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平成17年広審第115号
件名

貨物船第一新海丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年1月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(川本 豊,黒田 均,米原健一)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第一新海丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船体前部船底外板に凹損及び擦過傷

原因
船橋当直維持措置不十分

主文

 本件乗揚は,船橋当直維持の措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月8日19時50分
 東京湾観音埼沖合
 (北緯35度16.0分 東経139度44.0分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 貨物船第一新海丸
総トン数 199トン
全長 59.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット
(2)設備及び性能等
 第一新海丸(以下「新海丸」という。)は,昭和63年8月に進水した,操船位置から船首端までの長さが47.5メートル,眼高が8.0メートルの船橋前面に貨物倉1個を有する船尾船橋型貨物船で,航海計器としてはレーダー1台及び衛星航法装置を装備していた。そして,専ら新居浜港から名古屋港及び千葉港向けの袋詰め工業薬品類の輸送や千葉港から名古屋港及び大阪港向けの合成樹脂の輸送などにあたっていた。

3 事実の経過
 新海丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,合成樹脂519トンを積載し,船首2.12メートル船尾3.52メートルの喫水をもって,平成16年4月8日17時00分千葉港を発し,名古屋港に向かった。
 ところで,A受審人は,25年くらい前から持病の治療を続けており,乗船中は血糖値を測定したり1日3回インスリンの注射をしたりするほか,体がふらつくときなどには糖分を補給するなどして自身で健康管理を行って就労していたが,過去に2回ばかり停泊中に意識を喪失することがあった。そして,同受審人は,東京湾を航行するに際して,単独で船橋当直にあたると,持病により意識を喪失して船橋当直が維持されないおそれがあったが,発航前にインスリンの注射を打ったので大丈夫と思い,甲板員と2人で当直にあたるなど船橋当直維持の措置を十分に行わず,浦賀水道を通過するまで自身が単独で船橋当直にあたる体制とした。
 A受審人は,発航操船に引き続いて単独で船橋当直にあたって東京湾を航行し,18時00分川崎人工島風の塔を右舷側に通過するころ食パン2枚とバナナ2本を食べて糖分の補給を行い,18時50分観音埼灯台から351度(真方位,以下同じ。)9.8海里の地点に達したとき,針路を205度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 A受審人は,定針したころ操舵室前面の右舷側のテレビをつけて天気予報を見ながら続航し,19時00分観音埼灯台から345度8.7海里の地点において,気象情報を確認したのでテレビを消したとき突然意識を喪失した。
 新海丸は,その後針路が保持されない状態で続航し,19時05分観音埼灯台から341度8.1海里の,浦賀水道航路北口に向かう転針地点に達したものの予定の転針が行われず,緩やかに左回頭しながら観音埼沖合に向かう態勢となり,19時50分観音埼灯台から320度1,600メートルの浅瀬に145度の針路及び原速力で乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は,乗揚時にも意識が回復せず,その後病院に運ばれた。
 乗揚の結果,船体中央部から前方の船底外板に凹損及び擦過傷を生じたが,翌9日06時10分救助船によって引き降ろされ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 持病の治療を続けながら乗船していたこと
2 2人当直とするなど船橋当直維持の措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,東京湾を航行する際,甲板員と2人で当直にあたるなど船橋当直維持の措置をとっておれば,A受審人が突然意識を喪失しても甲板員が適切な措置をとることができ,発生していなかったと認められる。
 したがって,A受審人が,甲板員と2人で当直にあたるなど,船橋当直維持の措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,持病の治療をしながら乗船していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から治療を十分に行って船橋当直を維持し得る健康状態で乗船するよう是正されるべきである。

(海難の原因)
 本件乗揚は,東京湾を航行する際,船橋当直維持の措置が不十分で,観音埼沖合の浅瀬に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,東京湾を航行する場合,持病により意識を喪失するおそれがあったから,甲板員と2人で当直にあたるなど船橋当直維持の措置を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,発航前にインスリンの注射を打ったので大丈夫と思い,船橋当直維持の措置を十分に行わなかった職務上の過失により,単独で当直中に意識を喪失し,その後針路が保持されないまま進行して観音埼北西方沖合の浅所への乗揚を招き,船体前部の船底外板に凹損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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