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平成17年広審第80号
件名

モーターボートジーワイエス乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年1月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均,吉川 進,米原健一)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:ジーワイエス船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部大破,のち廃船処理
船長が肋骨骨折,同乗者3人が骨折など

原因
針路選定不適切

主文

 本件乗揚は,針路の選定が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月13日20時42分
 愛媛県平内島北西方沖合
 (北緯34度17.5分 東経133度09.6分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 モーターボートジーワイエス
全長 7.58メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 147キロワット
(2)設備及び性能等
 ジーワイエス(以下「ジー号」という。)は,平成9年に建造されたFRP製プレジャーボートで,レーダーを装備していなかった。
 また,機関を回転数毎分3,500にかけたときの速力は30ノットで,増速中は船首部が浮上して船首方に死角を生じるものの,20ノット以上の速力になると船体は滑走状態となって死角は解消された。
 操縦性能は,旋回径が船の長さの約3倍であった。

3 事実の経過
 ジー号は,A受審人が1人で乗り組み,知人3人を同乗させ,愛媛県岩城島に送る目的で,船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,平成16年6月13日20時40分広島県土生港を発し,岩城島の長江港に向かった。
 土生港の防波堤を替わしたA受審人は,20時40分少し過ぎ土生港島前防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から295度(真方位,以下同じ。)1,260メートルの地点において,針路を岩城島北部にある造船所の灯火にほぼ向首し,甑島を左方に約200メートル離す195度に定め,機関を20.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)にかけ,所定の灯火を表示し,手動操舵により進行した。
 ところで,A受審人は,ジー号をレジャー目的などで使用しており,付近海域の航行経験が豊富にあったことから,愛媛県平内島西方には浅所が拡延し,その北部に高さ9メートルで無灯火の甑島が存在していることを承知していたので,土生港から長江港に向かうにあたり,同島を左方に十分離すため直行針路とせず,前示の造船所に向けていったん南下して同造船所に接近したのち左転する針路をとっていた。
 A受審人は,舵輪後方のいすに腰掛け,同乗者をその左方と後方に立たせ,他の1人を後部座席に腰掛けさせていたところ,20時41分少し過ぎ同乗者から忘れ物をしたので土生港に引き返してほしい旨の要請を受け,防波堤灯台から264度1,320メートルの地点で,10ノットに減速し,右舵をとって針路を反転した。
 間もなく,A受審人は,同乗者が翌日忘れ物を取りに行くよう考え直したので長江港に向かうこととし,再び右舵をとって反転したが,船体が滑走状態になってから船首目標としていた造船所の灯火に向首すれば大丈夫と思い,直ちに同灯火に向首するなど,針路を適切に選定することなく,20時42分わずか前防波堤灯台から262度1,190メートルの地点で,139度の針路として増速し,甑島に向首していることに気付かないで続航した。
 20時42分A受審人は,防波堤灯台から259度1,150メートルの地点において,原針路のまま,約20ノットの速力となったとき,甑島に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候はほぼ高潮時で,視界は良好であった。
 乗揚の結果,船首部を大破し,のち廃船処理された。また,A受審人が肋骨骨折を,同乗者3人が4箇月半から2週間の加療を要する骨折などを負った。

(本件発生に至る事由)
1 船体が滑走状態になってから船首目標としていた造船所の灯火に向首すれば大丈夫と思い,針路の選定を適切に行わなかったこと
2 20.0ノットの速力で航行したこと

(原因の考察)
 本件は,針路の選定を適切に行っておれば,船首目標としていた造船所の灯火に向首して進行し,甑島への乗揚を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,船体が滑走状態になってから船首目標としていた造船所の灯火に向首すれば大丈夫と思い,針路の選定を適切に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 20.0ノットの速力で航行したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,広島県土生港から愛媛県長江港に向け南下中,所用でいったん針路を反転し,再び右舵をとって反転した際,針路の選定が不適切で,同県平内島北西方の甑島に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独で操舵と見張りに当たり,広島県土生港から愛媛県長江港に向け南下中,所用でいったん針路を反転し,再び右舵をとって反転した場合,直ちに船首目標としていた造船所の灯火に向首するなど,針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船体が滑走状態になってから同灯火に向首すれば大丈夫と思い,針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,甑島に向首したまま進行して同島への乗揚を招き,船首部を大破して廃船処理され,自らが肋骨骨折を,同乗者3人が4箇月半から2週間の加療を要する骨折などを負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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