日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成17年函審第52号
件名

貨物船聖陽丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年2月22日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(堀川康基)

副理事官
福島正人

受審人
A 職名:聖陽丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
左舷側船底外板に亀裂を伴う凹損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月10日13時10分
 北海道函館港
 (北緯41度47.6分 東経140度41.7分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船聖陽丸
総トン数 498トン
全長 69.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 聖陽丸は,平成8年10月に進水した,主として採石や残土を輸送する船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人(昭和51年1月乙種一等航海士免許取得)ほか3人が乗り組み,残土1,550トンを積載し,船首3.40メートル船尾4.75メートルの喫水をもって,平成16年12月8日13時45分千葉港を発し,北海道函館港に隣接するBシーバースに向かった。
 ところで,函館港の中央部には,同港北部から南に延びる北防波堤と,南部陸岸から北に延びる西防波堤及び同防波堤の先端から更に北西方に延びた西副防波堤とにより西方に開く港口が形成されており,函館港西副防波堤灯台(以下,灯台の名称中,函館港を省略する。)から215度(真方位,以下同じ。)300メートルばかりの地点から307度方向へ,ケーソン27函で形成された,基本水準面上の高さ2.1メートル長さ400メートルの島防波堤が築造され,その北西端に島防波堤灯台が設置されていたが,平成16年9月8日北海道西方海上を北上した大型の台風18号により,その北西端付近のケーソン1函と中央部分のケーソン1函を残し,他のケーソン及び島防波堤灯台は転倒して水没した。
 このことは,早期に水路通報等により,島防波堤付近には6個の灯付浮標に囲まれた航泊禁止区域が設定されていることが周知されていた。
 A受審人は,函館港の入航経験がこれまでに10数回あり,港口に島防波堤が築造されていることは十分に承知しており,入航に際してはその北西端を目標とし,最近では平成16年9月3日に入航していて,その後台風で同防波堤が転倒水没していたものの,レーダー及び周辺の状況から船位を確認して航行することができた。
 翌々10日12時40分A受審人は,大鼻岬の南方1.7海里ばかりの地点で入航操船のため昇橋して船橋当直を交替し,荷役待ち時間が十分にあったことから,乗組員の休息を考えて函館港で着岸待機するため,12時52分北防波堤灯台から197度3.55海里の地点で,針路を同港に向かう010度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.1ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 13時07分A受審人は,北防波堤灯台から220度1,640メートルの地点に達したとき,針路を港口に転ずることとしたが,慣れた港で着岸後もゆっくりできることなどを考え,操船の緊張を欠いていたところ,右舷船首方1,100メートルばかりのところに約230メートルの間隔をおいて2函のケーソンを認め,左側が傾斜し,右側の直立していたケーソンを島防波堤の北西端と勘違いし,両ケーソンの間を航行して入航できるものと思い,操舵室左舷側の海図台に広げていた海図W6(函館港)を見るとか,右舷方の西防波堤の視認模様などで船位を十分に確認することなく,島防波堤が通常の状態でないことに気付かないまま,手動操舵に切り替え,針路を両ケーソンの中間に向く038度に転じて続航した。
 聖陽丸は,同じ針路及び速力で進行中,13時09分半少し過ぎA受審人が初めて島防波堤が転倒していることに気付き,直ちに機関を中立回転としたが,13時10分北防波堤灯台から223度610メートルの地点において,海中に転倒水没したケーソンに乗り揚げ擦過した。
 当時,天候は曇で風力2の東南東風が吹き,潮候は高潮時であった。
 乗揚の結果,左舷側船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,北海道函館港へ入航中,島防波堤北西端を転針目標として港口に針路を転じる際,船位の確認が不十分で,台風によって転倒水没した同防波堤の残存ケーソンの間に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,北海道函館港に入航中,島防波堤北西端を転針目標として港口に針路を転じる場合,前路に認めた2函のケーソンが転針目標の同防波堤であるかどうかが分かるよう,海図台に広げていた海図を見るとか,右舷方の西防波堤の視認模様などで船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかし,同受審人は,認めたケーソンのうち左側が傾斜し,右側の直立していたケーソンを島防波堤の北西端と勘違いし,両ケーソンの間を航行して入航できるものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同防波堤が通常の状態でないことに気付かないまま,台風によって転倒水没した同防波堤のケーソンに向け進行して乗揚を招き,左舷側船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION