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平成17年那審第34号
件名

漁船第三十五正章丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年1月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平野研一,加藤昌平,土肥 猛)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第三十五正章丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板全般及び甲板上構造物を大破,その後転覆して全損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月23日00時10分
 沖縄県鳥島北岸
 (北緯26度35.7分 東経126度49.9分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 漁船第三十五正章丸
総トン数 9.89トン
登録長 11.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 205キロワット
(2)設備及び性能等
 第三十五正章丸(以下「正章丸」という。)は,昭和56年11月に進水した一層甲板型FRP製漁船で,船体中央部に操舵室を備え,同室船尾側に設けた引き戸式出入口の外側の右舷側に舵輪を設置し,同室内に通路を挟んで左右両舷に床面からの高さが30センチメートルの棚を設け,右舷側の棚に船首側からレーダー一体型の自動衝突予防援助装置,コンパス及び自動操舵装置,左舷側に移動式の遠隔管制器,無線電話及び同舷側天井にGPSプロッターをそれぞれ配置し,通路に寝具を備え,休息の際は簡易的に寝台として使用していた。航海速力は,機関回転数毎分1,300の8.0ノットであった。

3 事実の経過
 正章丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,まぐろはえ縄漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年7月20日11時00分沖縄県糸満漁港を発し,翌21日05時00分同漁港北西方沖合57海里の漁場に至って操業を開始した。
 A受審人は,平素前示漁港を基地として1週間から10日の予定で出漁し,連日05時ごろ投縄し,3時間の縄待ちののち,揚縄を開始して21時ごろまで操業したのち,投縄地点に戻るため潮上りを行うこととしており,縄待ち及び揚縄したのち投縄を開始するまでの間わずかな休息をとり,潮上りの際は単独で当直に当たっていたことから,長時間の操業で疲労が蓄積した状態となっていた。
 翌22日21時00分A受審人は,2回目の操業を終え,缶ビール1缶とともに夕食を取ったのち,投縄地点に戻ることとし,22時00分沖縄県鳥島の北方沖合約13海里の地点を発し,自動衝突予防援助装置の接近警報を切って1人で当直に当たり,付近で漂泊していた僚船と無線連絡を行いながら南下した。
 22時10分A受審人は,鳥島の19メートル島頂(以下「島頂」という。)から340度(真方位,以下同じ。)12.0海里の地点で,投縄地点に向けて針路を160度に定め,機関を半速力前進にかけ,6.0ノットの対地速力で,操舵室前部に立って自動操舵により進行した。
 定針したのち,A受審人は,長時間の操業で疲労が蓄積した状態だったので,操舵室通路後部の床に座り込んで右舷側の棚にもたれ掛かるうち,眠気を催すようになったものの,1時間ほどの移動なので,居眠りすることはあるまいと思い,機関を停止し漂泊して休息するなど,居眠り運航の防止措置をとることなく当直を続けるうち,同室通路後部で足を船首方に頭部を船尾方に向けて居眠りに陥った。
 23時12分A受審人は,島頂から160度5.9海里の地点に至り,投縄地点に達したことも,翌23日00時05分鳥島北岸のさんご礁が船首方0.5海里に迫っていることにも気付かずに居眠りを続け,同岸に向首したまま続航中,00時10分正章丸は,島頂から052度100メートルの地点のさんご礁に,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力3の北風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は,衝撃で目覚めて乗り揚げたことを知り,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船底外板全般及び甲板上構造物を大破し,その後転覆して全損となり,A受審人及び乗組員は,来援した海上保安庁の巡視艇により救助された。

(本件発生に至る事由)
1 長時間の操業で疲労が蓄積した状態であったこと
2 自動衝突予防援助装置の接近警報を切っていたこと
3 自動操舵で進行したこと
4 発進前の夕食時に飲酒したこと
5 機関を停止し漂泊して休息するなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
6 床に座り込んで右舷側の棚にもたれ掛かったこと
7 居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,投縄地点に戻るため南下中,当直者が居眠りに陥ったことによって発生したもので,長時間の操業で疲労が蓄積した状態であったとしても,機関を停止し漂泊して休息するなどをしていれば,本件は発生しなかったものと思われる。
 したがって,A受審人が,機関を停止し漂泊して休息するなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 長時間の操業で疲労が蓄積した状態であったこと及び床に座り込んで右舷側の棚にもたれ掛かったことは,本件乗揚に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 発進前の夕食時に飲酒したことは,本件乗揚に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは船舶職員及び小型船舶操縦者法に照らし,違法状態で航行させたものであり,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 自動衝突予防援助装置の接近警報を切っていたこと及び自動操舵で進行したことは,いずれも本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,沖縄県鳥島北方沖合を投縄地点に戻るため南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同島北岸のさんご礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,沖縄県鳥島北方沖合を投縄地点に戻るため南下中,長時間の操業で疲労が蓄積した状態であったから,居眠り運航に陥らないよう,機関を停止し漂泊して休息するなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,1時間ほどの移動なので,居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,操舵室通路後部の床に座り込んで右舷側の棚にもたれ掛かったまま当直を続け,その後足を船首方に,頭部を船尾方に向けて居眠りに陥って乗揚を招き,船底外板全般及び甲板上構造物を大破させ,転覆ののち全損とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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