人と当直を交替するなどの措置をとることにより,本件発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,長時間の就労で疲れていたB受審人に船橋当直を任せる際,あえて言うまでもないと思い,眠気を催したときには速やかに報告するよう指示しなかったこと及びB受審人が,眠気を催したとき,あと1時間半ほどで入港となるので,何とか我慢できるものと思い,直ちに船長に報告することなく,居眠りに陥ったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 B受審人が,いすに腰を掛けて見張りに当たっていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,操業を終えて高知県甲浦港に向けて帰港中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港南方の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,漁労長に船橋当直を任せる際,眠気を催したときには,速やかに報告するよう指示しなかったことと,漁労長が眠気を催したとき,直ちに船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,単独で船橋当直に就いて高知県甲浦港に向けて帰港中,疲れから眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,直ちにA受審人に報告を行うべき注意義務があった。しかるに,B受審人は,あと1時間半ほどで入港となるので,何とか我慢できるものと思い,直ちに報告を行わなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,甲浦港南方の浅礁に向首進行して乗揚を招き,昌栄丸の機関室付近の船底部に破口,プロペラ軸及び同翼に曲損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,操業を終えて高知県甲浦港に向けて帰港中,B受審人に単独の船橋当直を任せる場合,同人が連日の操業に加え,早朝からの操船及び長時間の操業により,当直中に疲れから居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,眠気を催したときには,速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに,A受審人は,実兄の漁労長に対して,あえて言うまでもないと思い,眠気を催したときには,速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により,B受審人が眠気を催したとき報告が得られず,居眠り運航となって乗揚を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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